外事警察が今さら「北朝鮮工作員」を逮捕した理由
在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の幹部養成機関・朝鮮大学校(東京・小平市)の元男性教員を、警視庁公安部が昨年12月に詐欺容疑で逮捕。「北朝鮮の工作員だった」と発表して、注目を集めている。
男性は、北朝鮮の工作機関「225局」のエージェントとして、韓国国内の北朝鮮シンパらと接触。政財界の情報収集や、反体制活動に関わる秘密指令を伝え、工作資金を渡すなどしていたという。
しかし、こうした情報は今になって明らかになったものではない。225局の工作員が日本で活動していることは、かなり前から知られていた。2011年に韓国で摘発され超大型スパイ事件「旺載山(ワンジェサン)事件」の公判資料などには、北朝鮮工作員らが名指しで登場。日本のエージェントと東京・多摩地区で接触していた事実が、克明に指摘されているのだ。
(参考記事:韓国でつかまった北朝鮮スパイが「東京多摩地区」で会っていた人物とは!?)
警視庁が今になって元教員を摘発したことに、筆者などは「どうしちゃったのかな?」と思わざるを得ない。良い悪いの問題ではなく、警察首脳に何か心境の変化でもあったのか、と感じられるのだ。
というのも、外事警察は近年、この手の事件にはそっぽを向いてきた。どちらかと言えば、北朝鮮との全面貿易禁止を打ち出した日本政府の独自制裁を受けて、中古タイヤやニット生地、冷凍タラ、壁紙、ファンデーションなど、いささか「小粒」な製品の不正輸出事件の摘発に力を振り向けてきた。その理由は第1次安倍内閣のときに「何でもいいから片っ端から北朝鮮の事件をやれ!」との号令がかかったからだ。
(参考記事:総連捜査の深層…公安が「マツタケ」にこだわる理由とは!?)
そして、その裏にはもちろん、警察庁キャリアの「得点かせぎ」があった。時間と人手のかかるスパイ事件より、追跡が比較的容易な不正輸出事件を数多く挙げることで、出世につなげてきたのである。
(参考記事:対北インテリジェンスの現場を疲弊させる「内なる敵」)
そしてその結果、北朝鮮に対して最も強硬であるはずの安倍政権の下で、外事警察の捜査能力が低下するという皮肉すぎる現象が起きた。今後、日本の対北インテリジェンスはどうなってしまうのだろう、と憂えていたときに、今回の事件である。どこかで何らかの変化が起きたのだろうか……と、そんなことを考えていたら、社会部記者から次のような指摘を受けた。
「デイリーNKジャパンが、『対北情報戦の内幕』という連載で、外事警察の内情についてケチョンケチョンに書いたじゃないですか。あれ読んで激怒した捜査幹部が『高英起ごときにこんなこと書かれて、黙っていられるか!』と言って、奮起したんです」
真偽のほどは分からないが、とりあえずこういう噂があるということだ。筆者は何と言われようとも結構なのだが、重要な事実関係を指摘しておきたい。あの連載は私が書いたのではなく、ジャーナリストの三城隆氏の手になるものである。