回復の流れは足踏み。根強い物価高と人手不足への懸念…2024年1月景気ウォッチャー調査
現状は下落、先行きは上昇
内閣府は2024年2月8日付で2024年1月時点となる景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DIは前回月比で下落となる50.2を示したが、基準値の50.0を上回る状態は維持した。先行き判断DIは前回月比で上昇して52.5となり、基準値の50.0を上回る状態となった。結果として、現状下落・先行き上昇の傾向となり、基調判断は「景気は、緩やかな回復基調が続いているものの、一服感がみられる。また、令和6年能登半島地震の影響もみられる。先行きについては、価格上昇の影響などを懸念しつつも、緩やかな回復が続くとみている」と示された。
2024年1月分の調査結果をまとめると次の通り。
・現状判断DIは前回月比マイナス1.6の50.2。
原数値では「変わらない」「やや悪くなっている」「悪くなっている」が増加、「よくなっている」「ややよくなっている」が減少。原数値DIは47.4。
詳細項目は「住宅関連」「製造業」「雇用関連」で上昇。基準値の50.0を超えている詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」「製造業」「非製造業」「雇用関連」。
・先行き判断DIは前回月比でプラス2.1ポイントの52.5。
原数値では「よくなる」「ややよくなる」が増加、「変わらない」「やや悪くなる」「悪くなる」が減少。原数値DIは51.9。
詳細項目は「サービス関連」が下落。基準値の50.0を超えている詳細項目は「住宅関連」以外全部。
現状判断DI・先行き判断DIの推移は次の通り。
現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、再流行の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降2021年1月までは下落を継続していた。直近月となる2024年1月では物価高でマイナスの影響が生じており、暖冬や令和6年能登半島地震の影響もあり、前回月比ではマイナスの結果となった。
先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。
直近の2024年1月では物価高と人手不足への懸念が強い一方で、人の流れの改善や賃上げへの期待などから、前回月比は上昇した。
DIの動きの中身
次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。
昨今では人流増加のプラス影響は力強いものの、ロシアによるウクライナへの侵略戦争の影響でコスト上昇が現実のものとなり、さらに新型コロナウイルスの変異株の影響による新規感染者数の増加が景況感の足を引っ張っている。今回月では暖冬や令和6年能登半島地震の影響が足を引っ張る形となり、前回月比でマイナスを示している。今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」「製造業」「非製造業」「雇用関連」。
続いて先行き判断DI。
今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は「住宅関連」以外の全部。物価上昇、具体的には半導体を中心とした部品や原材料の不足、原油をはじめとした資源価格の高騰、そしてロシアのウクライナへの侵略戦争への懸念が景況感の足を引っ張っている一方で、インバウンドなどの人流の増加、春の賃上げへの期待があり、前回月比でプラスを示している。
人流増加への期待と物価高への不安と
報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。
・年末年始商戦は新型コロナウイルス感染症発生前よりも来客数が伸長し、営業収益も拡大している。完全に世間は通常に戻り、地方は帰省客の増加で都心部より好調である(スーパー)。
・年明けからファミリー層の集客が良く、前年を上回っている。今まで夜間の集客が難しかったが、少しずつ戻っている。団体利用は前年よりは良いものの、いまだに戻っていない(その他レジャー施設[ボウリング場])。
・来客数は、ほぼ前年並みの推移であるが、売上が減少している。商品単価が上昇しているなかで買い控えがみられ、消費が減少傾向にあるようにみている(コンビニ)。
・暖冬や雪不足の影響で、衣料品や靴など、冬の日用品の売上が伸びていない(商店街)。
■先行き
・物価上昇による客の消費マインドの厳しさもあるが、春闘での賃上げが多くの業種で行われる見通しもあり、一進一退ではあるものの少しずつ良くなる(百貨店)。
・台湾からのチャーター便が1月から運航を開始し、インバウンドの入込が順調である。3月まで運行が予定されているため、見通しも明るい。4月以降は見通せない部分もあるがよくなるとみている(観光名所)。
・物価高の影響で買換え需要の低下が続くため、しばらくは厳しい状況になる(家電量販店)。
・見積依頼はあるものの、様々な材料の価格高騰でコストがかさみ、施主は二の足を踏んで大半が見送りになっている。物価高騰が落ち着くまで、まだまだ厳しさが続く(その他住宅[住宅管理])。
