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名ばかりマネジャーを、苦手なマネジメント業務から解放する方法〜部下も喜ぶ〜

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
部下にダメ出しできない上司は実は多い(写真:アフロ)

■できないことを要望しても仕方がない

 先般、マネジャーのマネジメント能力のなさを嘆くのではなく、その障害を除いたり、サポートをしたりすべきだという記事を書きました。

 今回はその「障害」となっているもののうち、マネジメント業務と呼ばれている仕事の中で、「そこまでは要求しないほうがよいのではないか」と思われる仕事について考えてみたいと思います。理想としては当然ながらマネジャーがするべき仕事であっても、それを外してあげることで、あまりマネジメント力がないマネジャーでもちゃんと機能するという仕事は何かということです。理想は理想。できないものは仕方がないと考えてみるほうが現実的です。

■マネジメントは大きく2つに分けられる

 さて、ではどんな仕事を外してあげればよいかを考えていきます。まず、マネジャーの仕事を大きく整理すると2つに分かれます。「タスクマネジメント(業務やプロジェクトの進捗のマネジメント)」と「ピープルマネジメント(メンバーのモチベートや育成、評価などの人のマネジメント)」です。どちらが大変かは、人によって得意領域が違うので一概には言えませんが、多くの場合はピープルマネジメントです。人のマネジメントが三度の飯よりも好きという人もいるでしょうが、それはかなり稀です。感情ある人を動かすよりも、物言わぬタスクを動かすほうがまだ楽ということです。

■それぞれのマネジメントに必要な力

 タスクマネジメントとピープルマネジメントの難易度が異なるのは、それぞれのマネジメントに求められる能力やスキルが違うからです。

 タスクマネジメントに求められるもののコアは、論理的思考能力と専門知識です。論理的思考能力によって事業をどんどん細かいタスクに分解して、それぞれのタスクを専門知識によって解決していくのがタスクマネジメントです。

 一方、ピープルマネジメントのコアは、想像力とコミュニケーション能力です。想像力によって自分とは異なる他者の心情を理解して、できるだけ良い状態に持っていくためにうまくコミュニケーションを取るのがピープルマネジメントです。

■まず、ピープルマネジメントから軽減する

 この「論理&知識」と「想像&コミュニケーション」のどちらが難しいかは人によって違いますが、前者は努力によって後天的に獲得しやすいものであるのに対し、後者は長い生育史の中で巧拙が決まれば大人になって変えることが難しいものです。このため、結果として、ピープルマネジメントが不得意な人が多いのでしょう。つまり、なかなかうまくマネジメントができていないマネジャーたちから最初に外してあげるべき仕事とはピープルマネジメントです。

■最も難しい仕事はネガティブフィードバック

 ただ、ピープルマネジメントは、組織全体として結局は誰かがやらなくてはならないものですので、どこまで外すか優先順位を決めなくてはなりません。最も難しい仕事を最初に外してあげるべきですが、それは「ネガティブフィードバック」です。メンバーとのコミュニケーションの中で、褒めるほうのポジティブフィードバックは苦手という人は少ないでしょう。しかし、低い評価を伝えたり、改善を要望したり、場合によっては叱責したりするネガティブフィードバックは、世界でも最高レベルで直接的なネガティブフィードバックが嫌いな日本人においては最高難易度の仕事です。これを外せばマネジメントはかなり楽になります。

■マネジャーの上司がネガティブフィードバックを担う

 具体的には、ネガティブフィードバックの担当を、マネジャーのそのまた上司であるエグゼクティブ(部長や役員など)へ移管するという方法で、ネガティブフィードバックの重荷から外すことがよく行われています。ただし、フィードバックの基本はファクトベースです。事実に基づかないフィードバックは納得性が低く、行動を変容させる効果がありません。ネガティブフィードバックであればなおさらです。

 ところが、メンバーに関する具体的事実は日々一緒に仕事をしている直接の上司、マネジャーが一番よく知っています(だから、本来はマネジャーがネガティブフィードバックすべきなのです)。これをどうするかが問題です。

■詳細な行動の記録が必要不可欠

 当然ながら大抵の場合、エグゼクティブはメンバーの日々の行動を直接的には知りません。自分を直接的に見てくれているわけでもない人が、曖昧な理由でネガティブフィードバックをしてきても納得はしません。そこで、重要なのがメンバー自身やマネジャーによる詳細な日々の具体的行動の記録です。マネジャーはネガティブフィードバックという感情的重荷から解放される代わりに、個々のメンバーに関する日々の行動の記録である「カルテ」(昔は「閻魔帳」などと言ったものです)を書いておいてもらいます。その情報をもとにエグゼティブが代わりにフィードバックを行うのです。

■できる限り同席はすべき

 要は、メンバーへのフィードバックにおいて、マネジャーは日々の行動記録とその1次評価を担い、エグゼクティブはそれをもとにした会社としての最終評価と根拠とした具体的事実(行動)の抽出、および本人への伝達、コミュニケーションを担う、ということです。特に、低い評価点をつける、行動改善を要望する、減給を言い渡すといったネガティブフィードバックの際に、それをエグゼクティブの口から言ってもらうわけです。ネガティブフィードバックでは、言葉選びや根拠や理由づけ、フォロートーク(ダメ出しをして突き放すだけでなく、良いところや期待を伝えたりして気持ちを和らげるなど)といった高いコミュニケーションスキルが必要なので、そこをエグゼクティブに頼るのです。ただ、それでも同席はするべきでしょう。1次的評価者としての責任からまでは逃れられません。あくまで、表現のスキルのみを任せるということにしておくべきです。

■見て学んで、できるようになればやればいい

 「それぐらいはマネジャーにやらせれば」と感じますが、多くの会社ではそれで失敗しています。「やるべき」だからと苦手な人にやらせることで、トゲのある言葉を吐いたり、適切な根拠を示せなかったり、身も蓋もない人格否定をしてメンバーを傷つけたりするのがオチです。人は自分を傷つけた言葉を忘れません。それで日々の職場コミュニケーションがギスギスするぐらいなら、できる人に任せるのが次善の策だというのが私の主張です。

 ただ、エグゼクティブがうまくネガティブフィードバックをしているのを観察することで、マネジャーは学びます。そうして、できるだけ早く、本来の責務である「自分で責任を持ってメンバーに(うまく)ダメ出しをする」ができるようになってもらえばよいのです。

HRZineから転載・改訂

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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