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「お金に興味ない」という若者の言葉は本当か〜どうせ僕らには回ってこないという諦めが背景では〜

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
「どうせ、僕らは搾取されるんですよね」(提供:Mono_tadanoe/イメージマート)

■「お金は汚いもの」は江戸時代の質素倹約精神のなごり?

日本人はお金を稼ぐこと、富を得ることに対して、そこはかとない嫌悪感を抱いている人が多いとよく言われます。「お金は汚い」、もしくは「お金に汚い人は汚い」、そう考えていると。

理由は、いろいろ唱えられていますが、例えば、近世の為政者であった徳川家康を開祖とする江戸幕府が、革命や下剋上を防ぐために人々に財力をつけさせないよう、参勤交代などの諸施策とともに、仏教の布教などを通じて強烈に質素倹約の精神(「清貧の思想」的な)を人々に注入し、日本人は慎ましやかに暮らすことが美徳であり、金儲けのことばかり考えているのは下品であるという考えになっていったという説などが有力なものとしてあります。

実際、日本人は現代に至るまで、お金の話を公然とするのはタブーであるとされていますし、仕事でさえもお金を稼ぐためではなく、「働くとは、『傍』(はた)を『楽』(らく)にすることだ」などのダジャレがいつまでも全国の職場に流通しています。特に若者は生まれたときから裕福に何不自由なく暮らしてきたため、この傾向が強い、と。しかし、これは本当なのでしょうか。

■中高年世代がつい語ってしまう「利益」哲学

もし、我々中高年世代の人がこれを鵜呑みにしていて、若者が「そこまで利益が大事か」と言うのを聞いたのであれば、おそらくその人は「お金を稼ぐことは悪いことじゃない」と若者に説教を垂れることになるでしょう。パナソニックの創業者である経営の神様、松下幸之助の利益に対する考え方などを引き合いに出したりなどして。

「確かに、利益の追求自体が企業の最大使命ではない。しかし、事業を通じて社会に貢献するという使命を遂行し、その報酬として社会から与えられるのが利益なのだよ。企業は利益から税金を納めることで、社会の福祉に貢献することになるんだ。利益を生み出せない会社は、社会に何らの貢献をしておらず、本来の使命を果たしていないんじゃないかな。だから『赤字は罪悪』だと思うよ(以上、ほぼ松下幸之助の受け売り)」。

確かに私もこの考え方は大賛成です。若者もこれにはなかなか反論できないでしょう。そして中高年世代は「言ってやった」と溜飲を下げるわけですが、これではきっと若者はげんなりしていることでしょう。それはなぜでしょうか。

■若者はお金が嫌いなわけではない

それは、若者が別に中高年世代が勘違いしているように「お金に無頓着である」とか「お金よりもやりがい」とか思っているわけではないからです。よく、「若者の◯◯離れ」と言いますが、私は実はすべての根本的な原因は、むしろ「お金の若者離れ」にあるのではないかと思っています。

実際、20代の平均年収を調べてみると、この20年間でほぼ右肩下がりで50万円近く減少し、現在は平均で300万円ほどです。もともと少ない年収でこれだけ減ると、それは生活がきつくなり、いろいろなものから離れざるをえないのではないでしょうか。

結婚しないのも、クルマを買わないのも、お酒を飲まないのも、すべてお金がないから――それはもちろん言い過ぎですが、20代の意識の高い人たちが、「もう俺たちはお金がモチベーションなどではない」と宣言したりしているのは、ある意味彼らの素晴らしい意味付け力というかセルフモチベート力によるものではないかと邪推しています。

「お金がモチベーションではない」のではなく、「お金でモチベートしてもらわなくても、別のことでセルフモチベートできますよ」ということではないかと。私の周囲の20代は特殊かもしれませんが、適切にお金に興味のある人が多いです。もちろん、お金「至上主義者」などほとんどいませんが、「お金なんて汚いからいらない」なんていう人もいません。いらないなら、もらいます。

■「若者に利益をちゃんとよこせ」と主張しているのではないか

では、それならなぜ若者は「利益が大事なのか」などと言うのか。私には、「どうせ俺たちが頑張っていくら稼いだところで、上に詰まっている何もしない中高年たちが過剰に搾取していくんだろ。そんなことなら、利益を出すことにあくせくするなんてまっぴらだ。利益なんて度外視して、仕事であろうと生活であろうと、やりたいことをやって楽しみたい」と言っているように聞こえます。

もし、そうだとすれば、彼らに「利益哲学」を説くのは場違いであると思いませんか。若者は心の中で、「いや、そんなことはわかってるから」「利益に貢献してないのは中高年たちじゃないの」「お前が働きに合わせて、給料減らせば利益なんて出るんじゃないの」と叫んでいるかもしれません。

私は、若者の所得向上は急務だと思っています。成果を出さない若者にまで中高年世代の若者時代のように一律に高い報酬をあげる必要はありませんし、一部の大企業を除けばそんな体力はないでしょう。

ただ、日本の労働法では、待遇の不利益改定がしにくいので、中高年の高過ぎる報酬をあまり下げられない分、若者が割りを食っていることが多い。そこで、難しいのはわかるのですが、報酬制度を変えるなど工夫してその状況を改善し、若者であろうと中高年世代であろうと、成果を出した人に高い報酬が渡るようにすることが重要であると思います。我々中高年世代がそれを怠って、場違いな哲学を語ってるだけだとしたら、若者は学習性無気力に陥って趣味に走ったり、ここではないどこかに逃げて行ったりするだけではないでしょうか。

※若者のマネジメントに関する記事をOCEANSにて連載中です。こちらも是非ご覧ください。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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