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国民の7割が生活に満足しているのに政権交代はある?

橘玲作家
(写真:ロイター/アフロ)

*9月22日執筆、10月2日発売号の記事です。その後、日本の政治状況は大きく変わりましたが、論旨に変更はないのでオリジナルのまま掲載します。

安倍首相が臨時国会冒頭での解散を決めたことで、政界は選挙一色になりました。これについては、「森友・加計の疑惑隠しだ」との批判があり、それはたしかにそのとおりなのですが、それが許されないことであれば有権者がそう判断するでしょう。「北朝鮮がミサイル発射を繰り返しているときに政治の空白をつくるな」との意見もあるようですが、そうなると日本の政治を金正恩が決めていい、ということになってしまいます。国会を解散させたくないなら、ミサイルを撃てばいいのですから。

すでに指摘されているように、首相が解散総選挙を決断したのは、(1)野党第一党の民進党が党首交代で混乱し離党者が相次いでおり、(2)政治的脅威になり得る小池東京都知事の「ファースト勢力」の準備が整わず、(3)北朝鮮問題などで内閣支持率が上向いている、という条件が揃ったからです。日本では任期が決まっている参院に対して、衆院解散は首相の専権事項とされていますから、勝てると判断したときに勝負に打って出るのは当然のことです。野党の批判に説得力がないのは、「自分たちが勝てそうなときに選挙をやってくれ」といっているように聞こえるからでしょう。

衆院議員の任期は4年ですが、任期満了が近づくにつれて首相の求心力は失われていきます。それは日本では、「いつ解散されるかわからない」という不確実性が首相の権力の源泉となっているからです。それを劇的に示したのが小泉元首相の郵政解散選挙で、誰もが「まさか」と驚くタイミングで衆院を解散し、圧勝したことで「官邸支配」を確立しました(ちなみにこのときも、「解散の大義がない」と批判されました)。

それに対して麻生内閣では、小泉時代の「遺産」が大きすぎて解散のタイミングがつかめず、任期満了まで引きずったあげく大敗して民主党に政権交代を許しました。民主党の野田政権はその失敗を見ていたため、任期を8カ月残して解散に踏み切りましたが、これも失敗して第二次安倍政権が誕生します。

これを見てもわかるように、日本の政治では衆院を適切なタイミングで解散することで権力がつくられます。そのルールを、気に入らないからといって、特定の政権だけに適用させないのは理不尽です。そこで、憲法を改正して首相の解散権に制約を加えるという発想が出てくるのですが、仮に実現するとしても何十年も先の話になるでしょう。

内閣府の調査では、現在の生活に「満足」とこたえたひとが73.9%と過去最高になりました。失業率は2.8%とほぼ完全雇用の状態で、求人倍率は1.52倍でバブル最盛期を上回り、大学生の就職内定率は9月時点で9割を超えています。これには少子高齢化による人手不足などさまざまな要因があり、一概にアベノミクスの成果ということはできませんが(これは後世の評価に任せるしかないでしょう)、ひとびとが経済運営に不満をつのらせているわけではないのはたしかです。

安倍首相は、「国民の7割が生活に満足しているのに、政権交代など起こるはずはない」とたかをくくっているのでしょう。有権者は足下を見られているような気もしますが、それも選挙によって審判されるのが「民主主義」というものです。

『週刊プレイボーイ』2017年10月2日発売号 禁・無断転載

作家

作家。1959年生まれ。2002年、国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。最新刊は『言ってはいけない』。

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