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あなたは今、本当に転職してしまってもよいのか? 〜タイミングを考える5つのチェックポイント〜

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
本当に別れてしまってよいのですか?(写真:yamasan/イメージマート)

■転職希望者数は徐々に増えている

転職活動や中途採用活動の指標として使われる民間の調査指標の1つ「doda転職求人倍率レポート」の最新のデータによると、前年比でも前月比でも緩やかにではありますが、転職希望者数が増加していることがわかります。2020年10月時点で「転職希望者数」は前月比103.8%、前年同月比107.4%とレポートされています。

もちろん、リストラをされて転職活動をせざるをえないというような受け身のケースもあるでしょう。一方で、求人数の方がより増えていて求人倍率も高まっていることを考えると、自発的に転職活動をしている人も多いと思われます。

今のような不安定な時期はじっとしている方がよい、と人事のプロの目線では感じています。

改めて「転職理由」を分類すると、5つの傾向がありそうですが、必ずしも転職が最適解ではないものも少なくありません。

以下、5つの傾向の分析を通じて、あなたは転職すべきなのか?を考えてみましょう。

【転職理由1】価値観の変化が起こっている

社会不安は人々の価値観に影響を与えます。今まではフィットしていた会社や仕事が価値観に合わなくなるということは十分考えられます。

東日本大震災当時の2011年にアクサ生命が行った調査では「自分のことは自分で守る」「家族を大事にする」など人生観が変わったという結果が出ています。

もし、皆さんが転職をしたいと思った理由がこのような「価値観の変化」に結びつくのであれば、悪いことではありません。

というのも、これはもう転職というより「生き方」の問題であり、とても大切なテーマだからです。むしろ、ふだん考えることのない奥底の欲求や価値観が現れている可能性もあるため、じっくり考えてみるべきでしょう。

その上で、ここは人生の節目であると思うのであれば、大きく舵を切るタイミングかもしれません。

【転職理由2】現職・現社への批判からの転職意識

もう一つ、よく聞く「今転職をしたい」理由としては、このコロナ禍への対応を見ていて、自分の会社の将来性や経営者や仲間への信頼感を失ったというものです。

今のような時こそリーダーシップを発揮してほしいのに右往左往していたとか、最終的に出した結論や判断に納得がいかないとか。そういう理由で組織にコミットメントをなくしてしまったというわけです。

実際、どのぐらいの失態であったかにもよると思うのですが、私はこの場合は、もう少し辛抱してみてもよいのではないかと思います。

コロナ禍は未曾有の変化であり、どんな人でも混乱します。事業や組織を変化に合わせて変えるにしても、平時でも1年ぐらいは簡単にかかってしまうものです。しばらく様子を見てみてもよいのではないでしょうか。人間は完璧ではありません。「過ちて改めざる、是を過ちという」です。

【転職理由3】テレワークによる信頼関係の減少

また、コロナ禍で進んだものにテレワークがあります。Zoomなどのオンラインコミュニケーションツールによって仕事やプロジェクトは進めることができると多くの人が感じました。

一方で、カオナビの調査によると、8割近くの人がテレワークを不安に感じています。

中身を見ると、生産性の不安などの次に「さぼっていると思われてないか」「重要情報を知らされてないのでは」など、不信感が見て取れます。

しかし、対面で担保されていた相互理解や信頼関係をどう維持するかは、まだ現在進行系で各企業が対策中です。もう少し待ってみてはどうでしょうか。

【転職理由4】そもそも、その仕事に飽きた

「たまたまコロナ禍に重なったけれども、それとは関係なく転職をしたいのだ」という人もいるでしょう。

そういう人で最も多い理由は「仕事に飽きた」「ここで得られるものは得た」というものです。一見すると、「それなら前向きでよいじゃないか」と思いますが、少し注意が必要です。

というのも、人がある能力やスキルを完全に身につける最後のステージが「飽き」の状態だからです。あることを何度も繰り返すと、どんどん簡単にできるようになります。そこで「飽きる」わけですが、裏を返すと「飽き」があるということは「まだ無意識ではできていない」ということです。「無意識」になって初めて、身についたものが離れなくなります。

ここで止めて次のことをやってしまうと、せっかく身につけた能力やスキルは離れたことによって徐々に減衰していって、蓄積されません。それではキャリアの無駄になってしまいます。

【転職理由5】もっとチャレンジしたい

最後は、同じくコロナとは関係なく「今の仕事はもう楽にできるので、もっと負荷の大きな仕事に挑戦して新しい経験や能力を獲得したい」というものです。

上の「飽き」と似ていますが、異なるのは「飽きた」「つまらない」と感じているからではなく、「楽にできる」「快適」であるから次に行きたいというのです。

これは先の「無意識でできている状態」です。無意識だから別に「飽き」は感じませんし、楽なのです。これなら、私は転職のベストタイミングの一つと思えます。ところが、「楽にできて快適」なところを自分から出ていくことはなかなか難しく、「飽きて」いる時に転職したかった人も、「楽」になると途端に落ち着いてしまい、成長のチャンスを逃すというパターンが多いように思えます。

成長するためにすべきこととして、英語ではよく“Get out of your comfort zone.”などというようですが、そう思えたのであれば、チャレンジしてみてもよいでしょう。

■まとめ:「なぜ、転職したいのですか」

「転職したい」という気持ちは不意にやってくるものです。そしてやってきたときには、それがなぜなのかは自分でもわからないことも多いです。

実際、人間の意志は「受動意識仮説」では、本当の意図ではなく、後付けで自分を正当化しようと、いわば自分を騙すためにいろいろな理屈づけをするそうです。

本当は、不安なだけなのに事業の将来性が問題だとか、本当は自信がないからなのに、家庭を大事にしたいからとか、いろいろな「真実とは違った意味づけ」を信じ込みます。

ですから、このような社会的に不安な時期には、「自分がなぜ転職したいのか」本当に理由はそれなのかを十分に考えてからでも、最後の決断をするのは遅くはないのではないでしょうか。

BUSINESS ISIDERより転載・改訂

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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