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金融機関になりたかった暗号資産(仮想通貨)交換業大手、FTXトレーディングの破綻劇

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 暗号資産(仮想通貨)の交換業大手、FTXトレーディングは11日、自社と日本法人を含むおよそ130のグループ会社が連邦破産法第11条の適用を米国の裁判所に申請し、経営破綻したと発表した。負債総額は推定で100億ドルから500億ドル近くになる見通しで、暗号資産(仮想通貨)業界では過去最大の破綻となる可能性がある。

 FTXは2019年に創業。創業者であったサム・バンクマン・フリード前最高経営責任者(CEO)は若きカリスマ経営者として注目を集め、多彩な暗号資産(仮想通貨)関連商品を開発して投資家の関心を集めた。

 それだけではない。バンクマン・フリード氏はデジタル資産を主流金融に含めてもらうためのロビー活動を行ってきた。

 多額の政治献金も実施した。選挙資金を調査するオープンシークレッツによると、直近の米連邦選挙では約4000万ドルと、個人献金者として6番目に大きな額を出した(15日付ロイター)。

 FTXのバハマの拠点では、ビル・クリントン、トム・ブレイディ、ケイティ・ペリーといった著名人が、バンクマン・フリード氏がデジタル資産を中心とする高度な金融システム構想を宣伝するために主催した会議に一緒に登場した(14日付WSJ)。

 しかし、暗号資産(仮想通貨)専門のニュースサイトCoinDeskがFTXの財務面の問題を指摘したことが発端となり状況が一転した。

 取引量で世界最大の取引所であるバイナンス・ホールディングスを創業した富豪のチャンポン・ジャオ氏がFTXが作ったトークン「FTT」5億ドル超相当を売却したとツイート。FTX崩壊を後押しすることになる。

 FTXトレーディングが破綻することにより、暗号資産(仮想通貨)がさらに売り込まれ、これはバイナンス・ホールディングスにも負の影響が出よう。

 暗号資産(仮想通貨)バブルそのものが、17世紀のオランダにおけるチューリップ・バブルに例えられていた。ただし、暗号資産(仮想通貨)はグローバルに展開するとともに、巨額の資金が流入することになった。その結果、チャンポン・ジャオ氏やバンクマン・フリード氏のような富豪も誕生した。

 ただし、バンクマン・フリード氏は、160億ドルの資産を数日でほぼ全て失ったとされる。さらに政策アドバイザーとしてのバンクマン・フリード氏の信憑性がズタズタになった。

 結局は暗号資産(仮想通貨)は17世紀のオランダでのチューリップ取引の現代版に過ぎなかったのではなかろうか。

 暗号資産(仮想通貨)の交換業大手、FTXトレーディングは金融機関になりたかったのかもしれない。そのため巨額の資金も投入してロビー活動を行い、著名なスポーツ選手なども巻き込んだ。しかし、その信用度からみても金融機関にはほど遠かったことも今回明らかとなった。

 FTXの経営破綻後に再建を任されたジョン・J ・レイ最高経営責任者(CEO)は17日に裁判所に提出した書類で、資金流用および不適切な会計処理が横行し、「完全な」企業統治不全に陥っていたと報告した(ロイター)。

 結局は自らの破綻によって、暗号資産(仮想通貨)が金融商品になりえないことを示してしまったようにも思われる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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