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九州豪雨 避難所での新型コロナウイルス感染症と循環器疾患の予防と対策(医師解説)

福田芽森循環器内科専門医
洪水と土砂災害から逃れる為社会的距離を保ちつつ避難する人々(2020年7月7日)(写真:ロイター/アフロ)

この記事の要点は以下です。

<避難所における新型コロナウイルス感染症と循環器疾患の予防と対策のポイント>

  • 新型コロナウイルス感染症の流行状況に関わらず、災害時には危険な場所から避難することが原則。避難所の情報を得て早めに移動をしましょう
  • 発熱、咳、息苦しさ、だるさ、嘔吐、下痢などが出たらすぐに管理者に報告をしましょう
  • 手洗い、アルコール消毒、マスク着用(2才以上)、咳エチケット、2m 以上のソーシャルディスタンシングなど基本の感染予防をしましょう
  • 血栓予防のために、1日20分以上の歩行を!水分も取りましょう。特に車中泊の人は足を下げず寝床が水平になるようにしましょう
  • 体重が2kg 以上減った場合は脱水や栄養障害、2kg 以上増えた場合は心不全や慢性腎臓病の悪化がないかなどをチェック。息切れ、特に夜間の息苦しさがあれば速やかに医師の診察を受けてください
  • 重要な薬は必ず続けましょう。「お薬手帳」など普段飲んでいる薬がわかる物を携帯しましょう
  • 収縮期血圧(血圧測定をした時に、高い方の数値)がもし140 mmHg 以上なら、災害高血圧。医師の診察を受けてください。
  • 喫煙は新型コロナウイルス重症化リスクにも繋がり、災害後に発症率が高まる脳卒中や心筋梗塞のリスクでもあるため、禁煙をお勧めします

2020年7月4日より数日に渡って、熊本県を中心に九州の各地を襲った豪雨により、各地に甚大な被害が起きています。九州各地の被災された皆様に、心よりお見舞い申し上げます。

現在、多くの方が避難所での生活を余儀なくされています。

2020年7月6日のニュースでは、被害の大きい熊本県人吉市において、計1200人が避難所に避難されている、と報道されました。

避難所は屋内で密になりやすい場所であること、循環器疾患は災害やストレスと関連があることから、避難所における過ごし方ついて、新型コロナウイルス感染症に配慮した循環器疾患の予防と対策の観点から、説明します。

避難所での新型コロナウイルス感染症対策については、7月6日に厚生労働省から「避難所における新型コロナウイルス感染症への対応に関するQ&A(第2版)(1)」が出ています。

また、実は心臓や血管はもともとストレスの影響を受けやすい臓器であることから、台風などの災害時には、日本循環器学会が適宜、予防と対策について声明を出しており、今回の災害に対しても、7月7日付で下記声明が出ています。

「避難所における新型コロナウイルス感染症に配慮した循環器疾患の予防と対策」 に関する日本循環器学会の声明(2)

これらやその他の資料を参考に、対象別に以下に要点をまとめました。限られた物資、生活が制限される中で、下記の全てに注意するのは難しいかもしれませんが、何か一つでもお役に立てればと思います。

 

目次:災害時における避難所での過ごし方

〜新型コロナウイルス感染症に配慮した循環器疾患の予防と対策の観点から〜

<全ての方へ>

・新型コロナウイルス感染症の流行状況に関わらず、災害時には危険な場所から避難することが原則

・基本の「手洗い、消毒、マスク着用(2才以上)、ソーシャルディスタンシング」

・体調不良のサインに気付こう

・血栓予防に運動、水分もよく取ろう!寝るときの姿勢は?

・睡眠の工夫

・この機会に禁煙をお勧めする理由

<高血圧や、心臓病のある方へ>

・薬は必ず飲みましょう!お薬手帳など持参して

・災害後は心臓病悪化が増加?体重が2kg 以上増加した場合は要注意

・災害高血圧とは?食事の工夫も

<全ての方へ>

高血圧や心臓病の有無に関わらず、全ての人にとって重要な点は以下です。

新型コロナウイルス感染症の流行状況に関わらず、災害時には危険な場所から避難することが原則

まずは身を守ることが最優先です。しかし、避難所は密になりやすい場所であり、市町村によっては避難場所が変更、増設されている可能性があります。情報を得て、早めに行動しましょう。

避難時に、食料、飲料やその他生活用品のほか、マスク、消毒液、体温計、上履き、ゴミ袋が持参できれば、より良いです。

自宅が安全か判断し、とるべき行動を決められる、「避難行動判定フロー(消防庁)」も参考にしてください。

基本の「手洗い、消毒、マスク着用(2才以上)、ソーシャルディスタンシング」

新型コロナウイルス感染症の予防対策の基本は、手洗いやアルコールでの手指消毒、マスクの着用、人と2m 以上の距離をとること、です。これらは、感染対策の観点からは避難所でも可能な限り実践することが望まれます。

