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意外と気づかない?天心vs武尊戦には“赤と青”がなかった

藤村幸代フリーライター
天心の手首には緑、武尊には黄色のテープが(C)THE MATCH 2022

天心と武尊、赤コーナーだったのは?

6月19日(日)の『Yogi presents THE MATCH 2022』東京ドーム大会でついに実現した那須川天心(23、TARGET/Cygames)と武尊(30、K-1 GYM SAGAMI-ONO KREST)による立ち技頂上決戦。

世紀の一戦は想像を超えて反響が大きかったのだろう、今大会をPPVで独占配信したABEMAでは、翌20日の21時から一夜限りでノーカット無料放送を敢行するなど、夢のカード実現の余韻はしばらく冷めそうにない。

私も武尊派・天心派の別なく友人、知人たちとこの一戦をさんざん語り合っているのだが、その際に「赤コーナーはどっちだった?」と質問すると、間違っている人が多いのはちょっと意外だった。

多かったのは「天心が後から入場してきたから、赤コーナーは天心でしょ」という答え。でも正解は「どちらでもないし、そもそも赤コーナー自体が存在しなかった」である。

緑のドラゴンコーナーと黄色のタイガーコーナー

今大会はメインの天心vs武尊戦を筆頭に本戦15試合、オープニングマッチを含めると16試合すべてがRISEやシュートボクシング、新日本キック勢vsK-1勢(K-1 JAPAN GROUP)という全面対抗戦の図式だったが、RISE勢などのいわゆる天心側は「ドラゴンコーナー」、K-1ファイター中心の武尊側は「タイガーコーナー」と名づけられた。ドラゴンコーナーのテーマカラーは緑、タイガーコーナーのテーマカラーは黄色だ。

格闘技の試合で両者のコーナーを分ける色といえば「赤と青」が“常識”であり、タイトルマッチの場合、王者は赤コーナーで後から入場、挑戦者は青コーナーで先に入場することがほとんどだ。タイトルマッチ以外でも、キャリアや戦績にまさる選手が赤コーナーに陣取ることが多いので、赤は格上、青は格下というイメージがついている。

では那須川天心と武尊、どちらが赤で青なのかというと、答えは自明で「並び立つ両雄だけに決められない!」。こうした同格の場合、赤コーナーで先に入場、青コーナーで後から入場という折衷案が取られることもあるが、今回はウルトラCの解決策として「呼び名も色も思い切って変えてしまえ!」となった…と推測される。

ONE OK ROCKのTaka(右)から武尊へ“の花束贈呈。両者とも緑&黄色が基調の花束だった(C)THE MATCH2022
ONE OK ROCKのTaka(右)から武尊へ“の花束贈呈。両者とも緑&黄色が基調の花束だった(C)THE MATCH2022

また、格闘技界の概念を覆す「緑と黄色」のアイデアは、武尊がつねづね主張していた「団体の垣根をなくして、お互いがK-1のチャンピオン、RISEのチャンピオンのまま中立の舞台で試合をしたい」、あるいは天心が語る「RISEが凄い、K-1が凄いじゃなく、格闘技が凄いと思わせたい」という熱い思いに作り手側が応えたようにも感じられる。

そう思って改めて写真などで見直してみると、演出面でものすごく細かい部分まで「緑と黄色」にこだわっていることに気づく。選手たちがはめているグローブの手首には通常、コーナーの色分けとして赤と青のテープが巻かれるが、それが緑と黄色だし、レフェリーのリストバンドも緑と黄色、メインイベントに先立つ花束贈呈の場面で、花を包むラッピングぺーパーの色も緑と黄色だった。

レフェリーのリストバンドも緑と黄色(C)THE MATCH2022
レフェリーのリストバンドも緑と黄色(C)THE MATCH2022

会場演出からも感じられた両雄へのリスペクト

私が感心したのは「緑と黄色へのこだわり」が会場の照明演出にまで徹底されていたことだった。

格闘技のビッグイベントでは選手たちの入場シーンがひとつの見せ場になる。会場じゅうを四方八方に飛び散りまぶしく照らすレーザービームは、赤コーナーの選手入場の際は赤のビームが多め、青コーナーの入場では青のビームが多めというのが照明演出のセオリーのひとつだ。

ところが今回は、赤と青のライトは見たかぎり最小限にとどめられ、ドラゴンコーナーの入場では緑、タイガーコーナーでは黄色のライトが飛び交った。メインイベントに先立つ煽りV(これまでの道のりを紹介する映像)の最中も緑と黄色、二色のスポットライトがリングを照らしていた。

素人考えだが、緑や黄色で会場全体を華やかに、かつ力強く彩るというのは、かなり難しいのではないか。でも、メインでは花道の両側に真オレンジの炎を燃え立たたせるなど、両者のたぎる思いが見事に表現されていた。

会場演出からも世紀の一戦を盛り上げたいとの作り手側の気概が感じられた(C)THE MATCH 2022
会場演出からも世紀の一戦を盛り上げたいとの作り手側の気概が感じられた(C)THE MATCH 2022

イベント演出の細部に至るまで、“立ち技格闘技界の双璧”に対する作り手たちのリスペクトと配慮が感じられたこの一戦は、やっぱりあらゆる意味で長く語り継がれる“世紀の一戦”だったのだと思う。

7月24日には「TOKYO MX」にて午後7時より2時間にわたり、メインの天心vs武尊戦を中心に今大会の表側・裏側を追ったスポーツドキュメンタリー番組が放送されるという。映像で再度確認したら、知られざる“色の秘密”もまた発見できるかもしれない。

フリーライター

神奈川ニュース映画協会、サムライTV、映像制作会社でディレクターを務め、2002年よりフリーライターに。格闘技、スポーツ、フィットネス、生き方などを取材・執筆。【著書】『ママダス!闘う娘と語る母』(情報センター出版局)、【構成】『私は居場所を見つけたい~ファイティングウーマン ライカの挑戦~』(新潮社)『負けないで!』(創出版)『走れ!助産師ボクサー』(NTT出版)『Smile!田中理恵自伝』『光と影 誰も知らない本当の武尊』『下剋上トレーナー』(以上、ベースボール・マガジン社)『へやトレ』(主婦の友社)他。横須賀市出身、三浦市在住。

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