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いまが旬 「俳優組」ジャニーズ・風間俊介の独自の存在感

太田省一社会学者
(写真:アフロ)

「俳優組」のジャニーズ、風間俊介

 最近テレビでよく姿を目にする印象なのが、俳優の風間俊介である。

 それもそのはず、この2019年9月には『やすらぎの刻~道』(テレビ朝日系)と『監察医 朝顔』(フジテレビ系)という2つの連続ドラマに出演していた。前者は月曜から金曜までの帯ドラマの劇中劇の中心人物、後者は「月9」で主人公・上野樹里の夫役というともに重要な役どころだ。当然出演シーンも多く、それがいま書いたような印象につながっている。

 風間俊介はジャニーズ事務所所属である。ジャニーズファンにはいまさらという感じだろうが、割と最近までそのようなイメージは全体的に薄かったはずだ。それはやはり、彼に「歌って踊る」イメージがあまりないからだろう。

 1983年生まれの風間俊介がジャニーズ事務所に入所したのは1997年、中学2年生のときである。生田斗真や嵐・松本潤がいたジャニーズJr.のユニットであるB.I.G.にも在籍していた。だが風間俊介が世間に広くその存在を知られるようになったのは、なんといっても『3年B組金八先生』(TBSテレビ系)の第5シリーズへの出演からと言える。1999年のことだった。

 CDデビューせずに演技の分野で活躍するいわゆる「俳優組」のタレントがジャニーズにいることは、いまやよく知られている事実だろう。生田斗真と並んで、風間俊介が現在その「俳優組」を代表する存在であるのは間違いない。

 さかのぼれば、1970年代後半に似たような立ち位置にあったジャニーズとして井上純一がいる。井上の場合はレコードデビューもしていたので厳密には「俳優組」ではないが、歌手としてよりも『ゆうひが丘の総理大臣』(日本テレビ系、1978年放送開始)など学園ドラマの生徒役で人気が出た点では風間の先駆け的存在である。

 とはいえ、『3年B組金八先生』で風間俊介が演じた兼末健次郎は、その井上をはじめ従来学園ドラマでジャニーズが演じてきた生徒役とはかなり趣が違っていた。

 兼末健次郎は、表向きは完璧な優等生でありながら陰でクラスメートを操っていじめを扇動したりしている。だがその背景には家庭の問題、親との心理的確執があり、結局母親を刺してしまうという陰影のある役柄だった。『3年B組金八先生』と言えば第1シリーズ(1979年放送開始)でたのきんトリオがブレークして以来ジャニーズにとっても縁の深い作品だったが、風間が演じた兼末健次郎はなかでも鮮烈なものだった。

 その後、風間俊介は俳優としての実績を着々と積んで今日に至っている。最近では『陸王』(TBSテレビ系、2017年放送)での銀行員役の演技も話題になった。

どんな設定にもハマる無色透明の存在感

 さらに近年の風間俊介は、俳優以外の分野での活躍も目覚ましい。

 昨年10月からは、トークの安定感を買われて日本テレビの朝の情報番組『ZIP!』の月曜メインパーソナリティーを務めている。またゲスト出演だが、昨年『マツコの知らない世界』(TBSテレビ系)に出演して東京ディズニーランドの魅力を語っていた姿も印象的だった。この時は自ら企画を持ち込むという熱の入りようで、まさに“ディズニーマニア”と呼ぶにふさわしい博識ぶりには驚かされた。これは何年か前だが、NHK Eテレの教養番組『ニッポン戦後サブカルチャー史』に受講生役として出演したときも、かなりの知識量が求められるなかでその勉強熱心ぶりは際立っていた。同じNHKで、リオデジャネイロ、平昌と続けてパラリンピックのリポーター、キャスターを務めているのも忘れるわけにはいかない。

 このように、風間俊介の最大の強みはその守備範囲の広さだ。

 そしてそれは、俳優業についても言えることである。演じる役柄の幅広さもそうだが、どのような設定にもすっとハマる不思議な魅力がある。

 たとえば、冒頭にふれた二つのドラマにもそのことは当てはまる。

 『やすらぎの刻~道』の舞台は、戦前から戦後にかけての山梨県の山間の農村。そこに暮らす養蚕農家の四男の“ついていない”半生を風間俊介は演じている。一方、『監察医 朝顔』では刑事役。上野樹里が演じる結婚相手の法医学者は、東日本大震災で母親が行方不明になったままだ。風間演じる夫は、母親の死をなかなか受け入れることのできない妻にそっと寄り添い、支える。

 それぞれまったく色合いの異なる役柄だが、熱演するというよりは、無理なく自然にその作品の空気にハマっている。それは高い演技力のなせる業でもあるが、元々風間俊介に無色透明とも言うべき独自の存在感があるからだろう。だから何色にも染まることができるのである。それは、ドラマ以外の情報番組やバラエティでも発揮されている彼ならではの才能だ。

ジャニーズ史における風間俊介とは

 「いまが旬」とも言えそうな風間俊介のこうした活躍は、ジャニーズというものが私たちにとって本当に身近なものになった証しなのではなかろうか。ステージで華やかに歌って踊る美少年ではなく、私たちにとって身近なメディアであるテレビのなかで楽しさや感動を提供してくれる存在としてのジャニーズ。それをいま代表するひとりが、風間俊介のように思えるのである。

 私の知る限り、彼のようなスタイルでここまで成功したジャニーズは珍しい。ブーム的な人気を巻き起こしたジャニーズはそれこそたくさんいるが、風間俊介のようにじっくり20年以上かけて確固たる地位を築いたジャニーズはまれだろう。ジャニーズとしては異端であったはずが、我が道を肩肘張らず一歩一歩進んだ結果、彼はいまや最もテレビで活躍するジャニーズのひとりになった。ある意味、風間俊介はこれからのジャニーズのひとつのお手本になるのかもしれない。

 来年2020年のNHK大河ドラマ『麒麟がくる』で、風間俊介は徳川家康を演じることが発表されている。大役である。そして「鳴くまで待とう」で有名なホトトギスの句のように、地道に努力を重ねて天下を取った家康のイメージは、奇しくも風間俊介のそれに重なる部分がある。そう思えるのである。

社会学者

社会学者、文筆家。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。テレビと戦後日本社会の関係が研究および著述のメインテーマ。それを踏まえ、現在はテレビ番組の歴史、お笑い、アイドル、歌番組、ドラマなどについて執筆活動を続けている。著書として、『水谷豊論』(青土社)、『すべてはタモリ、たけし、さんまから始まった』(ちくま新書)、『攻めてるテレ東、愛されるテレ東』(東京大学出版会)、『テレビ社会ニッポン』(せりか書房)、『SMAPと平成ニッポン』(光文社新書)、『中居正広という生き方』『木村拓哉という生き方』(いずれも青弓社)、『紅白歌合戦と日本人』(筑摩書房)などがある。

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