就活でのウェブテスト「代行業者乱立・解答集配布」の闇
今夏に東京大学がウェブテストの代行業者について発した「注意喚起」が話題になった。今回は、東京大学が声明を出した後のウェブテスト代行業者の動向や、TwitterなどのSNS界隈で発生している現象について紹介したい。
まず前述の東京大学による声明を最初に紹介しよう。そこまで長い文書ではないため引用にて紹介すると、下記のような内容になる。
警告を受けた代行業者は、残念ながら今も活動を続けている。サービス名こそ変更され「東京大学」の名前は出さなくなったが、東大を連想させるサービス名でウェブテスト代行を請け負っている。
なお同業者は名称の変更について、「商標の問題で東大という言葉を使うことができないため」と公表している。また名称変更後もサービスの内容は変わらないとしており、その言葉を信じるのであれば大学からの注意喚起に対応することなく東京大学出身者によるウェブテスト代行業を続けていることになる。
しかし注目するべきはこの代行業者ばかりではない。今それ以外でも法人・個人でウェブテスト代行を請け負う業者が増えているのだ。そして新興のウェブテスト代行業者は今、TwitterなどのSNSで精力的に活動している。
こうして記事にすることで認知を高めてしまう懸念もあるのだが、問題提起として紹介していきたい。
【汚染されるTwitter就活界隈】
最近Twitterでよく見かけるのが「○○(ウェブテストの名称)の問題集と解答集を配布します!」と宣伝する就活アカウントの存在だ。それも1つや2つではなく、実にたくさんの就活アカウントがそのような企画を行っている。
問題集はExcel形式のファイルなどで提供され、ファイル内でキーワード検索すれば同じ問題を見つけられるという仕組みになっている事が多い。
こうした解答集はほとんどが有料販売だが、中には無料配布するアカウントもある。
無料配布しているアカウントも、当然なんらかの目的がある。
ある就活系Twitterアカウントは「ツイートのRTとフォロー」を条件に、無料でウェブテストの問題集を配布している。
そのアカウントのプロフィールを見ると「ウェブテスト代行1科目3000円」といった記載がある。
この他、より詳細な「解答集」を有料販売していたり、有料の就活サロンに誘導するケースもある。
こうしたTwitterアカウントは2020年頃から急増しており、真偽は不明ではあるが有名大学に所属する「難関企業の内定者」と名乗っている事が多い。
(内定先企業は「5大商社」「MBB(戦略コンサルのマッキンゼー、ボストンコンサルティンググループ、ベインアンドカンパニーの3社)」などのように基本的にボカして書かれるため特定はできない)
在籍大学は東大だけでなく一橋や早慶上智、MARCH(明治・青山・立教・中央・法政のどれか)の出身者・在籍者であるというアカウントもあった。
卒業前のお小遣い稼ぎとしてはお手軽なのかもしれない。
しかし、このような行為は公正な選考で学生を採用したいと考える企業に対して不利益を与える行為であり、同時に利用した就活生に「不正を行った」というリスクを与えている。
当然、「本来通過するべき人材が、不正によって不合格になった」という可能性も否定できない。
【本番と完全一致の「問題集」】
大学受験などで「過去問」やその解説が書籍として出版されることはあるが、あれはあくまで過去問であるため、今後類似した問題が出ることがあっても、完全一致した問題が出てくる事は少ないだろう。同じような問題でも数値が少し違っていたり、語句が違っていたりするものだ。
一方で、就活の「ウェブテスト問題集配布」で起きているのは、「本番と全く同じ問題の配布」なのである。過去問で理解して本番では自分で解くというわけではなく、そのまま同じ解答をすれば正解となってしまうケースも多いのである。
「問題集配布アカウント」もそういった事をアピールしており、「この種類のウェブテストは数値や語句が変わらないのでそのまま使えます」と説明している。
(ただし、内容が古くなっており使えない問題集も多いという意見もある)
【問題アカウントに「案件」を提供する就活支援業者も?】
残念な話になるが、こうした問題アカウントに対して「告知案件」を提供する企業も出てきている。
問題集を有料販売するTwitterアカウントのフォロワーは少ない傾向にあるが、無料配布するアカウントではそのフォロワー数が数千人に及ぶ事例もある。
ウェブテスト問題集を配布して得られた「学生リスト」は合同説明会などを開催する就活支援会社にとっても魅力的な釣り堀となるのだ。
常識的に考えれば、そのような問題アカウントに集客を依頼するべきではないはずだろう。
しかしなりふりを構わない一部の企業は告知案件を提供し、こういった問題アカウントに追加の収益をもたらしているという状況だ。
【ウェブテスト開発元も問題視】
問題集配布が蔓延る今の状況を、ウェブテストの開発元も当然ながら問題視しているという。
2017年には、SPI3の開発元でもあるリクルートの社員を名乗る人物がウェブテスト解答集を販売している早稲田大学の学生メディアに対して「適性検査を用いた採用活動に支障をきたしている」と抗議を送ったという話もあった。
この抗議は企業としての公式な連絡ではなかった可能性があるが、当該の学生メディアでは抗議が来た事も「ネタ」として紹介されている。
残念だが抗議をして応じるような倫理観の持ち主であれば、そもそもそのような活動はしていないという事だろう。また2017年頃とは違い今はそのような事業者が増えすぎてしまったため、もはや個別に抗議を送ってもキリがない状況になってしまっている。
こうなると不正を行う者に抗議をするよりもウェブテスト自体に不正検知の仕組みを導入していく方が現実的と言えるだろう。
不正を検知しようという試みは実際に増えてきている。具体的には試験を受けている様子をウェブカメラで録画、あるいは監視をしたり、解答スピードなど様々な情報から「普通に解いていない」学生を炙り出すという方法だ。
【代行業者に頼らない不正も多い】
その他の事例として、代行業者に頼らない不正も多いことを補足しておきたい。
最近はZoomで画面共有しながら複数人でウェブテストを解いたり、LINEでグループを作って解答集を作ったりする学生も多いという。去年就活をした22卒の内定者は「自分が就活をする時にはそういったグループはあまり見なかった」というが、23卒はそういった動きが活発だと感じているようだ。
筆者自身、Twitterでフォローしている就活生の投稿で「ウェブテスト解答集を一緒に作ってくれる方いますか?」といったツイートを見かける事がある。
残念なことに、就活支援を行う情報メディアの中には「代行業者は信用できないので使ってはいけない」としつつ、「友人と協力してテストに挑みましょう!」と推奨するサイトまで出てきている始末である。(企業名は出さないが個人サイトではなく、それなりに名の通った就活支援会社のコラムである)
いずれの話からも言えるのは「ウェブテストは自力で解くのが当然」と考える学生がそれだけ減ってしまったという事だろう。