コロナ禍のアイドルライブ 第1回 下北沢SHELTER「声を出したいお客さんは多いんだろうなと」
コロナ禍に入り、3年以上が経過した。エンタメ及びライブシーンへの影響は大きく、とりわけライブハウスを主戦場に活動し、握手会やチェキ会などの「特典会」で利益を上げるライブアイドルシーンは、強い打撃を受けた。
今シリーズではそんなライブアイドルの当事者や、イベントを数多く開催してきたライブハウスの関係者らに、コロナ禍以降の歩みについて、直接話を聞いて行く。
シリーズ1回目にご登場頂くのは、人気沸騰中のテレビアニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」の聖地としても知られる、下北沢SHELTERの副店長・川本俊氏。「ライブハウスはコロナ禍以降、どのような感染対策を行って来たのか」「5月から季節性インフルエンザなどと同じ『5類』に移行することを受け、今後どのような方針を取って行くのか」など、話を聞いた。
「まあ大丈夫だろう」という雰囲気があったと思うんです
――コロナ禍に入った当初はどういった印象を持っていましたか?
下北沢SHELTER副店長・川本俊(以下、川本) 流行り始めた時期は「まあ大丈夫だろう」という雰囲気が世間的にもあったと思うんです。ただ、ライブがどんどん中止になっていって、これはまずいんだなという実感が湧いてきました。
――明らかに風向きが変わったと感じたのはいつからでしょうか?
川本 2020年2月終わりくらいからですかね。3月は10本ぐらいしかライブをやっていません。他は全部中止になっています。
――まだこの感染症に対する対策が世間的にも浸透していない時期だったように思います。2月には大阪市内のライブハウスでクラスタが発生していたこともあり、ライブハウス自体がまるで感染拡大の温床のように、世間から批判を受け始めました。3月以降から、ロフト系列をはじめ、ライブハウスでの本格的な感染対策が全国的に広がって行った印象です。
川本 そうですね。特に下北沢はライブハウスが多いので、感染対策にしても、足並みを揃えていく必要があるなと思っていたので。テーブルや床を消毒したり、バーカウンターの受け渡し口にビニールシートを吊るしたり、お客様の検温をしたり、基本的な対策を徹底しました。SHELTERは元々最大キャパが250名なんですが、当初は30人程度まで減らしました。通常はオールスタンディングでやるところを、ソーシャルディスタンスを守るために椅子を並べて。そうやって7月ぐらいから少しずつライブを再開していきました。
平日での公演はほとんど無理でしたね
――4月には緊急事態宣言が発令され、営業時間は20時までという要請がなされました。
川本 立地の関係上、元々平日は17時からしか音を出せないんですよ。だから20時に音を止めるとなると、実質3時間しか音が出せないので、平日での公演は難しい状況でしたね。コロナ禍前は平日は基本夜に毎日、土日祝日は1日に1、2回、ライブを行っていましたが、それがほぼ中止や延期になりました。1回目の緊急事態宣言が5月に終了して、ぽつぽつ再開できるようになって来たのは、夏あたりからでしょうか。7月、8月でそれぞれ10本ずつ、開催しています。9月あたりからやっとコロナ禍前の開催本数に戻る兆しが見え始めました。
――いったんは通常の営業時間に戻ったものの、その後、緊急事態宣言とまん延防止等重点措置の発令が繰り返され、営業時間の短縮の要請も行われました。
川本 そうですね。それにともなって、土日祝日のお昼の公演を行う主催者さんも増えて行きました。
――ライブができないということは、ライブハウスにとっての収入源がなくなる、ということになります。経営面ではどうでしたか?
川本 うちはまだ母体の会社に体力があったので、続けていくことができました。助成金などを国から頂きながら、ですが。アーティストサイドから寄付を頂いたこともありました。
――スタッフが辞めて行ったりは?
