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加齢に伴う皮膚の変化と高齢者に多い皮膚疾患 - 適切なスキンケアと予防法

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:アフロ)

【加齢に伴う皮膚の変化と高齢者に多い皮膚疾患】

世界的に人口の高齢化が進む中、高齢者の皮膚の健康が大きな注目を集めています。加齢に伴い、皮膚には様々な変化が生じます。表皮が薄くなり、真皮と表皮の結合が弱まることで、皮膚の弾力性が失われていきます。また、皮脂腺の活動低下により皮膚の保湿能力が低下し、乾燥肌になりやすくなります。こうした皮膚のバリア機能の低下は、外的刺激に対する脆弱性を高め、様々な皮膚トラブルを引き起こす要因となるのです。

Kottnerらの総説によると、高齢者に多くみられる皮膚疾患には、男性型および女性型脱毛症、脂漏性角化症、日光角化症、皮膚良性腫瘍(老人性疣贅、皮膚線維腫など)、色素性病変(老人性色素斑、太田母斑など)、乾皮症などがあります。また、湿疹・皮膚炎群や乾癬などの炎症性皮膚疾患、皮膚カンジダ症などの真菌感染症も高齢者に多いことが指摘されています。

皮膚がんについては、高齢になるほど発症リスクが高まることが知られています。特に、日光角化症を多数有する高齢者では、非黒色腫皮膚がんの発症率が高いことが報告されています。

【コミュニティで暮らす高齢者の皮膚疾患の実態】

在宅の高齢者、特にコミュニティで暮らす高齢者における皮膚疾患の有病率や発症率に関する疫学データはまだ限られていますが、近年いくつかの重要な知見が得られています。

Sinikumpuらは、フィンランドの70歳以上の在宅高齢者を対象とした横断研究を行い、なんらかの皮膚疾患を有する者の割合が70.8%に上ることを明らかにしました。最も多かったのは脂漏性角化症(78.8%)、次いで皮膚良性腫瘍(63.2%)、色素性病変(71.6%)でした。また、乾皮症は60.0%に認められました。治療を要する皮膚疾患を有する者の割合は43.0%で、そのうち33%は自己管理可能、24%は治療不要、43%は医師による治療が必要と判断されました。

また、Paul らは、フランスの在宅高齢者における乾皮症の有病率とリスク因子を調査し、60.0%が乾皮症を呈することを報告しています。

かゆみは、高齢者の皮膚に関する愁訴の中でも特に頻度が高く、QOLに大きな影響を及ぼします。Hahnel らのシステマティックレビューでは、15.0~40.6%の高齢者が何らかのかゆみを訴えていることが示されました。

現時点では、在宅高齢者の皮膚疾患に関する疫学研究はまだ不十分で、国や地域によるデータの偏りも大きいと言えます。今後、世界的に標準化された手法を用いた大規模な疫学調査を行うことで、在宅高齢者の皮膚の健康状態をより正確に把握することが可能となるでしょう。そうしたエビデンスの構築は、高齢者の皮膚疾患に対する適切な予防法や治療法の開発につながることが期待されます。

【在宅高齢者の皮膚の健康を守るために】

高齢者の皮膚トラブルを予防し、健康な皮膚を維持するには、日々の適切なスキンケアが重要です。乾燥を防ぐために、入浴後や洗顔後はこまめに保湿剤を塗布しましょう。入浴は長湯を避け、刺激の少ない洗浄料を選ぶことも大切です。

また、紫外線対策も欠かせません。外出時は日傘や帽子を活用し、露出部分にはSPF30以上の日焼け止めを塗るようにしてください。

皮膚に異変を感じたら、自己判断で市販薬を使うのではなく、早めに皮膚科専門医の診察を受けましょう。とりわけ、高齢者は皮膚がんのリスクが高いため、定期的な皮膚がん検診を受けることが推奨されます

在宅療養中の高齢者に対しては、訪問診療やテレダーマトロジー(遠隔診療)の活用も有効です。皮膚の問題を抱えながらも通院が困難な高齢者にとって、こうした新たな医療サービスの充実は大きな助けとなるはずです。

高齢者の皮膚疾患に対する予防法や治療法の開発は、まだ緒に就いたばかりです。今後、在宅高齢者に特化した大規模な臨床研究を積み重ねることで、エビデンスに基づいた効果的なケア方法が確立されていくことが期待されます。高齢者とその家族、医療従事者、そして研究者が連携し、皮膚の健康を守るための取り組みを進めていくことが何より重要です。

参考文献:

- Kottner, J., et al. (2024). Skin health of community-living older people: a scoping review. Archives of Dermatological Research, 316, 319.

- Sinikumpu, S. P., et al. (2020). The high prevalence of skin diseases in adults aged 70 and older. Journal of the American Geriatrics Society, 68(11), 2565-2571.

- Paul, C., et al. (2011). Prevalence and risk factors for xerosis in the elderly: a cross-sectional epidemiological study in primary care. Dermatology, 223(3), 260-265.

- Hahnel, E., et al. (2017). The epidemiology of skin conditions in the aged: A systematic review. Journal of Tissue Viability, 26(1), 20-28.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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