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アウシュビッツの「カナダ」で働いていた女性1116人が選別されてから77年

佐藤仁学術研究員・著述家
(アウシュビッツ博物館提供)

第二次世界大戦時にナチスドイツが支配下の地域でユダヤ人を差別、迫害して約600万人のユダヤ人、ロマ、政治犯らを殺害した、いわゆるホロコースト。そのホロコーストの象徴的な存在の1つがアウシュビッツ絶滅収容所。アウシュビッツ絶滅収容所では欧州からのユダヤ人やロマ、政治犯ら110万人以上が殺害された。

アウシュビッツ絶滅収容所は現在でも世界中からの観光客や欧米、イスラエルの学生らが社会科見学で訪問しており、2019年には過去最高の230万人以上がアウシュビッツ絶滅収容所を訪問していたが、2020年は世界規模でのパンデミックの影響で、アウシュビッツ絶滅収容所博物館も一時閉鎖しており、昨年の訪問者数は52万人程度だった。それでも現在でもアウシュビッツ絶滅収容所は世界的な観光名所の1つである。

そして、アウシュビッツ博物館ではツイッターでも世界中に向けて、様々な情報発信を行っている。世界的に根強い反ユダヤ主義に対しても警鐘を鳴らすツイートも多い。

アウシュビッツで生き延びた人のほとんどが「カナダ」からの物資に助けられていた

そして1944年10月17日は、アウシュビッツ絶滅収容所の「カナダ」で働いていた女性囚人1116人が処刑されたり、別の絶滅収容所に移送されたりするために選別された日だった。

アウシュビッツ絶滅収容所などには全ヨーロッパから毎日のようにユダヤ人らが移送されてきた。彼らが持ってきた荷物、洋服、食料品などが汽車のプラットフォームに足の踏み場もないほど山積みにされていた。それらのユダヤ人の荷物は絶滅収容所では全く不要だった。そして、これらユダヤ人らの富や荷物を選別して片付けをするユダヤ人らがいて、彼らの働いていた場所が「カナダ」と呼ばれていた。ここで選別された財宝や綺麗な洋服、使える商品などはドイツに送られた。写真や汚い靴、メガネなどドイツに送っても使われないものは処分された。

「カナダ」は豊かな国という意味の象徴だったため、片付け部隊は「カナダ」と呼ばれていた。そして「カナダ」には何でもあった。「カナダ」では物凄く厳しい監視の目があり、囚人が荷物からこっそりと盗んだりしたら、厳しく罰せられたり、処刑されることもあった。だがそれでも囚人で「カナダ」で働く人たちは、監視の親衛隊員やカポの目を盗んで、ごまかして品物を持ち出して、絶滅収容所内でパンに変えたりしていた。またユダヤ人らが持ち込んで収集された食料品も「カナダ」には多く、盗んで食べたり、仲間や家族に分け与えたりしていた。「カナダ」は他の絶滅収容所での強制労働とは違って、楽で命を落とす心配が少なかったために非常に人気の職場であり、カポや親衛隊に気に入られないと「カナダ」で働くことはできなかった。

「カナダ」の品物をうまく隠し場所に仕舞いこんで、監視がいなくなってからみんなで分配していることが多かった。食品だけでなく歯ブラシやピン、コップ、くしなどが収容所での生活には欠かせない貴重品だったので、よくくすねていたそうだ。一人で盗んで隠しているとばれやすく処刑されてしまうので、連携プレーがよく見られたと「カナダ」で働いていた人たちは証言している。このように宝石、紙幣、時計、タバコ、酒、香水、衣類、チョコレート、ハム、缶詰、コンデンスミルクなどのぜいたく品も収容所に流れて、多くの囚人の命を救った。また「カナダ」で働く人たちは、盗みが見つかれば死刑になると知っていたが、子供たちのために下着やセーターをこっそりかすめ取っていた。

筆者の専門領域はホロコーストの歴史と記憶のデジタル化で、絶滅収容所に入れられていた人たちの証言や体験を何回も聞いたり、読んだりしているが、絶滅収容所で生き延びた人の多くが、この「カナダ」から調達された品物や食料品で命を繋いでいたり、助けられたと証言している。また生存者にも労働環境が良かった「カナダ」で働いていた人が多い。

そしてドイツの戦況が悪くなった1944年10月にはナチスドイツは絶滅収容所の証拠隠滅を行うために、書類を燃やしたりしていた。そして囚人らはソ連兵がやってくる前に、ドイツなど西側の収容所に歩いて移動させられる、いわゆる「死の行進」を行わされたり、歩けない者やもう働けない者は処刑されたりしていた。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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