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第二次朝鮮戦争が起これば…脱走と略奪が相次ぐ「飢える北朝鮮軍」に勝ち目はあるのか?

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
今年3月、脱走した北朝鮮軍兵士が中国で逮捕された。(撮影:デイリーNK)

先月、北朝鮮と韓国の軍事緊張の緩和にむけて開かれた南北高官会議では、衝突の危機は回避され、合意では「離散家族行事の再開」や「南北の民間交流の活性化」が盛り込まれた。

この5年間、ほぼ閉じられていた南北交流のドアが、若干開かれたことは南北双方、そして周辺諸国にとって歓迎すべきだが、朝鮮半島が常に軍事衝突、その先にある第二次朝鮮戦争の勃発危機と隣り合わせであることを今回の事態は改めて知らしめた。

しかし、気になるのはこの間、韓国が一貫して北朝鮮に対して強硬姿勢を貫いていることだ。まず、8月20日、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)が、拡声器に向けて2発のロケット砲を発射したが、韓国軍は、計36発で対応射撃。会談中も朴槿恵大統領は、「北朝鮮の脅威に決して引き下がらない」と強硬姿勢を鮮明にしていた。

こうした韓国側の強硬姿勢が功を奏したのか、北朝鮮は、合意文で「遺憾の意」を表明。民間人の人命被害を出した「延坪島砲撃事件(2010年)」でさえ、自らの非をいっさい認めなかった過去の姿勢からすると事実上の謝罪であり、北朝鮮、いや金正恩第1書記の「敗北」と言い切っても過言ではないことは本欄でも述べた。

しかし、韓国の強気の姿勢は会談後も続く。韓国軍は、金正恩らが核兵器使用の兆候を見せたら即座に首脳部を除去する「斬首作戦」の推進を明らかにした。

韓国が強気になる背景として、北朝鮮軍の弱体化があると見られる。朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の総兵力は120万人とされており、韓国軍(66万人)と在韓米軍(2万5千人)の合計よりも圧倒的に多い。しかし、長引く経済難からその実態は「飢える軍隊」と揶揄されている。

実際、中朝国境地帯で飢えた兵士たちの略奪行為や脱北、そして殺傷事件は後を絶たない。4月には脱北兵士が国境を越えて中国人を殺害する事件が発生。この事件は、中朝外交関係にまで発展したことから、北朝鮮当局は多数の逮捕者ならびに兵士を銃殺刑に処した。

軍隊だけでなく、北朝鮮住民も、とても戦争が出来るような状態ではない。一般住民たちは、「祖国のために闘う!」どころか、金正恩氏の「準戦時状態」に対して「戦争ごっこ」と揶揄するぐらいだ。

北朝鮮がとても通常兵力で闘える状態ではないことを、金正恩第1書記のみならず北朝鮮指導層も充分認識しているだろう。だからこそ、北朝鮮は一撃必殺の「核兵器」にこだわるのだ。

もちろん、軍事的衝突が発生したからといって、金正恩氏が、いきなり核兵器のボタンを押すというシナリオは考えづらい。しかし、圧倒的な兵力差で不利な状況に追い込まれた北朝鮮が、窮鼠猫を噛むで核兵器をはじめとする大量破壊兵器を使用しないとは誰も言い切れない。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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