日本は1990年代からデフレへ突入していた…日米中のGDP推移
名目と実質、双方のGDPを日米中で確認
国の経済状況を推し量る指標の一つ、GDP(国内総生産)。いくつかの視点でこの動向を、日本とアメリカ、中国に関し、IMF(国際通貨基金)の公開データベース「World Economic Outlook Database」の値を元に確認していく。
単純な米ドルベースでの名目GDPにおいては米中が抜きんでており、両国は今後も高い水準でその値を上げていくことが予想されている。
このグラフは多国間で同一軸上に比較をし易くするよう、名目GDPを用いている。一方、GDP(国内総生産:Gross Domestic Product。国内で生み出された付加価値総額。自国の外に住む自国民は対象に含まれない)には他に実質GDPなる指標も存在する。「名目GDP」は物価変動の影響を受けた表面上の値、「実質GDP」は物価変動の影響を除いて計算された内情的な値。
見方を変えると、名目GDPと実質GDPが均衡していれば物価も均衡、名目GDPが実質GDPを上回ればインフレ・下回ればデフレ(デフレーション:物価下落、通貨価値の上昇)となる。
次に示すのはそれぞれの国内主軸通貨で換算した、つまり為替変動を受けない上での、日米中の実質・名目GDPの推移。2014年までは実質値、それ以降はIMFの予想値によるもの。青色が実質GDP、赤色が名目GDPなので、青が上ならデフレ・赤が上ならインフレ状態にある。
日本は名目・実質がもみあい的な形で推移しており、名目は1990年代でほぼ頭打ち、2010年前後からはむしろいくぶん減退している。その後、2012年から2013年以降は漸増し、500兆円のラインを超えて上向きとなるとの予想が立てられている。一方で実質は名目の上ではほぼ横ばいに移行した1990年以降も漸増を続けており、金融危機で一時期減退する場面もあったが、緩やかながらも上昇を継続している。GDPは名目で語られることが多く、1990年代以降は日本の成長が止まった印象が強いが、実質で見ると成長度合いが緩やかになっただけであることが分かる。見方を変えれば、同時期に物価が安定下落しはじめたことにもなる。
アメリカはきれいでスマートな動き。名目も実質もほぼ一直線で、傾斜が異なるのみ。金融危機前後をターニングポイント的なものとし、実質と名目が入れ替わり、インフレ状態に移行している。
興味深いのは中国。1990年代半ばから成長の動きが見られるが、その当時から名目が実質を上回っており、インフレ状態だったことが分かる。そして2005年前後から名目が累乗的なカーブを示しながら上昇しており、同国の(名目)GDPの上昇が、多分にインフレ化によって引き起こされていることが分かる。無論、実質GDPの動きも堅調かつ確実に上昇していることから、同国の経済が飛躍していることに変わりはないのだが。
GDPデフレーターの意味とその動き
実質GDPが上ならデフレ、名目GDPが上ならインフレであることはすでに説明したが、これを分かりやすくするために設けられた指標が「GDPデフレーター」。これは「名目GDP÷実質GDP」で算出されるもので、数字が「1」を超えた場合は状況として「物価上昇=インフレ」にあることになる。また前年の値と比較することで、経済の方向性を確認することも可能となる。具体的には「現在はデフレ状態だがインフレに向かいつつある」「今はインフレ化だが、経済の方向性はデフレ状態にある」といったところ。
アメリカがゆるやかにデフレからインフレに向かい、その傾向を継続していること、中国が猛烈な勢いでインフレ化を突き進めていること、日本が緩やかな流れの中で今世紀頭からは本格的なデフレ状態に突入し、今後インフレにかじ取りを変えていこうとしている状況が把握できる。
経済の方向性として、GDPデフレーターの前年比を算出したのが次のグラフ。中国は前世紀末に一時期デフレへかじ取りをしたものの、それ以外は得てしてインフレ化、アメリカはゆるやかな形で一貫してインフレ化、そして日本は1990年代からじわりとデフレ化に向かっていたことが良くわかる。
2015年以降の値は予想値だが、この値通りの状況となれば、日本のインフレ化へのかじ取りは実に20年あまりぶりのこと(2014年はプラス1.66%)となる。
インフレかデフレか・日本の詳細確認
次に日本にスポットライトをあて、GDPデフレーターそのものの状況と、前年比の推移をもう少し詳しく確認していく。前者は経済の現状における状態、後者は経済の方向性・流れを示している。
GDPデフレーターの前年比がマイナスならば、資産は使わずに手元に残しておいた方が得。黙っていても価値が上がるのだから。一方プラスの動きを示すならば、資産はどんどん使った方が得となる、むしろ使わないと損をしてしまうとの考えが働く。手持ちに資産を残しておくと、価値が減ってしまいかねないからだ。これがそれぞれデフレ化・インフレ化の動きといえる。
日本のデフレ化は1990年代初頭からその兆しを見せ、中盤頃から本格化する。ちょうどバブルがはじけたころと一致する。その後デフレ化は続き、昨今の金融緩和政策などを経て、ようやくインフレの方向にかじ取りを見せたことになる。とはいえ、長きに続いたデフレ状態は深刻なもので、あくまでもIMFの予想値だが、GDPデフレーターが1.00に回復するのは2025年あたりとの試算になる(予想値は2020年までしか抽出できないが、その後も方向性が維持されるとの仮定)。
デフレ状態が続くと「政府の債務実質負担が増加する」「企業債務の実質的な負担が一層重たくなるので、債務を有する企業の活動が鈍くなる」「物価は下落するが名目賃金、名目金利がさほど下がらないと、実質賃金、実質金利が上昇するため、企業収益を圧迫する」「消費者は手持ち資産の購入力が増すために消費が増大するように見えるが、実質的な効果はさほど大きくない」「住宅ローンを抱えている世帯が多く、その世帯の家計への負担が大きくなる」「物価下落に対する先行き不透明感や『待ちのお得さ』心理から買い控えが起きる」などの弊害が生じる。日本の景気低迷感、特にバブル崩壊後のそれは、デフレ状態が遠因・近因であるといえる。
無論デフレにも良い面はある。自国のデフレは通貨価値の上昇を意味するので、輸入品の購入が容易となる。また資産を有している人は黙っていても価値が上がるのでより有利な状態になる。物価は下がるので商品購入は容易になる。しかし、その商品を購入するための原資を得る経済が落ち込むので、結局元手が無い人は生活が厳しくなる。
金融政策などによる明確なインフレ化へのかじ取りは、色々な意味でここ数十年の日本の流れかを変えそうな感はある。今後の動向にも大いに注目したいところだ。
なお前年2015年時点では1.00への回復は2020年との試算が出ていたが、今回予想値のアップデートの結果、2025年までにずれ込んでいる。今後のインフレの歩み予想に関して、前回予想よりも緩やかになるとの修正が成されたからに他ならない。間接的、データ面の上ではあるが、より強力な金融政策、インフレ化の促進が求められているとも読み取れよう。
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