失業や移民よりも経済状況が大きな懸念…EUの懸念事項をさぐる(2020年7月調査版)
欧州連合欧州委員会(European Commission)は2020年10月に、同会が毎年2回定点観測的に行っているEU全体における世論調査「Standard Eurobarometer」(※)の最新版となる第93回分の結果を発表した。それによると、現在EU全体の最大の懸念として挙げられたのは経済状況に関する問題で、全体の35%が懸念を表明していた。移民・公的債務、保健衛生がそれに続いている。
2015年以降外電でたびたび伝えられている通り、欧州諸国の経済問題が最悪期を脱したように見えたことや、中東情勢問題の悪化を受け、EU諸国への移民(難民)問題が大きな社会問題化している。
さらに移民が移民先にたどり着いても地元住民との間での対立も絶えず、文化的衝突も多々生じ、社会的公平性の概念による保護への理不尽さを感じる地元住民の不満の増加も併せ、大きな社会問題の火種となり、物理的衝突が生じている。これに伴い各国の移民・難民問題と容易に連動すると考えられるテロ事件なども複数生じており、情勢はお世辞にもよいとはいえない。各国国民の心理に与える影響は小さからぬものがある。
他方2020年の春先から新型コロナウイルスの世界的流行により保健衛生への関心が高まり、また生活活動全般において厳しい規制が設けられることで、経済も大きな影響を受けるようになっている。
このような状況の中で調査対象母集団に対し、EU全体における大きな懸念事項は何かについて、選択肢の中から2つ選んでもらった結果が次のグラフ。変化がよく分かるように、過去4回分も併せ都合5回分の動向をまとめている(順位は直近分の回答値順)。なお保健衛生は今回調査から新規に加わったもの、環境や気候変動は前回まで気候変動・環境問題と別々の選択肢だったものが統合したものである。
回答個数無制限の複数回答ではないため、それぞれの項目の値は多分に相対的な動きを示すことになるが、経済状況や失業、公的債務といった、数年前までEU全体で問題視され、世界経済にも大きな影響を及ぼしていた問題への懸念は低下。その他経済関連の値も概して鎮静化、つまり強く懸念する状況からは外れつつある。
それに連れ、相対的に、あるいは経済的な復興感に引き寄せられる形なのか、移民問題への懸念が急激に上昇していたことが分かる。また同時に、テロ問題への懸念も高まり、両者の問題の連動性も覚えさせた。単なる犯罪項目にはほとんど変化が無いことから、単純な治安の悪化ではなく、対外組織、あるいは国際問題的な事案への不安が感じられた。
回答個数無制限の複数回答ではないため、それぞれの項目の値は多分に相対的な動きを示すことになるが、経済状況や失業、公的債務といった、数年前までEU全体で問題視され、世界経済にも大きな影響を及ぼしていた問題への懸念は低下していた。その他経済関連の値も概して鎮静化、つまり強く懸念する状況からは外れつつあった。
それに連れ、相対的に、あるいは経済的な復興感に引き寄せられる形なのか、移民問題への懸念が急激に上昇していたことが分かる。また同時に、テロ問題への懸念も高まり、両者の問題の連動性も覚えさせた。単なる犯罪項目にはほとんど変化がないことから、単純な治安の悪化ではなく、対外組織、あるいは国際問題的な事案への不安が感じられた。
移民問題は2015年11月にピークを迎え、それ以降は下落、踊り場の後に再び下落する動きを示している。他方テロ問題は2017年5月の44%をピークに漸減の動きが継続している。状況に改善が見られたわけではないが、これ以上の悪化の動きもないため、少しずつ心境的に慣れてきたのかもしれない。
他方、新規に保健衛生の項目が加わったことからも分かる通り、新型コロナウイルスの影響によるものと思われる懸念が大きな値を示していることが分かる。保健衛生が22%を示す一方で、経済状況が18%から35%へと大きく伸び、新型コロナウイルスの流行による保健衛生の問題そのものよりも、それによって生じた経済状況の悪化への懸念が大きいことがうかがえる。また同時に公的債務の値も大きく伸びているのも注目すべき動きといえる。
国単位での動向を見ると、新型コロナウイルスの流行で懸念される事柄への違いが微妙に異なることが見て取れる。
それぞれの国のトップ3の問題を挙げると、イギリスでは経済状況・保健衛生・失業。ドイツでは環境や気候変動・経済状況・移民。フランスでは失業・保健衛生・経済状況。ギリシャでは経済状況・失業・移民。ベルギーでは保健衛生・経済状況・失業。それぞれの国が現在抱えている問題が浮き彫りとなる結果が出ており、非常に興味深い。ドイツやギリシャでは新型コロナウイルスの流行そのものより、それで生じた経済的なダメージへの懸念の方が大きいようにすら見える。
他方、前回調査ではいずれの国でも上位に上がっていた移民やテロへの懸念が大きく減少し、複数の国で上位にすら顔を見せなくなっている。相対的に懸念対象としての優先順位が下がっただけなのか、問題が本当に鎮静化したからなのかは、今調査だけでは推定が難しい。
次回調査(2020年11月予定)の時点では新型コロナウイルスの流行が沈静化しているとは考えにくい。関連する事項への懸念はさらに強いものとなっているだろう。
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※Standard Eurobarometer
欧州連合欧州委員会によって毎年2回、原則5月と11月に行われており、直近分が93回目となる。今調査の直近分は2020年7月9日から8月26日にかけて直接面談のインタビュー方式でEU加盟国および候補国内において行われたもので、回答者数は合計で3万3059人、EU27か国に限定すると2万6681人。
(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。
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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。
(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。
(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。