石鹸を用いて手を洗うことは、最も重要な感染対策の一つであり、例えば手指のウイルスの数は、流水による15秒の手洗いにより1/100に、石けんやハンドソープで10秒もみ洗いし、流水で15秒すすぐと、1万分の1に減らせます。(3)

また、マスク着用は飛沫が広がることを防ぐため他者が密にいる場面では着用が推奨されますが、2才未満には推奨されていません。

実は、「乳児の呼吸器の空気の通り道は狭く、マスクは呼吸をしにくくさせ呼吸や心臓への負担になること」「顔色や口唇色、表情の変化など、体調異変への気づきが遅れる」ことなどから乳児に対するマスクの影響が心配されており、「新型コロナウイルスが子どもが感染することは少なく、重症例もきわめて少ない」ことなどからマスクのメリットも少ないと考えられ、米国疾病予防管理センター(CDC)や、それを受けた日本小児科医会は、2才未満の乳幼児にはマスクを着用しないよう呼びかけています。(4)

また、マスクをするならばその着脱手順も重要です。正しい着脱手順については、下記を参考にしてください。

(https://shop.saraya.com/hygiene/check/influenza.htmlより引用)
(https://shop.saraya.com/hygiene/check/influenza.htmlより引用)

 

体調不良のサインに気付こう

新型コロナウイルス感染症に限らず気をつける体調変化のサインとして、例えば、発熱、咳、息苦しさ、だるさ、発疹、嘔吐、下痢などがあります。

これらの症状が出たら、すぐに管理者に報告をしましょう。各避難所で対応が決められているため、指示に従ってください。感染症は新型コロナウイルス感染症だけではなく、迅速な報告は、避難所でのあらゆる感染症拡大を防ぐためにも重要です。

避難所における新型コロナウイルス感染症への対応に関するQ&A(第2版)の健康状態チェックリストも参考にどうぞ。

健康状態チェックリスト((1)より)
健康状態チェックリスト((1)より)

 

血栓予防に運動、水分もよく取ろう!寝るときの姿勢は?

避難所では、運動不足になりがちです。運動のために、1日20分は歩くことを心がけてください。

ずっと座っていたり、特に避難のため、やむを得ず車中泊をすると、深部静脈血栓症、といって足の静脈に血の塊ができてしまうことがあります。

足の静脈にできた血の塊は、時に大きくなり、また静脈の流れに乗って肺の血管に詰まることがあります。これを肺動脈塞栓症といいます。飛行機に長時間乗ったときにかかってしまうこともあり、エコノミークラス症候群とも呼ばれます。

肺動脈塞栓症は、肺の血管が詰まってしまうため、呼吸や、血液の流れ自体に大きく影響し、致命的になることがあります。これを予防するために、定期的な運動を行い、寝るときの姿勢も、足を下げたままにしないように、なるべく水平になるように心がけて下さい。

また、脱水があると血が固まりやすくなるため、血栓の原因になります。心臓や腎臓が悪くない方は、目安として1日1000 ml 以上の水分を取りましょう。

深部静脈血栓症、肺動脈塞栓症は、全く健康な若者でもなる病気です。水分摂取、運動と姿勢の工夫で予防しましょう。

こちらの足の運動も参考にしてください。

予防のための足の運動(1)より引用
予防のための足の運動(1)より引用

 

睡眠の工夫

被災された方は、不安な気持ちもあり、慣れない環境下でゆっくり眠ることは難しいかもしれません。しかし、心身の回復のためにも、睡眠は大切です。意識的に、アイマスクや耳栓の使用、振動予防のマットレス使用などで工夫をし、6時間以上眠れるように努めてください。

 

この機会に禁煙をお勧めする理由

日本循環器学会の声明で、以下のように述べられています。

喫煙は、血圧を上昇させ血液を固まりやすくするため、脳卒中や心筋梗塞の大きな危険因子となります。それらの発症率が高まる災害後こそ、禁煙を心がけて下さい。また、喫煙はコロナウイルス感染症の重症化にも繋がります。

出典:「避難所における新型コロナウイルス感染症に配慮した循環器疾患の予防と対策」に関する日本循環器学会の声明

また、新型コロナウイルス感染症とタバコの関連については、こちらの記事で述べられています。

喫煙で新型コロナ死亡のリスク3倍 専門家「禁煙すれば短期間でもリスクは減らせます」

心臓病、脳卒中、それから新型コロナウイルスの観点からも、禁煙をお勧めします。禁煙をする方法は、様々なものがあります。禁煙外来に通院してもいいですし、薬局には「ニコチンパッチ」「ニコチンガム」があり、自分で買うことができます。

タバコをやめるコツ、禁煙のメリットについては、こちらが参考になります。

<高血圧や、心臓病のある方へ>

ここからは、特に高血圧や、心臓病のある方にフォーカスした注意点を挙げていきます。

薬は必ず飲みましょう!お薬手帳など持参して

高血圧や、その他の心臓病の薬は、とても重要なものが多いです。血圧を下げる薬、血液をサラサラにする薬、尿を出す薬、心臓を保護する薬、脈を落ち着かせる薬など、どれも今持っている病気をコントロールするための重要な、鍵となる薬です。

