東宝、シン・ゴジラ(第4形態)のフィギュアの立体商標登録ならず
東宝株式会社による、シン・ゴジラ(第4形態)のフィギュア(タイトル画像参照)の立体商標登録出願(商願2020-120003)が拒絶査定となり、不服審判においても登録を認めないとの審決が4月12日に出されています。
なお、この出願は、9類(コンピュータ関係)、16類(文具、印刷物関係)、25類(衣類)、28類(おもちゃ)、41類(エンタメ関係)を広く指定した商願2019-131821の分割出願です。この元出願の方は、28類の「縫いぐるみ,アクションフィギュア,その他のおもちゃ,人形」を除いて、無事登録(6312530号)になっています。
一部の指定商品に対してのみ拒絶理由が指摘された場合に、問題ない指定商品だけを残して補正することで先に登録してしまい、拒絶理由が指摘された指定商品は分割出願として別途争うというのはごく一般的な手順です。
一般に、立体商標の扱いは、その立体が商品の形状そのものとみなされるか否かによって大きく変わります。
たとえば、スマホが指定商品である場合には、常識的に考えてゴジラ形状のスマホは想定し難いので、ゴジラのフィギュアは、いわば看板としての使用とみなされる(たとえば、KFCのカーネルサンダース人形等と同じ位置づけ)ため、類似の先登録がある等の別の拒絶理由がなければ登録されます。
しかし、立体商標が商品の形状そのものと判断される場合には一気にハードルがあがります。商標法には、商品形状そのものは商標登録できないという規定があり、その規定をオーバーライドするためには、相当の知名度があり、消費者が形状を見ただけで商品の出所を認識する状態に至っていること(専門的な言い方では、使用による識別性を獲得していること)が求められます。
「きのこの山」や「たけのこの里」は、使用による識別性を立証し、このハードルを克服した例です。今回のケースで言えば、特許庁は、ゴジラのフィギュアは「縫いぐるみ,アクションフィギュア,その他のおもちゃ,人形」の商品形状そのまんまであると判断し、かつ、使用による識別性が獲得されていないと判断したことになります。商品の形状そのまんまという判断はわかるとしても、使用による識別性が獲得されていないという判断は意外と思う方が多いのではないでしょうか?
一般に、使用による識別性を特許庁に認めてもらうのはハードルが高いです。商標権は更新さえすれば永遠に権利を維持できるので、商品形状そのものの使用を独占できるという強力な権利のハードルが高く設定されるのは当然のことです(「きのこの山」や「たけのこの里」が商品形状そのまんまで商標登録されたことを明治が強くアピールしているのもうなずけます)。しかし、言うまでもなく、ゴジラも知名度という点では相当なものなのでこのハードルを超えられてもおかしくなかったような気がします。
審査と審判の書類を分析してみましょう。
審査段階では、商品の売上等のデータが提出されていない(映画が多大な興行収入を上げているのは明らかだが、今回問題になっている「縫いぐるみ,アクションフィギュア,その他のおもちゃ,人形」の売上が提出されていない)等の理由により、著名性が確認できないことで、使用による識別性の獲得が否定されました。
審判では、商品の販売期間(7年)が短い、市場シェアー情報が提出されていない、売上18億円の根拠が提出されていない、フィギュア類の販売の多くは東宝以外の企業(バンダイ等)によって行なわれている、消費者アンケートの結果ではゴジラ(または、シン・ゴジラ)の周知性は認められるものの出願人(東宝)との関係性に関するデータがないという等の理由により、やはり使用による識別性の獲得が否定されました。
要するに、シン・ゴジラのキャラクターおよび映画としての周知性は認められるものの、「縫いぐるみ,アクションフィギュア,その他のおもちゃ,人形」における周知性が立証されていないという点が大きいという感じです。
個人的には、シン・ゴジラのフィギュアを見れば多くの人が東宝を思い浮かべるという印象なので、この審査および審判の判断はちょっと厳しいのではないかと思います(たとえば、任天堂のマリオのフィギュアの立体商標は人形を指定商品として登録されています)。おそらく、今後、東宝は審決取消訴訟で争うことになると思われます。
追記:仮にこの立体商標が登録されるとシン・ゴジラ類似のフィギュアは東宝のライセンスなしでは販売できなくなってしまうのではとの声が聞かれたので補足しておきます。商標の類似判断は、取引の実情を考慮して需要者の視点から行なわれます。たとえば、処方薬は医師や薬剤師等の専門家が需要者なので少しくらい名前が似ていても誤認混同されることはないので商標としては非類似と判断されることが多いでしょう(類似範囲が狭い)。これに対して市販薬は一般消費者が需要者なので名前が少し似ているだけでも間違えて買う人が出てくる可能性があり、類似と判断されることが多いでしょう(類似範囲が広い)。フィギュアについて見れば、フィギュアを買う人は、通常はシン・ゴジラのフィギュアを恐竜のフィギュアや円谷怪獣のフィギュアと間違えて買うことはないと思われます。つまり、類似範囲が相当に狭く、デッドコピーのパチモノだけに商標権が及ぶことになると思います。