金正恩氏を震え上がらせた「1丁の機関銃」のミステリー
韓国の文在寅大統領の支持率が、またもや就任後最低を更新した。韓国の世論調査会社、リアルメーターが3日に発表した支持率は、前週より3.6ポイント低い48.4%となった。これで9週連続の下落である。
経済の低迷など、内政の行き詰まりが要因とされ、政権はそれを打開すべく、北朝鮮の金正恩党委員長の初訪韓に賭けているように見える。しかしそれは、当局により国民がほぼ完全に統制されている平壌を文在寅氏が訪れるのとは、わけが違う。
韓国には、北朝鮮の体制により家族や友人を殺された人々が数多くいる。北朝鮮から逃れてきた脱北者の中にもいるし、北朝鮮により撃沈された海軍艦艇の兵士の遺族や、戦友もそうだ。韓国政府がいくら「ソウルに来ても安全だ」と言ったところで、北朝鮮側は簡単には納得すまい。
何しろ北朝鮮当局はふだんから、普通の人と同じトイレを使えない金正恩氏を守るため、特殊な警護体制を敷いているのである。
(参考記事:金正恩氏が一般人と同じトイレを使えない訳)
実際のところ、金正恩氏は北朝鮮国内においてすら、身辺に不気味なものを感じたことがあったとされる。韓国の情報機関・国家情報院(国情院)の次長や大統領補佐官、駐日大使を歴任した羅鍾一(ラ・ジョンイル)氏の著書『張成沢の道』(原題)によれば、2012年の暮れにはこんなことがあった。
金正恩氏の視察先で、出所不明の1丁の機関銃が見つかったとの噂が広がった。1本の木の下で発見されたその機関銃には、銃弾がフル装填されていた。しかも、どこで製造され、どの部隊に支給されたかを辿るための通し番号が消されていた。そんな特殊な銃が、手違いでそんな場所に置かれるなどあり得ないことだった。
結局、機関銃の謎は解けないままだったらしいが、一時期は金正恩氏が立ち寄る30カ所以上に装甲車が配置され、物々しい空気が漂ったという。
さらに2015年10月初め、北朝鮮の葛麻(カルマ)飛行場で、金正恩氏の視察前日に大量の爆薬が見つかったと米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。
また父である金正日総書記の時代には、龍川駅の大爆発事故が起きた。
(参考記事:1500人死傷に8千棟が吹き飛ぶ…北朝鮮「謎の大爆発」事故)
この出来事はいまもって、「暗殺計画」の可能性をはらむミステリーとして語られている。
こうした経緯もあり、金正恩氏が韓国訪問を決断するのは簡単ではなかろう。確かに、平壌とソウルは近い。その気になれば、日帰りも可能なほどだ。
しかし、その「近さ」に期待して政権浮揚を賭けるようでは、文在寅政権の足元はいよいよ危うく感じられる。