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「高齢ドライバーの運転支援」はバイクでも システムの最前線を探る

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
試験車両でテストコースを走行する筆者 撮影/星野耕作 取材協力/ボッシュ株式会社

2輪も知能化する時代に突入した

高齢ドライバーによる交通事故の増加に社会の注目が集まる中、2輪においても近年はライダーの高齢化(2輪車の新規購入者年齢平均52.7歳 ※1)が進みつつあり、今後は事故の増加が懸念されている。高齢ライダーの事故を防止するには、4輪同様ライダーの安全運転マインドや運転スキルの維持向上の他、マシンによる制御が不可欠なものとなる。それはつまり、バイク自体のインテリジェント化に他ならない。

近年、電子制御技術の著しい進化により、4輪の世界では急速に自動運転や衝突低減ブレーキなどの安全運転支援システムの導入が進んでいるが、いよいよ2輪にもそのテクノロジーが入り始めている。その最前線を探るため、この分野で先行するBosch(以下、ボッシュ)が開発を進める、2輪向け安全運転支援システム「アドバンスト ライダー アシスタンス システム」を体験取材してきた。

※1:出典「2017年度 二輪車市場動向調査」自工会

人間を超えるACCの技

前走車に付かず離れず追走するACC。まるでバイクが意思を持っているかのようだ。
前走車に付かず離れず追走するACC。まるでバイクが意思を持っているかのようだ。

7月のある暑い日、私は一台の大型バイクで高速道路を走っていた。一見、普通のスポーツタイプの輸入車である。ただ、違うのはメーターディスプレイに表示されたACC(アダプティブ クルーズ コントロール)の画面。走りながら手元のスイッチで制限速度の100km/hに設定すると、ほどなくバイクは穏やかに加速していく。前を走る車両をレーダーで検知したようだ。車間距離が50mほどに詰まったところで速度も一定になった。他のクルマに割り込まれず、かつ十分な安全マージンが作れる丁度いい距離感だ。

高速道路は一定のペースで流れているようで意外と速度変化が激しい。上り坂に差し掛かると急に前を走る集団のペースが落ち、みるみる車間が詰まってきた。すると今度はACCが速度に合わせて最適な車間距離を保ちながら滑らかに減速していく。ごく自然に微妙な速度コントロールをこなす技は人間より“上手い”と感じるほど。ここまでの制御をすべて自動で行う。自分はアクセルもブレーキも操作していないのにバイクが勝手にやってくれる。まるでバイクが意思を持っているように……。

こんなSFのようなマシンがすでに現実のものとなっている。

2020年よりシステム量産開始

アドバンスト ライダー アシスタンス システム試験車両の操作についてブリーフィングを受ける筆者。
アドバンスト ライダー アシスタンス システム試験車両の操作についてブリーフィングを受ける筆者。

現在、ボッシュが開発を進めているのは「ACC」、「衝突予知警報」、「死角検知」の3つの機能。いずれもレーダーを使った自動車のADAS(先進運転支援システム)技術をベースに開発されたものだ。2輪の安全性と走行快適性を向上させることが狙いだが、これには根拠がある。ボッシュの事故調査報告によると、レーダーベースの安全運転支援システムを導入することで、現在の2輪事故の7件に1件を防ぐことが可能と見られているのだ。なお、このシステムは2020年から量産され、まずは海外ブランドのDucatiとKTMに搭載される予定になっている。

長距離ほど疲労を低減してくれる「ACC」

ACCは交通の流れに合わせて車速を調整し、前走車との安全な距離を維持する機能。前走車との距離が不十分なことで発生する追突を効果的に防ぐだけでなく、交通量の多い道路での疲労低減にもつながる。車体前方に設置されたレーダーにより車間距離や相対速度を検知し、速度に合わせた最適な車間距離を保つ仕組みだ。

高速道路で実際にテストしてみたが、操作はとても簡単でメーターが組み込まれた大型ディスプレイ上で任意の速度を設定すれば後はバイク任せで走ってくれる。極端な話、スロットルから手を放していても自動的に速度と車間距離を調整してくれるのだ。車線変更にも対応する。追い越し車線に移って数秒待つと前走車をレーダーが検知して加速し、設定速度内で新たなペースの流れに乗っていく。ACCは高速道路を長い時間移動する際に便利で、ライダーの疲労低減に大きく貢献するはずだ。長距離ツーリングなどで最大の効果を発揮するシステムと言えよう。

試験車両は既存モデルをベースにレーダーセンサーやデータ計測用の機器が搭載されている。
試験車両は既存モデルをベースにレーダーセンサーやデータ計測用の機器が搭載されている。
ヘッドライト下に取り付けられた黒い箱のようなパーツが前方用レーダー(中距離レーダーセンサー)だ。
ヘッドライト下に取り付けられた黒い箱のようなパーツが前方用レーダー(中距離レーダーセンサー)だ。

