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西城秀樹⑤ オフコースのカバー「眠れぬ夜」がヒデキにピッタリな理由

田中稲ライター(昭和歌謡・JPOP歌詞研究)

アーティストにリアルに恋することを「リアコ」というらしい。ヒデキ32枚目のシングル「眠れぬ夜」(1980年)は、間違いなくリアコ曲だ。言い方が難しいが、全シングルのパフォーマンスのなかで、一番親近感溢れるテンションのヒデキといっていいだろう!

セーターを着て、ラフに体を揺らし歌う、やさしい笑顔と声の破壊力。ああ、できればカメラ目線の笑顔すべて切り取って「『ヒデキと見つめ合ってるなう』」とハッシュタグをつけ、拡散したい! 全身に力を入れ大暴れするヒデキももちろん大好きだが、「自然体」という言葉が似合うこの曲のヒデキの尊さよ……。

ご存じのとおり、1975年に大ヒットした、オフコースの曲のカバーである。
ただ、名曲であることはわかるが、なぜこの曲をヒデキがカバーする流れになったのかは分からない。オフコースとヒデキの接点が見つからない! 本当に、長年不思議だった。

激しい恋に疲れきったヒデキの後日談と考えれば超納得

しかし今となってじっくりと聴けば、ヒデキほど、この曲を歌うのにふさわしい人はいないと気付く。

これまで愛する人ができたら、愛を連呼し、命もささげると豪語し、祈り、叫び、暴れてきたヒデキソング。聴いていて、誰もが夢中になりながらも心配していたはずだ。

こんな恋愛の仕方を続けていては、いつか燃え尽き症候群になる、と……。

情熱の炎が尽きたとき、彼はどうなるのか。それがこの「眠れぬ夜」。いわば、少し大人になったヒデキが、これまでの恋を反省するLater story!

恋にヘトヘトになっている青年が主人公。しかもヘトヘトになっているわりには、「君がひざまずいて謝ったとしても」と、大風呂敷な表現を絶対忘れない。「ひざまずいて」って、どんなシチュエーションを想像しているのだ! この妄想族っぷり、小田和正さん作詞でありながら、ヒデキの世界観ともぴったりと合うのである。

さらには「あれが愛の日々ならもういらない」「愛に縛られて動けなくなる」とのたまう青年――。ヒデキのシングル曲を思い出し、あんなに強引に盛り上がっておきながら、今さらどの口が言うのかとツッコみたくなることまで込みで、疲れ方がリアルだ。

激しい恋に疲れ果て、「もうこりごり」「あんなの2度と嫌」。けれど、それでも、きっと彼女が目の前に現れたら、素通りできない――。ああ、あまりにもヒデキらしい。

ヒデキが眠れず羊を数えるところまで想像できる曲の終わり方

この曲は、オフコースバージョンと聴き比べても、声は全然違うのに「どこかシンクロしている」感じがあるのがおもしろい。どちらも「思い出フィルター」にかかった恋のメモリアルが脳内でクルクル回っているようなイメージ。ヒデキバージョンは振り付けも秀逸で、

「ちぇっ、思い出しちゃった」
と頭の下に両手を組み、寝っ転がりながら窓の外を見つめている、一人の青年が思い浮かぶ。

 どちらのバージョンも曲の終わりがフェイドアウトなのも、恋の走馬灯風味がたまらない! 眠れず、羊が一ぴき、2ひきと数えているところまで想像できて秀逸である!

一つ前のシングルが「サンタマリアの祈り」というドラマティックの極みのような1曲だったので、リアルタイムで聴いていた人は、ギャップ萌えしたのではなかろうか。失恋曲なのに、不思議と陽だまりのような温かさを感じ、思いもよらぬナチュラル路線にハートがメロメロというか、この曲を聴くと、こちらがドキドキして眠れなくなる!

さあ、眠れない夜と雨の日は、忘れた愛を思い出す。
見方を変えれば、愛を思い出せるチャンスだ。
もうすぐ梅雨に入るけれど、雨の日も怖くないぞ。
この曲を聴きながら、もう一度ヒデキに恋しよう。

ライター(昭和歌謡・JPOP歌詞研究)

Webを中心に、昭和歌謡・JPOP、ドラマ、懐かしのアイドル、世代研究、紅白歌合戦を中心に書いています。CREA WEB「田中稲の勝手に再ブーム」、8760bypostseven「懐かしエンタメ古今東西」連載中。著書に『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)。合同会社オフィステイクオーのメンバーとして、雑学本の執筆にも参加。大阪ナニワにて活動中です。

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