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「退化した」。月亭方正が明かすコロナ禍での思い。そして、山崎邦正について

中西正男芸能記者
コロナ禍での思い、そして“山崎邦正”への思いを

 2008年に月亭八方さんに弟子入りし、落語家として歩みを進める月亭方正さん(52)。年末恒例の日本テレビ「笑ってはいけない」シリーズでも注目を集めましたが、自身にとって昨年は「退化した」と位置付けます。そのココロとは。

山崎邦正の終わり

 年末が近づいてくるとビンタを期待され、年が明けたら感想を言われる。

 ずっと仕事をしてきて、こんな番組はないですよ。「ガキの使いやあらへんで」(日本テレビ)が僕のテレビ史ということにもなるんだと思います。

 ただ、これは僕がどうこうしたわけでは全くなくて、大きな流れの中で、そこにいさせてもらえただけの話です。

 特に大みそかの特番は、国民的番組みたいなトーンにもなってますし、そこのメンバーである幸せをこれでもかと感じています。

 そして、あそこに出なくなった時が“山崎邦正”の終わりだと思います。

 ただ、それは僕なんかの意思で終わりを決められるものではない。これもまた流れの中で、あそこに出ない年末が来た。その時がテレビタレントとしての山崎邦正に一区切りつく時なんだろうなと。自分のことながら、ある意味、客観的にそうとらえています。

 これまでも言ってきたことですけど、山崎邦正で活動する時間、できる時間はもうそんなに長くないと思っています。そして、それがいよいよ近づいてきている。

 となると、今後は月亭方正としての活動、すなわち落語家を完全なる軸にしていくことになる。そこのギアチェンジはしっかりと意識してやるべきだと思っています。

知ってもらうことへの甘え

 YouTubeとかニコニコ動画のチャンネルも始めたんですけど、なんでやるのか。全ては「落語会に来てもらう」。これのためなんです。

 08年に落語の世界に入って、今は月亭方正の名前でやってますけど、街で声をかけてもらったり、SNSでコメントをくれる人。そのほとんどは山崎邦正としての僕に親しみを持ってくれている人です。

 もちろん、それはありがたいことです。だけど、そんなに遠くない未来、月亭方正に親しみを持ってくれる人の方が多い状況を作りたいし、作らないといけない。

 じゃ、月亭方正に親しみを持ってくれる人はどういう人なのか。これはすごく明確で、生で落語を聞いてくれた人です。

 生で聞いた人はオセロをひっくり返すみたいに、山崎邦正の側から月亭方正側にクルンと変わるんです。

 だったら、落語会に足を運んでもらうにはどうしたらいいのか。その答えが、月亭方正を、そして、落語を、知ってもらうことなんです。

 よく考えたら、個人のお店でも、企業でも、知ってもらうためにものすごいお金を使うわけですから。知ってもらうって、本当にすごいことなんですよ。

 僕の場合は、これもありがたいことなんですけど、テレビで知ってもらうということに恵まれてきました。だから、そこにある種の甘えもあっただろうし、自分発信で知ってもらうことの難しさを今まさに痛感しています。

「使ったらいいんだよ」

 ただ、YouTubeをするにしても「山崎邦正に甘えたらアカン」という思いがずっとあったんです。

 新たなものを生み出すためにやっていることなのに、山崎邦正的なことをやって人を集めるのは、結局、山崎邦正に頼っていることになる。

 でも、事実として興味を持ってくださっているのは“山崎邦正側”の人が圧倒的に多い。たくさんの人に見てもらわないとどうしようもないんだから、まずは山崎邦正的なことをやるのもいいんじゃないか。でも、それは…。そんな葛藤があったんです。

 そういった中、先日、大きなきっかけをいただきました。

 千葉で林家たい平さん、柳家花緑さん、僕という三人の落語会があったんです。僕にとって、それはすごくうれしいことでした。

 林家たい平という看板。柳家花緑という看板。そこに自分が入って落語会ができている。ということは、少しずつでも自分は落語の階段を上れているのか。そう思える場だったんです。

 そこで話をさせてもらう中で、それこそ、今言っていたYouTubeでの迷いもお伝えしたんです。じゃ、お二人が即答してくださいました。

 「もっと“山崎邦正”を使ったらいいんだよ。だって、普通の噺家はそんなことできないんだもの。方正さんしかできないんだから、バンバン出した方がいいって」

 それは自分にしかできないことだ。そんな矜持を持ってやるくらいでもいい。そう背中を押してもらうことにもなって、どこまでもありがたい場になりました。

 実は、それって“一番の理解者”からも言われてたことやったんです。「“山崎邦正”を使える時間は限られてるんだから、いろいろやった方がいい」と。ま、一番の理解者というのは嫁なんですけどね(笑)。