2輪特性に合わせ30km/h以上に対応

一方で気になった点としては、レーダーの照射角度は車線一本分程度と思われ、たとえばジャンクションの合流などでカーブの曲率が大きい場合は追尾できないこともある。ただ、その場合も最近4輪で一般化してきたACC同様、ブレーキを操作した時点でACCは一旦解除されるので安全。スイッチひとつで直前の設定を呼び出すことも可能だ。設定速度は30km/h以上からで減速時も30km/hになるまで車間距離をコントロールしてくれるが、それ以下の速度では自分でブレーキ操作をする必要がある。つまり、ノロノロ渋滞ではACCは作動しないし自動で停止することはできない。これは4輪と違って2輪の場合、極低速ではライダー自身によるバランス補正が必要なためと考えられる。うっかり立ちゴケ回避など、安全面を考えれば妥当な設定である。

メーターディスプレイに表示されたACC設定画面。実際の画面ではスピードが表示され、手元のスイッチひとつで簡単に任意の速度に設定できる。操作方法は4輪のACCと基本的に同じだ。ヒューマン マシン インタフェース(HMI)と呼ばれ、写真の表示はアドバンスト ライダー アシスタンス システムの機能が作動している状態を視覚的に示した見本
メーターディスプレイに表示されたACC設定画面。実際の画面ではスピードが表示され、手元のスイッチひとつで簡単に任意の速度に設定できる。操作方法は4輪のACCと基本的に同じだ。ヒューマン マシン インタフェース(HMI)と呼ばれ、写真の表示はアドバンスト ライダー アシスタンス システムの機能が作動している状態を視覚的に示した見本

日本で開発を行うには理由がある

既報どおり、ボッシュは2019年3月より日本国内で2輪向け安全運転支援システムの公道実証試験を開始した。これは日本の道路交通環境にもとづいたシステムを開発し、日本の2輪ユーザーに安全で快適な運転環境を提供すること、またグローバルに事業を展開する車両メーカーの日本市場への対応をサポートすることを目的としている。

ボッシュが2輪事業のグローバル本部と安全運転支援システムのプラットフォーム開発拠点を日本に置くことには理由がある。ひとつは日本特有の道路環境だ。道幅が狭く、レーダー検知に影響を及ぼす可能性がある遮音壁やガードレールなどが点在し、トンネルや曲がりくねった道も多いなど、システムにとっても厳しい条件での開発が求められる。誤解を恐れずに言えば「日本の道路で通用するシステムであれば世界で通用する」ということだ。また、日本はホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキなど世界を代表する4大バイクメーカーの本拠地でもあり、日本ブランドの市場シェアは世界中で約5割を占めるなど2輪車産業における影響力も大きい。日本の交通環境でシステム開発を行うことで、国内のみならずグローバル視点で2輪のユーザーやメーカーにも貢献できるというわけだ。

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車両メーカーの要望に応えてカスタマイズも

伊藤一朗氏 モーターサイクル&パワースポーツ部門 技術本部 システムセーフティ技術部 マネージャー 撮影/筆者
伊藤一朗氏 モーターサイクル&パワースポーツ部門 技術本部 システムセーフティ技術部 マネージャー 撮影/筆者

現時点でのシステムの完成度について、ボッシュで技術開発と試験を担当する伊藤氏に聞いた。『今回試乗していただいた試験車両は少し古いシステムで、最新版はよりリアルタイムで反応します。システム自体はほぼ完成の域にあり、現在は品質の作り込みをしている段階です。例えばレーダーの誤検知によるエラーが起きないよう精度をより高めたり、車両メーカーがどういう制御をしたいかなど、細かい要望に合わせて適合させています。加速や減速のニュアンスなど味付けの部分と言ってもいいかもしれません』と話す。

市販車へシステムが搭載される際の仕様だが、たとえばACCなら車間距離を任意に設定できたり、衝突予知ならより早く警報を出すなど、調整範囲もメーカーの要望を聞きながら調整する。また、モードセレクトのようにある程度はエンドユーザー自身で調整できる設定も可能とのことだ。

ACCは快適機能。衝突防止ではない

溝上祐里子氏 モーターサイクル&パワースポーツ部門 広報 撮影/筆者
溝上祐里子氏 モーターサイクル&パワースポーツ部門 広報 撮影/筆者

システムの具体的なスペックについてはどうだろう。伊藤さん曰く『レーダーの特性によるところが大きいですが、高速道路で一般的とされる車間距離の範囲は捕捉できます。一度捕捉すると追尾するのでさらに遠く離れても可能です。追尾できる速度としては30km/hから可能で、上限は安全に減速できることを考慮して160km/hに設定しています。また、欧州の高速道路ではレーンによる速度差が40km/hぐらいありますが、アウトバーンでもレーンチェンジに対応できるよう設計されています』とのこと。ただし、渋滞末尾などで前車両が止まっている状況での対応は難しく、減速し切れるかは道路の混雑具合など環境にもよるということだ。一方広報担当の溝上氏は『ACCは快適機能であって衝突低減ブレーキではありませんし、バイクが対応するからライダーが何もしなくていい、というものではありません。最終的にはライダーに責任があるとお考えください』と話す。その言葉がACCのすべてを表していると言っていいだろう。