川本 バイトの子は何名か辞めちゃった子もいますね。当初はアルバイトを使う余裕もなかったので、社員だけで公演を回してました。受付とバーカウンターの2人だけ社員で、PAさんと照明さんだけみたいな。今はアルバイトが10人ぐらい、コロナ禍前まで人数は戻っています。
――クラウドファンディングを行ったり、グッズを販売して資金を得ていたライブハウスも多かったように思います。
川本 SHELTERはクラウドファンディングはやらなかったんですけど、バンドとコラボして、Tシャツなどのグッズを作ったりはしました。コラボグッズって色々と難しいアーティストさんもいると思うんですけど、二つ返事でやってくれるところがたくさんいてくれて。「困ってるならやりましょう!」って。それは本当にありがたかったですね。おかげさまで結構枚数が出て、総数で500枚以上は売れたと思います。ライブが開催できなかった頃はひたすらグッズの発送をしていました。
アイドルのお客さんはほぼほぼ戻っている
――ご家族からはライブハウスでの勤務について、何か言われたりはしましたか?
川本 親戚の方からはありましたね。「東京のライブハウスで働くって大丈夫なの?」って。
――それでも続けようと思ったのは何故でしょうか?
川本 2021年がSHELTERの30周年だったんですよ。“周年イベント”はライブハウスにとってすごく大事なんです。「少なくともそこまでは」という意識はあったかもしれないです。良くも悪くもコロナ禍が深刻な時は時間はあったので、周年のことやライブハウスの未来を考えつつ、ちょっとでも明るく希望のある話をしていた気はします。
――アイドルのライブにかかわらず、1000人以上の規模から100人程度の規模まで、総合してコロナ禍前の6、7割しかお客さんがライブに戻って来ていないと聞きます。SHELTERさんはコロナ禍前の最大キャパは250名程度ですが、最近はお客さんの数が元に戻りつつあるのでしょうか?
川本 そうですね。ただお客さんの年齢層がちょっと高いバンドさんは、まだ戻りきってない感じもしますね。若いバンドに関しては、もうほぼほぼ戻っている印象です。アイドルに関しても同じ程度、戻って来ていますね。ちなみに今は明確なキャパ制限を要請されているわけでもないのですが、多くても200名までで、キャパ最大まではお客さんを入れないようにしています。
――これは余談なんですけど、「ぼっち・ざ・ろっく!」効果でお客さんが増えたりはしましたか?
川本 すごくありますね。年末ぐらいから、当日券が売れることがとにかく増えました。だから今、SHELTERを使って貰えるとかなりお得だと思います(笑)。新規のお客さんが増える可能性があるのではないかと。
声を出したいお客さんは多いんだろうなとは思います
――5月から季節性インフルエンザなどと同じ『5類』に移行することを受け、屋内でのマスク着用が原則不要になるなど、ガイドラインも変更されます。今後はライブハウスとしてはどういった方針で運営されていくのでしょうか?
川本 外枠のガイドラインが決まれば、その中でどうするのかは主催者さんに合わせる方針です。例えばお客さんの「声出し」については、既にガイドライン的には「マスクを着用しているならOK」なのですが、主催者さん的にNGならNGで問題ありません。不快な人がより生まれない方がいいと思うんですよね。それ以上は価値観のすり合わせじゃないでしょうか。あるアーティストのファンでも、コロナ禍前と後にファンになった人の間では、価値観に相違がある。そこを相談して、すり合わせて行く、ということだと思います。
――アイドルに関しては、声出しOKにしてからお客さんが増えた印象はありますか?
川本 それはあまり関係ないかもしれないです。声を出せなくても、アイドルのお客さんはそのルールの中で応援されている、と思います。ただ、声を出したいか出したくないかでいえば、声を出したいお客さんは多いんだろうなとは思います。5月以降、お客さんのマスク着用を必須にするかどうかは、世の中の状況次第ですね。単純に夏にマスクをすると熱中症など、別のリスクもありますから。臨機応変に対応して行きたいです。
――最後に、この記事を読んでいる人に何か伝えたいことはありますか?
川本 そんなに気負わず遊びに来て欲しい、って感じですかね。感染対策についても、急に緩めたりしませんし。でも、基本的にはやっぱり自由な場所でありたいとは思うんですよね。マナーは守りつつ、楽しんで欲しいなと思っています。
※記事内、川本氏の画像は著者撮影。それ以外は下北沢SHELTER提供。
【この記事は、Yahoo!ニュース個人のテーマ支援記事です。オーサーが発案した記事テーマについて、一部執筆費用を負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】