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コロナ禍のアイドルライブ 第2回 下北沢ERA「若い子には率先して、ライブをやらせたい」

岡島紳士ライター(アイドル専門)/VIDEOTHINK主宰
下北沢ERA店長・久保寺豊氏

 コロナ禍に入り、3年以上が経過した。エンタメ及びライブシーンへの影響は大きく、とりわけライブハウスを主戦場に活動し、握手会やチェキ会などの「特典会」で利益を上げるライブアイドルシーンは、強い打撃を受けた。

 今シリーズではそんなライブアイドルの当事者や、イベントを数多く開催してきたライブハウスの関係者らに、コロナ禍以降の歩みについて、直接話を聞いて行く。

 シリーズ2回目にご登場頂くのは、2002年5月にオープンし、昨年5月に20周年を迎えた、下北沢ERAの店長・久保寺豊氏。「ライブハウスはコロナ禍以降、どのような感染対策を行って来たのか」「5月から季節性インフルエンザなどと同じ『5類』に移行することを受け、今後どのような方針を取って行くのか」など、話を聞いた。

一旦ライブ自体を止めざるを得ない

下北沢ERA店内
下北沢ERA店内

――コロナ禍に入った当初はどういった印象を持っていましたか?

下北沢ERA店長・久保寺豊(以下、久保寺) 最初は僕らもこんな大それたことになるとは正直思ってなかったですね。2020年3月の頭までは通常営業をしていて。3月の中頃から全国の感染者数が増えて行き、風潮的に「人が集まるところが危険だ」という空気になっていって。3月末には主催者さんの方からどんどん「開催を延期か中止にしたい」という申し出が増えて行きました。緊急事態宣言が出ることが分かり、そこで社内で会議になりまして「一旦ライブ自体を止めざるを得ない」、という結論になりました。だから4月は丸々ライブの予定がなくなりました。

――その場合、キャンセル料などは主催者側には発生したのでしょうか?

久保寺 延期公演をやって頂くという確約をして頂いて、キャンセル料は取らなかったです。会社としてより、ERAとして、という判断でした。小さなライブハウスなので、主催者さんやバンドさんとの直の繋がりが大事なんですよね。その時の判断は「関係を切らないこと」が、僕は重要だと思っていました。

――お客さんを入れてのライブができなくなった一方、配信ライブが活発化して行きました。

久保寺 ERAも3月末の時点でいち早く勉強を始めました。それまで配信は全くやったことがなくて。以前、たまたま配信業者に入って頂いたときに、ご協力の品として貰ったカメラが何台かあったため、それを元にどうやったらいいのか、音響チームと試行錯誤をしました。4月は配信の勉強の期間でしたね。その間、ホールスタッフは壁のペンキ塗りとか、普段改善できていなかった会場内の作業を行っていました。配信を本格的に始めたのは5月の中旬からですね。

家賃も払うことが苦しい状況でした

下北沢ERA店内
下北沢ERA店内

――配信以外に当時行っていたことはありますか?

久保寺 YouTuberさんの動画の収録とか、テレビの再現VTRに使えないかとか、とにかく営業を続けていました。1日に100件、電話やメールをしたりとか。自分から仕事を取りに行くしかなかったので。

――それでもライブができない以上、経営面では相当苦しかったのではないでしょうか?

久保寺 そうですね。助成金の申請もしましたが、それだけでは立ち行かず、(ライブハウスの)家賃を払うことも苦しい状況でした。

――コロナの影響で、都内のライブハウスがどんどんなくなって行きましたよね?

久保寺 はい、身近でも多数閉店してしまいました。東京より地方の方がより顕著でした。自転車操業のところが多く、続けるのは難しかったんだと思います。もう、身につまされて分かります。そうならないように、何か考えて行こうと、四苦八苦でした。

――そうした過酷な状況でもこの仕事を続けたのはどういった理由からでしょうか?

久保寺 今まで当たり前に働いてたことが当たり前じゃなかったと気づいた時に、「他の仕事に就きたい」ではなく、「やっぱりライブハウスで働きたい」っていう気持ちになったんですね。「ライブハウスって楽しかったところなんだな」と改めて思って。大変なんですけどね、続けて行くのって。でも、なくしたくない気持ちが強すぎてそっちが勝った、という感じでした。

――久保寺さんはプレイヤーでもあることも大きいですよね(※久保寺氏は過去にバンド・wooderd chiarie及びsusquatchのベーシストとしても活動している)

久保寺 そうですね。あと、周りに支えてくれる人が多かったことにも救われました。

――クラウドファンディングを行ったり、グッズ制作を行うライブハウスも多かったように思います。

久保寺 自分たちでお金を作ろうということで、クラウドファンディングはうちはやらなかったんですが、グッズは作りましたね。あとはのちに使えるドリンクチケットとか。それから、クラフトビールもうちの会社で作りました。お客さんがたくさん買ってくれました。お客さんだけでなく、バンドやアイドルさんのスタッフさんも。それは本当に助かりました。

直接行政から連絡があったことは一度もないです

下北沢ERA入口付近
下北沢ERA入口付近

――2020年4月には緊急事態宣言が発令され、営業時間は20時までという要請がなされました。その夏くらいから徐々にライブハウスの営業も再開して行った印象です。

久保寺 そうですね。緊急事態宣言中は20時までの営業になるので、大変でした。平日は15時オープン、15時半スタートで。お客さんは来ないけど、それでもやるしかなかったです。

――感染対策についてはどういったことを行いましたか?