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ライダーと機械の仕事をどこで線引きするか

ACCの捕捉範囲はどうだろう。原付バイクなど小さな車両も検知できるのだろうか。また、峠道などの曲がりくねった道やマスツーリング、悪天候などにも対応できるのか、そのレベルを知りたいところだ。

伊藤氏の話では『レーダーの反射があれば車両の大きさに関わらず検知出来ます。ただ感度を上げていくと誤検知もあり得ます。集団ツーリングなどは今のところ設定に入っていません。天候については雨でも霧でも大丈夫です。ただし、レーダー照射する部分に泥などが付いてしまうと精度が落ちることは考えられます。また、急カーブなどでレーダーの照射範囲から外れてしまうと難しいですね。もちろん、カーブもそれなりに想定はしていますが』とのこと。

ブレーキシステム自体は従来と同じで、車体に搭載されたモーターサイクル用スタビリティコントロール(MSC)ユニットによって制御される。
ブレーキシステム自体は従来と同じで、車体に搭載されたモーターサイクル用スタビリティコントロール(MSC)ユニットによって制御される。

さらに溝上氏は『ACCの基本的な機能としては、高速道路などの直線を一定速度で流している状況をメインに想定していて、現状では曲がりくねった道への対応は考えておりません』と話す。

そもそも、右に左に車体を傾けて曲がっていく2輪の運転特性を考えれば、急カーブが連なる峠道でのACCはむしろ危険な場合も考えられる。その意味では、ライダーの操作と機械によるサポートをどこで線引きしていくのかが今後の課題かもしれない。

追突リスクを低減する「衝突予知警報」

次にテストしたのが衝突予知警報。追突事故のリスクを低減、または二次衝突の被害をできるだけ軽減するための機能だ。2輪が前走車に対して危険なほど接近し、ライダーがその状況に何も対処しないことを検知すると、聴覚的、視覚的、または触覚的な信号を通じてライダーに警告する。これも前方レーダーを使って車速や車間距離から衝突リスクを検知するシステムで、試験車両では大型ディスプレイに衝突リスクのコーションサインが表示される仕組みだ。衝突予知警報を出す具体的な基準については、相対速度と相対距離、相対加速度に加え、ライダーの反応時間とブレーキングでの減速度なども考慮して計算しているとのことだ。反射神経が衰えてくる可能性が高い高齢のライダーでも安心できるシステムと言えよう。

衝突予知警報をテストコースで体験してみた。前走車に対して、それよりも速い速度で近づいていくと「そろそろ危ないかな」というタイミングでメーターディスプレイに警告が表示される。
衝突予知警報をテストコースで体験してみた。前走車に対して、それよりも速い速度で近づいていくと「そろそろ危ないかな」というタイミングでメーターディスプレイに警告が表示される。

煩がられてもダメ、警報の出し方が難しい

これは安全を考慮してテストコース内での走行となった。実験では先行する前走車に対して、その速度よりも高いスピードで接近するという設定。そして、「そろそろ危ないかな」と思うタイミングで衝突予知警報のコーションサインが表示された。

個人的な感想としては、もう少し早めにサイン表示してくれるとさらに余裕が生まれると思った。また、視覚情報だけでなく、ブザー音やグリップを通じた振動など多重的な方法で衝突リスクを伝えてくれるとより確実かもしれない。

ちなみに警報の出し方とタイミングについては如何様にも設定可能で、車両メーカーのリクエストに応じてアレンジできるそうだ。いずれにしても、ライダーが疲労や注意散漫でボーッとしているときにこそ有効なシステムと思えるので、いざというときのライダーへの注意喚起は刺激的なほうが良いかと思う。

衝突予知警報のデモ画面。かなり目立つが、ライダーの目線が前方に向けられていることを考えると音や振動などで伝える工夫も必要と思われた。
衝突予知警報のデモ画面。かなり目立つが、ライダーの目線が前方に向けられていることを考えると音や振動などで伝える工夫も必要と思われた。

また、基本的なシステムとしてACCと連動して減速はするが、自動的に緊急停止はしない。あくまでも危険回避の判断と操作はライダーに委ねられている。実際に試験車両で走行してみて警報を出すタイミングが難しいと思った。

