米ツアー大会、「備え」あれば「未来」が開ける!?
ここ数日、米ゴルフ界では「RFID」が話題になっている。
新型コロナウイルス感染拡大の影響でストップしている米ツアーが6月11日から再開された場合、最初の4試合は無観客で開催される予定になっているが、5試合目以降は観客を入れるかどうかを検討中だ。
その6試合目に当たるメモリアル・トーナメントが、観客を入れた場合は「RFID」チップを利用してソーシャル・ディスタンスを保っていくというアイディアを発表。「RFIDって何だ?」と注目が集まっている。
しかし、このRFIDは、実はコロナ対策のために新規導入されるものではなく、すでにここ4年間、テスト導入されてきた技術だ。
【RFIDって何だ?】
帝王ジャック・ニクラスが大会ホストを務めるメモリアル・トーナメントはオハイオ州ダブリンのミュアフィールド・ビレッジが舞台となる権威ある大会だ。日本のゴルファーには松山英樹が米ツアー初優勝を挙げた大会として記憶されていることと思う。
そのメモリアル・トーナメントの大会ディレクター、ダン・サリバン氏は、今年7月16日~19日の大会を入場チケット数を少数に絞った上で観客入りで開催する意向を示し、同時に、感染防止のための細かな工夫を発表した。
その中には、グランドスタントを建てないこと、スタッフやボランティア全員にマスクを提供すること、入場者全員の検温を行なうこと、ドラフトビールやソーダ類の販売をしないことなどが規定されている。
そして、その中で際立っている対策が「RFID」チップを利用するというものだ。
RFID(radio frequency identification=無線ID)なるものをギャラリー用の入場バッジに付けることで、人々の動きが手に取るようにわかり、「密集状態ができていたら、すぐさま引き離す」という代物だそうだ。
監視されるようで怖い、嫌だと感じるかもしれないが、サリバン氏いわく、「個人情報などを抜き取るものではない。人がコース内のどこにいるかを探知するだけ。密集しているグループが家族なのか何なのかを探るのではなく、『離れてください』とお願いするだけです」。
実を言えば、この優れもの、コロナ対策のために慌てて導入されるものではない。同大会では4年前から導入されてきた技術なのだ。
【渋滞対策からコロナ対策へ】
ミュアフィールド・ビレッジにはメインの入退場ゲート以外にも、方々に小さなゲートがあるが、閑静な高級住宅地とコースをつなぐ道路は、案外、狭く、見通しはどちらかと言えば悪い。
そのゲート周辺で入退場するギャラリーが、徒歩であっても集中して「渋滞」してしまったら、通りを走る一般車両の妨げにもなり、交通事故につながる危険性もある。
そうした事態を防ぐ目的で、同大会では4年前からRFIDチップをギャラリーバッジに付して、人々の流れを常時探知していた。
その技術と手法を、コロナ禍で求められるようになったソーシャル・ディスタンス保持に活用しようということになった。
「マーシャルにRFIDの端末を持たせ、付近で密集ができていたら、すぐさまその場へ急行し、『離れてください』と呼びかけます」
日頃から「備え」があったからこそ、それをすぐさま活用することができる。だからこそ、観客を入れて大会を開催するというチャレンジに挑むことができ、「未来」が開けるというわけだ。
【1大会の備えがツアーの未来を開く】
メモリアル・トーナメントの前週に予定されているジョンディア・クラシック(7月9日~12日)の大会ディレクター、クレア・ペターソン氏は「6月再開からの4試合が無観客での開催と発表されたことで、それらに続く5試合目の我が大会は、観客入りで開催されると受け取られてしまった。だが、それは誤解で、まだ観客を入れるかどうかは未定。迷っている」。
ペターソン氏は、RFIDチップの存在を知らず、メモリアル・トーナメントが4年前からRFIDを導入していたことも、今年、それをソーシャル・ディスタンスを保つために活用しようとしてることも「知らなかった」そうだ。
しかし、メモリアル・トーナメント側からRFIDの存在を教えてもらい、「これは素晴らしい。是非とも導入を検討したい」と大喜びしたという。
まさに、1大会の備えがあれば、別の大会の未来も開け、米ツアー全体の未来が開けるという素晴らしい例になりそうだ。