海岸清掃を通じて考えた環境問題
私は、気候変動や大気汚染に関することを研究対象としていますが、これらは国際的に主要な環境問題です。また、ご存知のとおり、プラスチックゴミも国際的な環境問題として、現在進行しています。私が所属している九州大学応用力学研究所大気海洋環境研究センターには、海洋プラスチック研究の第一人者である磯辺篤彦教授も所属していることもあり、専門的な知識を含めてお話を伺う機会があることから、海洋ゴミについての知識はそれなりに持っており、意識もしていました。
年末年始に、東海地方へ帰省して小さな砂浜を訪れたところ、ゴミの多さに驚きました。おそらく、これは特別なことではなく、どの海岸でも似たような状況になっているのだろうと思います。知識・意識はあっても、現実を目の当たりにすることほどわかりやすいことはありません。そこで、年始に、息子とボランティアで海岸清掃をしてみました。そこで体感したことを通じて、広く環境問題について、改めて考えてみます。
海岸ゴミの種類
今回収集したゴミのおおよその体積比は、ペットボトル45%、発泡スチロールや食品用容器が45%、その他(カン・ビン・包装フィルム・その他プラスチック製品など)が10%でした。ペットボトルのラベルは、東海地方だからでしょう、ハングル文字のものは1つもありませんでしたが、中国語やベトナム語のものがありました。しかし、8割以上は日本語でした。日本国民としては、海岸ゴミの多くが国外から流れてきたものと考えたくなりますが、現実は違うようです。
2人で3時間清掃しましたが、細かくなった発泡スチロールや、手の届かない場所にあるゴミは拾いきれませんでした。しかし、遠目で見た感じは清掃前後で大きく違いましたので、達成感はありました。
環境問題に関係がない人は誰一人いない
ゴミの投棄は、直接的には捨てる側の問題ではあるでしょうが、ゴミとなるものを製造している側も、多かれ少なかれ問題に関与していることは間違いありません。「海を美しく」という標語を食品用容器に印刷したところで、実際にはそれを今回ゴミとして拾っているのが現実です。
まずは、消費者・利用者の側として、とにかく環境中にゴミを放置しないことでしょう。全人類が実行しなければならないことで、例外はないと思います。
一方で、例えば日本では、高い比率で決められたルール通りにペットボトルが回収されているものの、1%程度でもそこから漏れて環境中のゴミとなると、問題を引き起こす量になるということです。つまり、100%のゴミ回収は実現するのが難しいため、ゴミの総量を減らすことが必須の状況であるということです。しかし、例えば、ペットボトル以外にも、プラスチック容器・トレー・フィルムなどに包まれた状態で食品を購入することが大半であるため、消費者側としては、ゴミの総量を減らすことを根本的に実行するのは難しいのが現状です。したがって、この問題への取り組みの成否は、実質的には製造者・販売者側にかかっているということでしょう。ペットボトルのゴミが多いことは知識としては持っていましたが、実際に海岸清掃をすると、本当に多いことを強く実感しました。ゴミは多く出るけれど、扱いが簡単で便利だから売れる、そのような方向性は、様々な意味で持続しないでしょう。環境負荷のかかる可能性をできるだけ小さくしていくという価値が、今後一層高まっていくことは間違いないと思われます。
気候変動や大気汚染の対策も、大局的な方向性はゴミ問題と同じです。消費者側の意識向上を必要としつつ、製造者・販売者側は、環境負荷のより小さい製品を開発して市場の標準とし、消費者はそれを自然と選択するというサイクルが必須です。環境問題に関係がない人は誰一人いません。環境問題の改善は、不便を強いられる上に成り立つということではなく、生活していくためのより良い環境を手に入れる、ということが本質です。人為的な気候変動をできるだけ起こさないようにすれば、猛暑や大雨が起こりにくくなって、快適な環境を手に入れることができます。