久保寺 アルコール消毒をしたり、マスクの着用を必須としたり、基本的な対策は全て行いました。あとは受付でのサーモグラフを使った検温です。高熱が出てる人がたまにいましたね。そういった方にはお帰り頂きました。

――そうしたガイドラインについては、都から直接指示があったのでしょうか?

久保寺 いえ、直接行政から連絡があったことは一度もないです。都の発表がメディアに出て、それを見てこちらで対応していました。うちはキャパ200人の小さなライブハウスなので、もしかしたら大きなライブハウスやホール系のところには連絡があったのかもしれないですが。うちに関しては事前の連絡も事後の連絡もなく、全てメディアの発表を待って、対策していた状態でした。

――そうした感染対策を万全に行っていても、ライブを開催したい主催者は少なかったようですね。

久保寺 そうですね。例えばコロナ禍前に100人動員していたバンドも、10~20人しか入らない、ということがざらでした。そこで始めたのがアイドルさんのライブでした。そうした状況でも、アイドルさんはライブをたくさん行っていると聞いて。知り合いに紹介して貰って、繋いで貰ったりしました。

インディーズバンドのライブって、お酒が飲めるかどうかが重要なのかなと

下北沢ERAと同じビル5階に所在するイベントスペース「5F UP」。ERAと同じくリンキィディンクが運営している。
下北沢ERAと同じビル5階に所在するイベントスペース「5F UP」。ERAと同じくリンキィディンクが運営している。

――コロナ禍に入る前はアイドルライブはやっていなかった?

久保寺 ほとんどやってなかったですね。だからアイドルライブのシステムとか、ビニールシート越しにチェキ撮影を行うとか、何も知らなくて。会場から何を貸し出したらいいのかとかも分からなくて。系列店の新宿Nine Spicesと西永福JAMがアイドルさんのライブをやっていたので、そこにノウハウを教わりました。

――バンドのライブが減り、アイドルのライブが増えて行った理由は何だと思われますか?

久保寺 あくまで僕が思うにですが、インディーズバンドのライブって、お酒が飲めるかどうかが重要なのかなと思います。都からの要請で、緊急事態宣言中やまん延防止等重点措置の間は、お酒の提供ができなかったんですよね。お店としても、お酒の売り上げが望めない以上、そのライブを開催することで利益を上げられないのは辛い。それからそうした"縛り"があるのは、ロックの考えと相反するというのも大きかったのかなと思います。

――アイドルライブではあまりお酒が売れないんですか?

久保寺 はい。やってみてわかったんですけど、アイドルさんの場合は、アイドルさんをライブで応援して、特典会のチェキ撮影などでお金を使いたいのかなと。だからドリンクは全然出ないですね。

――アイドルはコロナ禍でも元気だったんですね。

久保寺 ERAだけじゃないと思われますが、すごく助けられました。お酒で売上を作るのではなく、動員で売上を作るやり方を教えて頂きました。知らないジャンルだったので、いろいろとすごい勉強になりましたね。最初はほんと手探りでした。

キャパが大きくなればなるほど、10割元に戻すのは難しいんでしょうね

下北沢ERA外観
下北沢ERA外観

――5月から季節性インフルエンザなどと同じ『5類』に移行することを受け、屋内でのマスク着用が原則不要になるなど、ガイドラインも変更されます。今後はライブハウスとしてはどういった方針で運営されていくのでしょうか?

久保寺 キャパ最大までお客さんを入れるかどうかは、主催者さんと相談しながらやっていきます。お客さんの声出しに関しても、今は会場としてはOKとしています。マスクの着用に関して必須ではないライブも、5月以降は主催者さんと相談して問題なければ、やって行ければと考えています。

――ちなみに今はコロナ禍前と比べて、どれくらいお客さんが戻っているのでしょうか?

久保寺 全体的に、だいぶ元に戻っていると思います。長くやっているベテランバンドに関しては、8割くらいはお客さんが戻っている印象です。逆に若手のバンドに関しては、お客さんがまだつきにくいようですね。5割くらいじゃないでしょうか。アイドルイベントに関してはコロナ禍前はERAではやっていなかったので、比較がわからないですけど。

――アイドルのライブに関わらず、1000人以上の規模から100人程度の規模まで、総合してコロナ禍前の6、7割しかお客さんがライブに戻って来ていない、という話を聞きます。

久保寺 キャパが大きくなればなるほど、10割元に戻すのは難しいんでしょうね。ERAのキャパは200人ですから。バンドに関しては、コロナ禍による解散も多かったです。ただ、解散した後に新しくバンドを組んでいるアーティストも増えてはいます。とはいえ、絶対数は減っています。大学生のバンド活動、サークル活動がずっと停滞していたようなので。だからまず若い子には率先して、ライブをやらせたいなと思っています。

    

※記事内、久保寺氏の画像は著者撮影。それ以外は下北沢ERA提供。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人のテーマ支援記事です。オーサーが発案した記事テーマについて、一部執筆費用を負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】

ライター(アイドル専門)/VIDEOTHINK主宰

著書、共著は「グループアイドル進化論」「AKB48最強考察」「アイドル10年史」「アイドル楽曲ディスクガイド」。埼玉県主催「メディア/アイドルミュージアム」(12年11月~13年4月)アドバイザー。「バイキング」「スッキリ」「5時に夢中!」などに出演。「アイドル楽曲大賞」コメンテーター。ガールズカルチャーメディア「VIDEOTHINK」を主宰し、吉田凜音「りんねラップ」を生んだE TICKET PRODUCTION「E TICKET RAP SHOW」シリーズを制作。同シリーズでは根本凪(ex.でんぱ組)、水春(ex.ukka)、ようなぴ(ex.ゆるめるモ!)、青山ひかるらをフィーチャーした。

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