注目すべき軍事パレードでの「金正恩演説」―ICBMは登場するか
北朝鮮は9月9日に建国記念日を迎える。今年は建国から70周年という節目の年にあたることから「一大慶事」として軍事パレードやマスゲームなどで盛大に祝うようだ。
前例からすると、前日(8日)に中央報告大会が開かれる。5年前の建国65周年(2013年)の時は4.25文化会館で開かれ、党内序列2位の金永南最高人民会議常任委員長が演説を行った。ちなみに金正恩委員長はひな壇に姿を見せなかった。
金正日政権下の60周年(2008年)の時には平壌体育館で開催されたが、この時は序列4位だった金英日総理が演壇に立った。最高指導者の金正日総書記は出席しなかったが、金総書記の欠席は、前月(8月)に脳卒中を起こし、療養中であったことが原因で、軍事パレードにも姿を現さなかった。
今年は70周年であることから軍事パレードが行われるが、60周年も、65周年もいずれも人民軍正規軍による行進はなく、非正規軍である労農赤衛隊による閲兵式がメインだった。従ってミサイルは登場しなかった。また、60周年の閲兵式では金正日総書記ではなく、金英春国防副委員長(軍総参謀長)が、65周年の時は金正恩委員長ではなく、朴奉柱総理がそれぞれ演説を行ったが、65周年の時は閲兵式の後にピョンヤン群衆示威も同時に行われた。
前例に従えば、金正恩委員長は中央大会には欠席するかもしれないが、軍事パレードは100%出席するだろう。
注目は、軍事パレードの式典で金委員長自らが演説するかどうかにある。労働党創建70周年(2015年10月10日)の軍事パレードでは演説を行っていることから今回も自ら演説するものとみられるが、問題はその中身で、特に世界の耳目を集めている非核化について踏み込むかどうかが最大の焦点となるだろう。
もう一つの注目は軍事パレードの規模である。
一部では、今年2月に行われた朝鮮人民軍創建70周年並みか、あるいはそれを上回る規模になると言われているが、厳冬の2月に、それも平昌五輪開幕前日に金日成広場で行われた軍創建70周年軍事パレードには軍人が延べ1万3千人、示威には平壌市民5万人が動員されていた。また、兵士の行進では、米韓の特殊部隊に対抗して創設されたばかりの特殊作戦軍(軍団長:金英福中将)が8番目に登場し、韓国メディアの関心を引いていた。
装甲車や戦車、タンク、長距離砲、多連装ロケットなどがお目見えし、最後は戦略軍(司令官:金洛謙大将)の行進で締めていた。ミサイル開発のトリオの一人である張昌河上将(党軍需工業部副部長)が戦略軍部隊を率いていたのが印象的だった。
パレードには新型の短距離ミサイルの他に中距離弾道ミサイル「北極星2型」、準ICBMの「火星12号」、ICBM級の「火星14号」がそれぞれ6基、そして最後に昨年11月29日に発射に成功したとされる米本土攻撃可能なICBM「火星15号」が4基移動式発射台に搭載され、登場していた。
今回は、正規軍によるパレードになるのか、労農赤衛隊による閲兵式になるのか、また、ICBMが登場するのかどうか、大いに注目されるところだが、それにしても金正恩政権は2012年に発足してから2014年と2016年を除いてほぼ毎年軍事パレードを実施している。中でも2013年は7月27日の朝鮮戦争勝利(休戦協定)60周年と9月9日の建国65周年と、2度も実施していた。
過去の軍事パレードの特徴を挙げれば、以下のとおりである。
▲2012年4月の金日成主席生誕100周年軍事パレードでは金正恩委員長が初めて群衆の前で演説を行い、「軍事技術的優勢はもはや帝国主義者らの独占物ではない。敵が原子爆弾で我々を威嚇攻撃する時代は永遠に過ぎ去った」と豪語し、軍事パレードでは一度も発射実験したことがないICBM級の「KN-08」がお披露目された。
▲2013年7月の朝鮮戦争勝利60周年軍事パレードでは金委員長の演説はなく、当時、軍総政治局長だった崔龍海政治局常務委員が祝賀演説を行い、陸海空の部隊によるパレードでは「放射能」標識のリュックを持った歩兵部隊が登場し、話題をさらった。
▲2013年9月の朴奉柱総理が演説を行った建国65周年軍事パレードは陸海空の正規部隊は動員されず、労農赤衛隊を中心とした予備役らによる閲兵式となった。
▲2015年10月の労働党創建70周年軍事パレードは金正恩委員長が25分にわたり演説を行い、約2万人以上の軍人と一般群衆10万人が動員され、午後3時から始まったパレードは終了するまで3時間にわたって実況中継された。パレードでは無人飛行機が初めて登場し、「KN-08」の改良型である「KN-14」もお披露目された。
▲2017年4月の朝鮮人民革命軍創建85周年軍事パレードでは金正恩委員長は出席したものの演説はせず、2013年7月の時と同様に崔龍海・政治局常務委員が行った。約2時間50分にわたって行われたパレードではこの年の3月に発射され、日本の排他的経済水域に3発着弾した「スカッドER」のほかSLBMを地上型に改良した「北極星2型」やキャニスター(収納筒)に収められた新型中長距離弾道ミサイル「火星12号」や「火星14号」などが次々と登場した。何度も発射しては失敗を繰り返していた中距離弾道ミサイル「ムスダン」や「KN-08」の改良型と推定される長距離弾道ミサイルも登場した。