「年金を払うカネがない」金正恩の社会保障が崩壊状態
北朝鮮は昨年末、60歳以上の男性、55歳以上の女性に支給する年老年金(老齢年金)の額を引き上げる措置を取った。
全体の2割に当たる国営企業で、賃金を10倍から35倍に引き上げる措置を取ったが、これと軌を一にするものと見られる。賃金と農場での穀物の買取価格を同時に引き上げ、国営米屋「糧穀販売所」で穀物を購入するように誘導し、市場の役割を縮小しようという計画のようだ。
10倍以上に引き上げられたものの、それでも月額で2万5000北朝鮮ウォンに過ぎない。1 カ月にコメ5キロほどしか買えない額だ。それすらもまともに支給されていないという。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為)
咸鏡北道(ハムギョンブクト)の企業所幹部によると、北倉(プクチャン)、徳城(トクソン)、利原(リウォン)の各郡のほとんどの地域で、昨年12月分、今年1月分の年金の支給ができていない。
わずかな額の年金でも必要とする貧困層の老人は、邑事務所(郡の中心部の行政機関)に押しかけ、なぜ支給されないのかと問いただした。するとこんな正直な答えが返ってきたという。
「年金を払うカネがない、しばらく待ってくれ」
咸鏡南道では昨年11月、労働者の月給と共に、年金も10倍程度引き上げられた。コメ1キロも買えない額からの大幅引き上げに、老人たちは歓喜の声を上げた。
当局は、年金引き上げを大々的に宣伝したが、結局のところ、支給されたのは11月分だけで、それ以降は止まってしまっている。各市、郡の人民委員会(市役所)財政部の金庫が空っぽになってしまったからだという。
年金だけでは生活できない老人は、子どもに養ってもらうしかないが、幹部や儲けている商人、良い職業に就いている人でなければそれも難しい。
別の情報筋によると、人口の多い大都市では税収がそれなりにあるため、年金支給は滞っていないが、人口の少ない農村部では、資金の調達ができず、支給ができていない。
地方では国営工場の多くが稼働していないため、地方政府の税収の多くを占めるのは、市場使用料(ショバ代)だ。しかし、国の市場抑制策のせいで、市場が開かれない日が増え、それに伴って税収も減っているのだ。そんな状況で一気に10倍に引き上げられた年金を支給できずにいる。
また、国から指示された学生制服工場、カバン工場、農村住宅の建設に資金を投入していることも、予算不足の原因だ。
過去30年間にわたって築き上げられてきた市場経済を、それ以前の計画経済に回帰させようとする国の方針だが、そのしわ寄せは食うや食わずの老人のところに行っているのだ。