「山口達也メンバー」「お前、NHK?」→呼び方の違和感はどこから来るのか〈TOKIO〉〈麻生太郎〉
日本でただ一人の「呼び方」研究家、五百田 達成です。今週は、呼び方について考えさせられるニュースの多い一週間でした。
山口メンバー? 山口容疑者?
人気タレント・TOKIOの山口達也さんが、強制わいせつ容疑で書類送検されました。女子高校生を自宅に招いて飲酒を勧め、さらには無理やりキスをしたとのことです。
巷で話題となったのは、各報道の山口さんの名前の報じ方。一部の媒体は「山口容疑者」としましたが、多くの媒体は「山口メンバー」という、なんとも聞き慣れない呼び方で報道したのです。さらには、同じ媒体でも、時間帯によって呼び方が変わった例があったとのこと。
所属事務所への配慮なのでは、社会復帰を妨げない目的があるのでは、といった推測が飛び交い、中には「すでに示談が進んでいるため『さん』や『容疑者』を用いない」と姿勢を説明する番組もありました。
「山口メンバー」と「山口容疑者」に呼称が分かれたTOKIO山口達也へのマスコミ報道
「呼び方」には大きく分けて、「相手呼び」「自分呼び」「第三者呼び」の三つがあります。今回のケースは、メディアが山口さんを「第三者呼び」したもの。「呼び方」には当事者同士の関係・心理的距離が如実に反映されます。
結果として違和感を与えることになりましたが、各メディアは、山口さんとの距離感、読者・視聴者に与える印象、伝えるべき情報との狭間で苦慮した結果、「メンバー」という呼び方を選んだわけです。
麻生太郎財務相の「お前、NHK?」
いっぽう、もっとぞんざいかつ、無配慮に「呼び方」を選択したがゆえに、反感を買う結果となったのが、麻生太郎財務相です。
福田淳一財務事務次官の辞任について記者たちから質問された麻生太郎財務相は、質問内容に苛立ちを隠せず、記者相手に「お前、NHK? 見かけない顔だな」とかみつきました。
こちらは「第三者呼び」ではなく、記者に対して「相手呼び」をしている様子が視聴者に拡散した形ですが、もちろん「相手呼び」も二者間の距離を如実に表すものとなります。
まず「お前」というのは、大変に距離の近い呼び方。しかも、相手を下に見ている印象を与える呼び方です。いわば、とても”なれなれしい”。それを、仕事相手に向かって無遠慮に発するというのは、あまりに高圧的な態度と言えるでしょう。
さらには、今回に限らずいつも「お前」と呼ばれるような関係を黙認している、ふだんから”舐められている”実情が垣間見えたわけで、記者たちとしても恥ずかしい一幕となりました。
社名で呼ぶ? 個人名で呼ぶ?
「お前」呼びだけでなく、後半の「NHK?」という部分も注目に値します。
相手を、組織名・社名で呼ぶのは、心理的距離の遠い呼び方です。「御社」「○○商事さん」と呼ばれるよりも、「田中さん」「幹夫さん」と名前で呼ばれるほうが、うれしいものです。
ですから今回の場合、「お前、タカハシだったっけ?」なら、まだしも一貫性があったわけで、「お前」と近い呼び方で呼んでおいて、「NHK?」と遠い呼び方で呼ぶという構造が、もう一つの違和感の理由です。
※厳密には相手を社名で呼んだわけではなく、相手の所属社名を確認した形ですが、政治家が記者を「社名」で呼ぶのはよく見かける光景。きちんと相手の名前を覚えて呼ぶというのが人間関係の理想です。
名は体を表す。
呼び方は人間関係を表す。
呼び方に注目すると、いつものニュースも違って見えてきます。