専業主婦は2億円損をする
日本はこれからどんどん「格差社会」になっていきます。しかしこれは、一部のひとがいうような「グローバル資本主義の陰謀」というわけではありません。
いちばんの原因は高齢化です。大学生の頃は貯金などないのが当たり前でも、その後の人生の有為転変のなかで、ゆたかな暮らしを手に入れるひとと零落するひとに分かれていきます。「陰謀」などなくても、社会が高齢化すれば自然に格差は開いていきます。
それに加えて「人生100年」の時代では、ずっと働きつづけるひとと、60歳(あるいは65歳)で定年という“強制解雇”を迎えるひとのあいだで大きな格差が生じます。年収200万円でも60歳から80歳まで20年間働けば4000万円になり、「(100歳までの)老後」は40年から20年に縮まるのですから、「生涯現役」の経済効果はとてつもなく大きいのです。
安倍政権の「人生100年時代構想」の影響もあって、この不愉快な現実をひとびとはしぶしぶ認めるようになりましたが、いまだにちゃんと理解されていないのが「専業主婦は敗者の戦略」ということです。
経済学では労働市場から収益を得るちからを「人的資本」と呼び、「金融資本」と並ぶ富の源泉としていますが、専業主婦は20代後半、あるいは30代前半でこの人的資本を放棄してしまいます。大卒女性の平均的な生涯収入は2億円ですから、彼女たちは(そして妻に専業主婦を望む夫たちも)2億円をドブに捨てていることになります。それにもかかわらず、「お金がない」といって(当たるはずのない)宝くじ売り場に並ぶのでは、なにをやっているのかわかりません。
最近は、子育てが終われば働きはじめる母親が増えてきました。しかしそのほとんどは非正規の仕事で、正社員としてキャリアを積み上げてきた女性の収入とは比べものになりません。こうして、キャリアと非正規や専業主婦との「女性格差」も広がっていくでしょう。
さらに問題なのは、専業主婦の夫の多くがサラリーマンで、60歳で“強制解雇”されてしまうことです。そうなると夫婦ともに人的資本はゼロなのですから、あとは乏しい年金を分け合うしかありません。「カネの切れ目が縁の切れ目」というように、夫の退職後、お金をめぐって夫婦仲が険悪になり熟年離婚に至るケースはますます増えるでしょう。
そう考えれば、日本の未来に待ち構えている「超格差社会」がどのようなものかがわかります。それは、子どもが生まれても妻が仕事を続け、夫婦ともに専門知識や経験を活かして定年後も収入を得る「生涯共働き」の家庭と、老後破産の恐怖に脅える人的資本のない高齢者世帯のあいだにとてつもない「経済格差」が生じる社会のことなのです。
経済合理的な生き方はどこでも同じで、欧米諸国は先行して「共働き」と「生涯現役」が当たり前になっています。これはすこし考えれば誰でも気がつく1+1=2のような話ですが、日本では不思議なことに誰も指摘しないので『専業主婦は2億円損をする』(マガジンハウス)で書きました。将来を真剣に考えるならぜひご一読を。
『週刊プレイボーイ』2017年11月20日発売号 禁・無断転載