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CES 2024に見るテクノロジー・半導体の広がり; 化粧品ビジネスに拡大

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長
ロレアルCEOのHieronimus 氏、CES 2024の基調講演ビデオから

1月8日から始まったCES 2024では、最初の基調講演が化粧品最大手のL’Oreal(ロレアル)と小売流通最大手のWalmart(ウォルマート)の経営トップによるものだった。小売りでの電子技術の導入はRFタグやPOS端末、防犯監視カメラ、IoTセンサなどの利用など実績は古い。こういった応用全てを動かすテクノロジーは半導体である。しかし、化粧品ビジネスでITや半導体エレクトロニクスを使うようになったとは夢にも思わなかった。

図1 L’Oreal社CEOのNicolas Hieronimus氏の基調講演 出典:CES 2024での基調講演ビデオから
図1 L’Oreal社CEOのNicolas Hieronimus氏の基調講演 出典:CES 2024での基調講演ビデオから

  L’Oreal経営トップのNicolas Hieronimus CEOの話(図1)はハプニングもあり面白かった。化粧品ビジネスのテクノロジーは、肌への副作用を研究するためのテクノロジーが古くからあったが、近年のテクノロジーは化学的なテクノロジーではなく、ITや半導体エレクトロニクスを駆使したテクノロジーに変わってきていると語る。そして、生成AIに尋ねるというデモを見せた。パリからラスベガスにやってきて長いフライトで疲れた肌にはどのような処置をすべきかを生成AIに聞き、自分の写真を送ってみたところ、生成AIがあなたの年齢は?と尋ねてきたため、そこで質問を止めてしまった、というハプニングが起きた。 

  Hieronimus氏は、新しい美へのテクノロジー(Beauty Technology)の事例をいくつか示した。まず、髪の毛を染めるカラーソニックデバイスを紹介した。これは、ブラシの付いたデバイスで髪の毛をなぞるだけでプロ並みに染められるというビデオを見せた。技術の説明はなかったが、染めるための2種類の薬剤をブラシの先に送り超音波で髪となじませるようだった。超音波で二つの物質をくっつけるという技術は古くからあり、半導体技術では超音波ボンディングがそれにあたる。

  もう一つの例は、熱を発しないヘアドライヤーだ。これも詳細は述べていないが、示したビデオから、IR(赤外線)パルスを照射して髪を瞬時に温め乾燥させるようだ。キューティクルが暴れることなくきれいな状態を保ったままだった。サーモグラフィで従来のヒーター式のドライヤーと比べた結果、髪の毛に当たる風の温度は20度を示していた。デモを紹介したビデオには、半導体チップが映っていた。Hieronimus氏は、半導体技術まで言及しなかったが、これらのテクノロジーを実現するためには超音波振動子を動作・制御させるためのICは欠かせない。またIR駆動回路にも半導体ICは必須だ。

  彼は最後に、美容技術の将来は、パーソナル医療と同様、化粧品もパーソナル化していくだろうと述べた。一人ずつDNA解析によって個人に合った化粧品を提供するのである。

AIビジネスは始まったばかり

  半導体企業からはIntelのPat Gelsinger CEOが基調講演に登場、CNBCの記者との対談形式で話をした。IntelはAI Everywhere戦略を掲げている。Gelsinger氏は、AIはまだ始まったばかりであり、かつてのWi-Fi勃興期と似ていると述べた。その20年後にはWi-Fi通信が当たり前になったように、AIも20年後には当たり前になると述べている。

  スマートフォンのモデム(変復調回路)やモバイルプロセッサのトップメーカーQualcommのCristiano Amon CEOも、生成AIは野球の9回のイニングで言えば何回なの?と質問され、まだ1回か2回だ、と答えた。QualcommのDNAは消費電力を下げるテクノロジーだからこそ、高性能のデータセンターと相補的に役割分担しながらAIは進んでいくと答えている。

  半導体産業はこれからもまだまだ成長していく、という認識ではIntelもQualcommも同じである。残念ながら日本だけが長い間、半導体は斜陽産業という間違った認識を持ってきたため、世界から大きく取り残される結果になっている。つまり、何度も見せた、世界は成長しているが日本だけが成長していないというこの30年間にわたる事実(参考資料1)をしっかりと見据え、この遅れをこれから取り返していかなければならない。

  ちなみに昨年9月に、11月には確実に前年比プラスになる、と参考資料1で予想したが、実際には9月にほんの僅か0.3%程度プラスになり、10月に同6%増、11月には2桁成長の同12%増となっている。半導体は回復基調に推移している。

参考資料

1.「半導体不況からの脱出、11月には確実に前年比プラスになる!」、News & Chips,(2023/09/28)

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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