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未知なる薬草を求めて ~タイ 世界遺産カオヤイ国立公園~ ― ビデオリポート 2019年12月取材

阿佐部伸一ジャーナリスト
ナオさん(右端)の案内でジャングルのなか薬草を観察する正山教授(左から2人目)ら

  「認知症激増が日本では大きな社会問題となっていて、40兆円超えという医療費の大きな要因でもあります。OECDの統計によると世界の60才以上人口の認知症有病率はインド、インドネシア、南アフリカ等が欧米諸国の約半分、タイも同様と考えられ、平素から口に入れている食材・薬草等が関係していると推測しています」。今の研究テーマをこう述べるのは、九州大学薬学部の名誉教授の正山征洋さん。『身近な薬草と薬木』や『アジアの英知と自然 薬草に魅せられて』など薬草関連の本を多数上梓し、研究や学会にと多忙な日々を送っている76歳の現役の学者である。

 一方、タイ中部のカオヤイ国立公園で20年ほどガイドを務めたナオさんこと、サムナオ・チャンタワーさん(66)。ジャングルで採取した野生の薬草を自分の農園で繁殖させながら、1500種を超える薬草の効用を継承してきた。学歴や薬剤師の資格はなくても村の健康に貢献してきた彼を周囲は「薬草の先生」と呼んで尊敬している。ナオさんはこう説く。「現代の薬は旅行などには便利ですが、家庭ではやはり薬草が一番良い。薬草の基本的な知識を持っていたら、病院に行かなくて済みます。それに薬草での治療は比較的時間がかかるけれど、同じ病気には再び罹りにくいという利点もあるんです」。彼の持論は数十年前に世界保健機関(WHO)が行った「プライマリーケアは薬草で」というキャンペーンと合致している。

 正山教授と学会で知り合い、一緒に薬草を研究している漢方薬剤師がいる。斉藤正勝さん(50)は「日本では材木でしかない木が、タイでは薬として用いられていることに衝撃を受け、タイの薬草に未知の可能性を感じている」と話す。正山教授も出発前「タイでは認知症に有効な植物をターゲットにしたいと思っています」と語っていた。ナオさんが歓迎することを知った正山・斉藤両氏はナコンラチェシマ県タワンサイ村へ彼を訪ねた。すると、正山教授のタイ人の教え子二人が駆けつけ、頼もしい助手を務める。元留学生は母国の大学の薬学部で教授や講師になっていた。

 最強メンバーが揃ったところで、ナオさんが繁殖させた薬草を使った薬膳で腹ごしらえし、ナオさんの案内でカオヤイ国立公園の観光客は立ち入れない原生林へ分け入った。果たして、正山教授が求める認知症の予防や治療に効果がある薬草はあるのか。熱帯の植生は温帯とは全く異なり、ほとんど口伝でしか継承されていないタイの薬草に、どんな発見があるか楽しみである。ビデオリポートでは、学者と薬剤師の地道な研究活動を通して、観光スポットとして脚光を浴びるカオヤイ国立公園の知られざる価値に触れる。(取材・撮影・編集/阿佐部伸一)

ジャーナリスト

全国紙と週刊誌編集部、ラテ兼営局でカメラマンや記者、ディレクターとして計38年、事件事故をはじめ様々な社会問題や話題を取材・報道してきました。そのなかで東南アジアは1987年に内戦中のカンボジアへ特派員として赴いて以来、勤務先の仕事とは別にライフワークとしています。東南アジアと日本は御朱印船時代から現代まで脈々と深い繋がりがあり、互いに大きな影響を受け合って来ました。日本の人口減が確実となり、東南アジアの一般市民が簡単に来日できるようになった今、相互理解がますます求められています。2017年に定年退職しましたが、まだまだ元気な現役。フリーランス・ジャーナリストとして走り回っています。

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