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<北朝鮮内部>金正恩氏にも止められない覚醒剤の蔓延 高校生5人が学校内で使用・密売で逮捕される事件も

石丸次郎アジアプレス大阪事務所代表
金正恩氏は度々覚醒剤根絶を指示しているが、蔓延は食い止められないままだ(写真:ロイター/アフロ)

北朝鮮で覚醒剤の蔓延が問題になったのは最近のことではない。金正恩氏の指示で、薬物犯罪を厳しく取り締まっているという情報もしばしば届く。だが、覚醒剤使用は、根絶どころかさらにすそ野が拡がり続けているようだ。10月に入って、日本の高校にあたる高級中学の生徒が、校内で覚醒剤を吸ったとして検挙されたという情報が飛び込んできた。

北部の両江道恵山(ヘサン) 市の取材協力者が10月末に伝えてきたところによると、市内の新興(シンフン)高級中学の校内で覚醒剤の服用、密売が行われているとして保安署(警察)による集中捜査が行われ、5人の生徒が検挙された。親も保安署に呼ばれて調査を受けているという。

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取材協力者の説明はこうだ。

「新興中学校は、トンチュ(新興成金)や、政府・党の幹部の子供たちが通う学校として有名。問題なのは、子供たちが親を介して薬物に接したり、友人同士で気軽に吸引を勧め合うことだ。最近では生徒たちの間で、『オルム』(覚醒剤のこと)を吸ったら一人前とみなされるという風潮まである。若者が中毒になったり、密売に動員されるケースもある」

協力者によれば、現在、覚醒剤の流通価格は1グラムの120中国元(約1840円)なのだという。

◆覚醒剤が蔓延するようになったのはなぜか。

北朝鮮当局は、外貨稼ぎのために麻薬や覚醒剤を中国への密輸を経由して世界に売りさばいていたが、中国を筆頭に、国際社会が圧力をかけた結果、2007年3月に、麻薬拡散防止のための代表的な三つの国際条約を批准した。

2011年2月20日付の朝鮮中央通信は「中国公安部長が国境地域の安全を守ることを強調」と題した記事を配信した。その中で、中国の国境警備隊が、国境地域で麻薬事件2153件を調査・処理して2883名を逮捕、3.8トンにも及ぶ大量の麻薬を押収した、と報じた。

北朝鮮の国営メディアが、中国当局の具体的な数字をあげて、自国の恥とも言える麻薬密輸の事実を認めたのは極めて異例のことだった。中国から強烈な圧力があったのは間違いないだろう。この頃から、北朝鮮政権は覚醒剤密輸に対して、黙認から取り締まりに転じたと見られる。

中国公安当局が北朝鮮との国境沿いに立てた密輸、麻薬売買禁止の看板。2017年7月に撮影石丸次郎
中国公安当局が北朝鮮との国境沿いに立てた密輸、麻薬売買禁止の看板。2017年7月に撮影石丸次郎

中国への密輸が簡単でなくなると、密造・密売組織は国内で販売するようになり、覚醒剤は流行のように拡がった。富裕層を中心に、タバコのように「一服しなさい」と気軽に勧めるほど「寛容」で罪悪意識が薄い。また「疲労に効く」と薬効を信じている人も多い。まるで、戦前戦後の日本の「ヒロポン」の流行を彷彿とさせる。

金正恩政権の名誉のために言うと、北朝鮮当局は、この5年ほど、中国への密輸はもちろん国内流通も厳しく取り締まっている。

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だが、覚醒剤の危険性が軽視され、罪悪感が希薄な社会風潮と、捕まっても賄賂で解決できるという官憲の腐敗構造のため、覚醒剤の蔓延には歯止めがかからないままだ。

北朝鮮国内の協力者たちは、最近の刹那的な世相も、庶民をして覚醒剤使用に走らせていると指摘する。経済制裁の長期化によって暮らしが悪化し、金正恩政権が改革開放に向かおうとせず、むしろ人民統制を強めているため、将来に展望が持てずストレスだらけ。覚醒剤を吸ってひと時の快楽に酔っていたいという投げやりな空気があり、そこに密売人たち付け込んでいるのだという。

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アジアプレス大阪事務所代表

1962年大阪出身。朝鮮世界の現場取材がライフワーク。北朝鮮取材は国内に3回、朝中国境地帯には1993年以来約100回。これまで900超の北朝鮮の人々を取材。2002年より北朝鮮内部にジャーナリストを育成する活動を開始。北朝鮮内部からの通信「リムジンガン」 の編集・発行人。主な作品に「北朝鮮難民」(講談社新書)、「北朝鮮に帰ったジュナ」(NHKハイビジョンスペシャル)など。メディア論なども書いてまいります。

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