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日本ファクトチェックセンター「テレビ・新聞は対象外」が当然の理由

藤代裕之ジャーナリスト
ヤフーに配信されたSmartFLASHの記事をキャプチャし筆者が作成した

GoogleとYahoo!の支援を受けた日本ファクトチェックセンター(JFC)が10月1日に設立された。テレビ・新聞は(検証の)対象外とのSmartFLASHの記事がヤフーに配信され、議論を混乱させている。そもそもの設立経緯を踏まえれば、媒体としての「テレビ・新聞は対象外」は当然と言える。むしろ、注目はネットメディアの扱いだ。

ファクトチェック機関設立も「テレビ・新聞は対象外」に総ツッコミ「テレ朝・玉川をチェックしろ!」(SmartFLASH、9/30(金)15:48配信)

目的はプラットフォームの信頼性

JFCはガイドラインの第1条で「インターネット上の情報に関するファクトチェックの実施」と定めている。その理由は、センターの設立経緯にある。

きっかけは、偽・誤情報対策を検討する総務省の有識者会議「プラットフォームサービスに関する研究会」がプラットフォーム事業者に自主的な対策を促したことだ。そこで、SIA(セーファーインターネット協会)が「Disinformation 対策フォーラム」を立ち上げ、議論を行い報告書をまとめた。この報告書を受けて設立されている(筆者はフォーラムの構成員だったが、設立には関わっていない)。

当初からフォーカスはプラットフォームにおける偽・誤情報対策、信頼性の向上であり、媒体としてのテレビ・新聞は対象外であった。

「Disinformation 対策フォーラム」の報告書には下記のような記述がある。

従来の情報環境においては、新聞やテレビ等の報道機関が日々の取材や発信内容の多重チェックを通じて健全かつ多元的な言論空間を支える役割を担ってきたところ、インターネット上、特に個人が自由に情報を発信するSNS等においては、それに比肩するシステムが未だ不十分であるとの現状認識があり、プラットフォーム事業者の取組を始めとした関係者の協力によりその不足を補うことが重要かつ喫緊の課題であるとの問題意識によるものである。

テレビには番組審議会やBPO(放送倫理・番組向上機構)があり、新聞には第三者委員会などの検証・訂正を行うシステムがある。ネットやSNSのプラットフォームには、このような検証・訂正を行うシステムがないというシンプルな話に過ぎない。システムが「ある」と「ない」だと「ない」ほうが問題だろう。

むろん、テレビや新聞のシステムが機能しているかは議論の余地があるし、これらのシステムではない別のやり方で検証すべきという意見もある。これは別途議論すればよい。批判や検証は自由だが、経緯を踏まえない記事は、読者を混乱させ、社会的な出来事に対する理解を妨げることになる。

追記:BPOの存在意義が問われるという記事を書いたことがあり、システムが機能しているとは考えていません。フジテレビ「ネットのウソ情報放送」BPO委員長談話が示す制作現場の深刻な劣化(藤代裕之、2017年)

対象は運営委員会での判断

媒体としての「テレビ・新聞は対象外」ではあるが、テレビも新聞も今やネットに記事を配信しており、それが対象となる可能性はある。ネットの記事はプラットフォームの信頼性と関係するからだ。

ガイドラインの第19条(対象言説の設定)第1項(4)に、「正確で公正な言説により報道の使命を果たすことを目指す報道機関として運営委員会が認める者が発信した言説ではないこと」と記載されている。

これについて、運営委員長の曽我部真裕京都大学大学院法学研究科教授は、『「正確で公正な言説により報道の使命を果たすことを目指す報道機関として運営委員会が認める者」は対象外となりますが、メディア産業全体が対象外となるわけではありません。「正確で公正な言説により報道の使命を果たすことを目指す報道機関」に該当するかの判断は、恣意的であってはならず、ジャーナリズム編集方針を定めていることなどいくつかの指標を考慮して、運営委員会で判断します。また、運営委員会が特に必要と認める場合には、報道機関であっても対象とすることは否定されません』と問い合わせに回答した。

注目はネットメディアの扱い

ところでガイドラインに、SmartFLASHの記事を当てはめてみるとどうか。

執筆者がJFC設立の経緯を知らないなら勉強不足で低品質な記事ということになる。モーニングショーや玉川徹氏については、テレビ朝日の番組審議会やBPOがある。不十分と思うなら番組審議会やBPOを批判すればよい。これを知っていてJFCとテレビを結びつけているなら、悪質なミスリーディングと言える。ネットの批判が間違っていれば修正・訂正するのもメディアの役割のはずだが、根拠不明の「ネットの反応」を使い、識者としてコメントしているITジャーナリストも存在しているのかすら分からない。正確で公正な言説であるとは言い難い。

このような記事が、ヤフーに配信されていること自体が、プラットフォームの信頼性を低下させていると言える。熊本地震時の「ライオンが逃げた」や先日の台風15号のAIによる偽被害画像のような個人投稿の検証も重要だが、プラットフォームの信頼性向上のためには、まとめサイトやネットメディアの記事のクオリティ向上が不可欠だ。

参考:まとめサイトやネットメディアといったミドルメディアがフェイクニュースの大きな要因となっていることは『フェイクニュースの生態系』で詳しく説明している。

ネットメディアやスポーツ紙では、曽我部委員長の言う編集方針や報告書が指摘するシステムが存在しているのか不明の場合が多い。ネットメディアやスポーツ紙の扱いを運営委員会がどう判断するのかが注目される。

ジャーナリスト

徳島新聞社で記者として、司法・警察、地方自治などを取材。NTTレゾナントで新サービス立ち上げや研究開発支援担当を経て、法政大学社会学部メディア社会学科。同大学院社会学研究科長。日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)代表運営委員。ソーシャルメディアによって変化する、メディアやジャーナリズムを取材、研究しています。著書に『フェイクニュースの生態系』『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』など。

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