 世間的なイメージとは違うかもしれませんけど、僕は本来カチカチの考え方をする人間で、なかなかそこが柔軟にならない。そこを周りの人にほぐしてもらってるんです。それでいうと、嫁のみならず、娘にも後押しをしてもらったりもしています。

 「パパは歌を作ったりもしてるんだから、それを落語につなげたら若い人にも注目されるんじゃない?」と言われて、先月、落語の噺をもとにした曲「猫の茶碗」をiTunesなどで配信を始めました。音楽という入口はポップになるかなと思って。

退化の年

 そもそもの話でいうと、YouTubeなどを始めたのには、新型コロナ禍の影響も多分にあったんです。誰しも影響を受けていることですけど、僕も落語会が全部飛びました。

 今まで月に10本くらいはあった落語会がなくなる。そうなると、すごく不安になるんです。本当にナニな言葉ですけど、去年は“退化”ということをすごく感じました。

 感覚的な話になりますけど、朝起きて一日を始める中で「アレ?なんか今日ツイてないな…」と思うことってあるでしょ?停めようと思っていた駐車場が直前で満車になったり、信号がことごとく赤になったり。

 テレビ番組の収録に行っても「なんか今日は噛み合わないな」とか「巡り合わせが悪かったな」という感覚になる時があるんです。でもね、落語ではそれが一切ないんです。なんというか、全部が必然というか。

 落語は僕がけいこして、用意したものをお客さんにぶつける。お客さんが重いとか、よく笑ってくれるとかいう差異はありますけど、終わった後に「今日はツイてなかったな」ということがないんです。

 自分が準備して、自分が演じて、お客さんの反応がある。この一連の“報われ感”と言いますか。そこには、駐車場が満車になる、信号に引っ掛かる、収録で噛み合わない。そういう偶然の要素がない。さらに、しっかりと目の前のお客さんの反応がもらえる。その気持ち良さ、潔さが落語にはあるんです。

 実は、これこそが、僕が落語の世界に入ろうと思った原動力だったんです。テレビに出てても、自分がちゃんとできてるのか、イケてるのか、結果が見えないから不安で仕方がない。

 落語によってその思いを取り除いてもらってきたのに、落語ができないと、また昔の感覚になってしまう。不安な自分が出てきてしまう。それをもって“退化”という言葉を意識するようになったんです。

 しかも、月亭方正を知ってもらう大事な場でもあるのに、それがなくなってしまう。何重にも、退化した気がしてならないというか…。

 それを強く感じたからこそ、もっと、もっと出力高くやらなアカンとも思えましたし、もっと、もっと落語への誘引もやらなアカン。だからこそ、YouTubeとかSNSも、さらに力を入れようと思えたんです。

 無理やり良いことを抽出するわけじゃないですけど「退化を感じたからこそ、プラスを上積みできた」。そう持って行かないとダメだと思ったんです。

 なので、今はいろいろなYouTubeも見てます。ただ、やっぱりね、僕も完全にオッサンやから、もう、若い子の直感的な感覚が分からんのですよ…。

 この前、見てたのは千秋がレコーディングスタジオで「ゲレンデがとけるほど恋したい」を普通に歌ってるだけの動画だったんです。ただ、それが何十万回も再生もされている。…正直、意味が分からなくて。これ、何が面白いねんと(笑)。

 ここがオレのオッサン度の高さやねんなぁ…。嫁にTikTokもやった方がいいと言われて始めたんです。去年の夏くらいからやって、今で17万フォロワーくらいにはなったんですけど、これも、なんで数字が上がってるのかが分からん…。

 すごく話題になったというか、数字が伸びたのが、僕がフライドポテトを食べる動画なんですけど、特に何もせず普通に食べるだけ。それが大バズり。自分でアップして言うのもナニやけど、これ、何が面白いの?(笑)

 ホンマにね、もう、自分のオッサン度との戦いでもありますけど…、進むと決めた道ですから。なんとか頑張っていこうと思っています。

(撮影・中西正男)

■月亭方正(つきてい・ほうせい)

1968年2月15日生まれ。兵庫県出身。本名・旧芸名は山崎邦正。大阪NSC6期生。88年にデビューし、93年まではお笑いコンビ「TEAM-0」として活動。コンビ解散後はピン芸人として再スタートする。2008年、月亭八方に入門し、月亭方正の名をもらう。音楽と落語の融合に挑戦した楽曲「猫の茶碗」を先月からiTunes、レコチョク他、音楽配信サイトでデジタル配信を開始。YouTubeチャンネル「月亭方正 落語道」(https://youtube.com/channel/UCqIXcCDxPecyxEqAlFCXXug)、ニコニコチャンネル「HOUSEIプロデュース(公式)チャンネル」(https://sp.ch.nicovideo.jp/hosei?cp_in=ch_watchInformation)も展開中。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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