インバウンドなどによる人流の増加で商売が好調との声が複数確認できる。他方、一般消費者サイドでは物価高による消費性向の変化が、商売の足を引っ張っているとの声も多々見受けられる。さらに暖冬によるマイナスの影響も見受けられる。
企業動向でも物価高への影響が見受けられる。
■現状
・3か月前と比較すると受注量が徐々に増えている。品物によって業種が分かれるが、特に半導体の動きがよくなっており、それに伴い景気が回復している(一般機械器具製造業)。
・車載用の電子部品向けの出荷が減少している(化学工業)。
■先行き
・民間建築工事は次年度繰越工事を複数抱えていることから、フル稼働状態が当面続くことになる。公共土木工事についても、来年度予算成立に伴う新規受注が期待できる(建設業)。
・モノへの消費拡大の気配がみられない。また、物流2024年問題により、4月以降外注費の上昇が見込まれる(輸送業)。
家計動向同様に企業動向でも、好調なところと不調なところが両極端に見える形となっており、景況感の両極化をうかがわせるものとなっている。「物流2024年問題」(2024年4月からトラックドライバーの時間外労働の960時間上限規制と改正改善基準告示が適用され、労働時間が短くなることで輸送能力が不足するかもしれない問題)への懸念も確認できる。全日本トラック協会の試算では、何の対策もしなかった場合、営業用トラックの輸送能力が2024年には4.0億トン分不足するとある。
雇用関連では現状を再認識できる結果が出ている。
■現状
・人手不足が深刻な状況になっており、採用に金を掛ける企業が増加している。特にウェブ広告やSNSなどが活用されている(求人情報誌製作会社)。
■先行き
・観光地などのホテルや旅館などではまだ人手不足である。ただし、外国人なども含めた観光地での散策などの人出は増えているので、徐々に求人も動いて伸びていくのではないか。ガソリン価格も落ち着いているため、行楽需要に伴った衣料品やレジャー用品なども伸びていくとみている。年度末に向けて工事にも活発さが出ると思うので期待したい(人材派遣会社)。
人材不足解消のために、必要なコストをかける動きが出てきたのはよい傾向に違いない。
リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、結局のところ警戒すべき流行の沈静化とならない限り、経済そのもの、そして景況感に大きな足かせとなり続けるのには違いない。恐らくは通常のインフルエンザと同等の扱われ方がされるレベルの環境に落ち着くのが収束点として判断されるのだろう。あるいは社会様式そのものを大きく変えたまま、通常化するのかもしれない。世界的な規模の疫病なだけに、ワクチンなどによる平常化への動きを願いたいものだが。
さらにロシアによるウクライナへの侵略戦争は日本が直接手を出して状況を改善できる類のものではない。電気代をはじめとした物価上昇の大きな要因となっていることもあり、景況感に与える悪影響は大きなものとなっている。その上、先日の令和6年能登半島地震も大きなマイナス要因となっている。景況感の悪化を押しとどめ、改善へと向かわせる間接的な対応を、関係各方面に望みたいものである。
上記は今記事のダイジェストニュース動画(筆者作成)。併せてご視聴いただければ幸いである。
■関連記事:
【政府への要望の最上位は社会保障、次いで景気対策と高齢社会対策】
【2022年は2.0人で1人、2070年には? 何人の現役層が高齢者を支えるのか(2023年公開版)】
【新型コロナウイルスでの買い占め騒動の実情(世帯種類別編)(2020年3月分)】
※景気ウォッチャー調査
※DI
内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域ごとの景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化している」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。
(注)本文中のグラフや図表は特記事項のない限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。
(注)本文中の写真は特記事項のない限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。
(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。
(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロではないプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。
(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。また「~」を「-」と表現する場合があります。
(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。
(注)「(大)震災」は特記や詳細表記のない限り、東日本大震災を意味します。
(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。