避難所には薬は持参し、毎日続けられるようにしましょう。普段飲んでいる薬が何かも、メモしておくか、お薬手帳があれば避難所に持っていきましょう。

飲んでいる薬がわからなくなってしまった場合、薬が切れそうなときは、可能な限り医療機関や、避難所を巡回してきた医師に相談してください。

災害後は心臓病悪化が増加?体重が2kg 以上増加した場合は要注意

体重の増減は、特に心不全や慢性腎臓病を持つ方にとっては重要な指標です。災害前の体重から、±2kg 以内の増減となるよう保つことが大切です。

  • 体重が災害前より2kg 減少した場合:脱水や栄養障害が考えられます。
  • 体重が災害前より2kg 増加した場合:心不全や慢性腎臓病の悪化をチェックしましょう。

特に、災害後は高齢者の心不全悪化が増加します。もし夜間の息切れやむくみが出てきたら、医師の診察を受けてください。(2)

災害高血圧とは?食事の工夫も

血圧を上げないためにも減塩に努め、腎臓の悪くない方はカリウムの多い食事(緑黄色野菜、果物、海藻類)を多く取りましょう。カリウム摂取には、バナナや無塩のトマト、野菜ジュースもお勧めです。

また、収縮期血圧(血圧測定をした時に、高い方の数値)がもし140 mmHg 以上なら、医師の診察を受けてください。

災害時に新たに高血圧を発症することもありますし、もともと高血圧のある方が血圧コントロールが悪くなることもあります。これらはどちらも広義の「災害高血圧」とされ、災害後の循環器疾患発生の予防のために治療対象となります。災害後の血圧上昇は通常一過性であり、震災後4週目からは下がりますが、高齢者、慢性腎臓病、肥満、メタボリックシンドロームなどのある方では、災害高血圧が遷延するといわれています。(5)

以上をまとめると、下記になります。

<避難所における新型コロナウイルス感染症と循環器疾患の予防と対策のポイント>

  • 新型コロナウイルス感染症の流行状況に関わらず、災害時には危険な場所から避難することが原則。避難所の情報を得て早めに移動をしましょう
  • 発熱、咳、息苦しさ、だるさ、嘔吐、下痢などが出たらすぐに管理者に報告をしましょう
  • 手洗い、アルコール消毒、マスク着用(2才以上)、咳エチケット、2m 以上のソーシャルディスタンシングなど基本の感染予防をしましょう
  • 血栓予防のために、1日20分以上の歩行を!水分も取りましょう。特に車中泊の人は足を下げず寝床が水平になるようにしましょう
  • 体重が2kg 以上減った場合は脱水や栄養障害、2kg 以上増えた場合は心不全や慢性腎臓病の悪化がないかなどをチェック。息切れ、特に夜間の息苦しさがあれば速やかに医師の診察を受けてください
  • 重要な薬は必ず続けましょう。「お薬手帳」など普段飲んでいる薬がわかる物を携帯しましょう
  • 収縮期血圧(血圧測定をした時に、高い方の数値)がもし140 mmHg 以上なら、災害高血圧。医師の診察を受けてください。
  • 喫煙は新型コロナウイルス重症化リスクにも繋がり、災害後に発症率が高まる脳卒中や心筋梗塞のリスクでもあるため、禁煙をお勧めします

新型コロナウイルス感染症に関しては、流行状況もそれに応じた対策も刻一刻と変わるため、現時点での対応になります。また、避難所での限られた物資、生活が制限される中で、これらの全てに注意するのは大変難しいことと思います。この中の何か一つでも実践いただければ幸いです。

避難所における新型コロナウイルスを含む感染症拡大予防、それから循環器疾患発症の予防に、少しでもお役に立てることを祈ります。

参考資料:

(1)避難所における新型コロナウイルス感染症への対応に関するQ&A(第2版)(厚生労働省)

(2)「避難所における新型コロナウイルス感染症に配慮した循環器疾患の予防と対策」 に関する日本循環器学会の声明

(3)新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について(厚生労働省・経済産業省・消費者庁特設ページ)(最終アクセス20200707)

(4)2歳未満の子どもにマスクは不要、むしろ危険!(日本小児科医会)(最終アクセス20200707)

(5)2014年版 災害時循環器疾患の予防・管理に関するガイドライン(日本循環器学会)

循環器内科専門医

東京女子医科大学卒業後、独立行政法人国立病院機構 東京医療センターで初期研修を積む。同院循環器内科に所属ののち、慶應義塾大学循環器内科に勤務。現在はAI医療機器開発ベンチャー企業で臨床開発を担当し、京都大学公衆衛生大学院に在学中。産業医としても活動し、働く人の健康をサポートしている。循環器内科専門医、日本循環器学会広報部会/COVID-19対策特命チーム所属、認定産業医、ACLS(米国心臓協会二次救命処置)インストラクター、JMECC(日本内科学会認定内科救急・ICLS講習会)インストラクター、レジリエンストレーニング講師(The School of Positive Psychology)。

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