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マネタリーベースは過去最大を記録中、その意味とは

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 日銀は4日に7月のマネタリーベースを発表した。マネタリーベースとは、日本銀行が世の中に直接的に供給するお金のこと。具体的には、市中に出回っているお金である流通現金(「日本銀行券発行高」+「貨幣流通高」)と日本銀行当座預金(日銀当座預金)の合計値となる(日銀のサイトより)。

 日銀の金融政策において、マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続するとしている。

 消費者物価指数(除く生鮮食品)が2%に全く届いておらず、マネタリーベースは増え続けている。ただし、ここにきての増加については新型コロナウイルスで打撃を被った企業の資金繰りを支える金融機関に対し、通常より有利な条件で資金を供給するなどしていることも影響しているようである。

 7月末のマネタリーベースは前年同月比11.2%増の576兆3027億円となり、4カ月連続で過去最大を更新した。内訳として、日銀券(紙幣)は同6.0%増の113兆8987億円、貨幣は1.4%の4兆9551億円、そして金融機関が日銀の当座預金に預けている残高は12.7%増の457兆4489億円とこれが大きく伸びている。

 マネタリーベースはすでに日本のGDPを上回っている。日銀が金融政策において国債を主体に買い上げており、その結果としてマネタリーベースも増加させた。しかし、マネタリーベースをここまで増加させても物価はビクともしないところを見る限り、マネタリーベースと物価との相関はないとみなすのが普通なのではないかと思われる。

 現状は新型コロナウイルスによる経済への影響を軽減させるための措置が必要なことで、それによるマネタリーベースの増加はいたしかたない。しかし、ここまで積み上がったマネタリーベースを「物価を上げるため」にさらに積み上げる必要はない。

 マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続するとの金融政策決定会合の公表分の文面もそっと削除しても問題はないように思うのだが。すでに日銀は金融政策の政策目標をマネタリーベースという量から金利に戻している。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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