その点について伊藤氏は『たとえばですが、衝突警報などはセンサー感度を上げ過ぎるとユーザーに煩がられてしまうし、死角検知もガードレールや防音壁などで誤警報してしまうなど、レーダーの反射波の度合いによって変化する要素も多くなります』と話す。どこまでサポートするか……。そのあたりのサジ加減がやはり肝のようだ。

後方の危険も知らせる「死角検知」は2輪にこそ必要

死角検知は車両の周囲をモニターしライダーが安全に車線を変更できるように支援するシステム。車体後方に搭載されたミリ波レーダーがライダーから見えづらい位置(左右斜め後方などのいわゆる死角)にある対象物を検知し、死角に車両が入ってきた場合はディスプレイやバックミラーなどに視覚信号などを表示し警告する。

試験車両ではライダーの死角に他の車両がいる場合に大型ディスプレイ上にコーションサインを表示。それに気付かずに車線変更しようとウインカーを出すとサインが点滅する仕組みになっていた。

死角にいる車両だけでなく、後方から急接近する車両も検知する
死角にいる車両だけでなく、後方から急接近する車両も検知する
ナンバープレート上部のリヤフェンダーに取り付けられた後方用レーダー(中距離レーダーセンサー)。
ナンバープレート上部のリヤフェンダーに取り付けられた後方用レーダー(中距離レーダーセンサー)。

死角検知の機能や表示方法について伊藤さんは『2つの機能があります。ひとつはブラインドスポットに車両がいるのを知らせること。もうひとつは後方から急接近する車両について警報を出すことです。出力のタイミングはレーダーの能力によるところもあります。表示方法についてはミラーにLEDをつけるなど、デザインは車両メーカーにお任せする形になります』と話す。

死角検知も4輪では一般化してきたシステムだが、元々が不安定で車両同士の僅かな接触が大事故に発展しやすい2輪にこそ必要不可欠なものとあらためて感じた。個人的には多くの4輪同様、ディスプレイよりもバックミラーへの直接的なサイン表示のほうが確認しやすいと思った。おそらく市販車に搭載されるときは、そうした設定になるのではと思う。

死角検知のデモ画面。ディスプレイの右上に表示された黄色い三角サインは右後方の死角に車両がいることを表している。表示方法や表示場所は車両メーカーがそれぞれデザインする。
死角検知のデモ画面。ディスプレイの右上に表示された黄色い三角サインは右後方の死角に車両がいることを表している。表示方法や表示場所は車両メーカーがそれぞれデザインする。

2輪も自動運転化される日がくるのか!?

最後にボッシュが考える次世代の安全運転支援システムについて聞いてみた。

高度道路交通システム(ITS)構想のように、今後4輪は互いに通信しながら安全を確保するなどインテリジェント化が加速しそうだが、そうなると2輪は一緒に走れなくなる危惧はないのだろうか。

立石純大氏 モーターサイクル&パワースポーツ部門 製品マネージャー アシスタンスシステム 撮影/筆者
立石純大氏 モーターサイクル&パワースポーツ部門 製品マネージャー アシスタンスシステム 撮影/筆者

この問いに対してアシスタンスシステム製品マネージャーの立石氏は『アシスタンスシステムは元々4輪の技術ですが、将来的には2輪にも転用されていくでしょう。弊社は4輪において先行してきた長い歴史がありますし、データの蓄積を生かせるのも強みと考えます』と話す。

そこで究極の質問をぶつけてみた。先のモーターショーでも自律型バイクを国産2輪メーカーが出展するなど、バイクにもインテリジェント化や電動化の未来がやってこようとしている。今後は2輪も自動運転化していくのだろうか。

『もちろん、キーワードとしては夢のある話だと思います。ただ、2輪に自動運転の機能を持たせる意味があるのかと問われるとどうか。現実的にはそちらの方向には進んでいかないと思います。また、今後は増えていくと予測される電動バイクの安全性向上については、従来どおり積極的に取り組んでいきます』と立石氏。

一方、溝上氏は『ユーザーがそれを望んでいるか? ということに尽きると思います。ライディングの楽しさを損なわずに、いかに安全性を高められるか、そして快適に乗ってもらうか。我々としては、それを事業部のビジョンとしてやっています』と力強く語ってくれた。

ボッシュ製品が組み込まれたバイクの模型。高性能化する現代の2輪は電子制御の力によって支えられている。 撮影/筆者
ボッシュ製品が組み込まれたバイクの模型。高性能化する現代の2輪は電子制御の力によって支えられている。 撮影/筆者

「7件に1件を防げる」という意味

今回、ボッシュの2輪向け安全運転支援システムを取材してみて分かったこと。それは2輪もいよいよ「電子の目」を持つに至ったという実感だ。

かつて2輪のセーフティデバイスはABSから始まり、現在はIMU(慣性計測センサーユニット)と連動して車体の姿勢を制御し走行安全性を高めるコーナリング対応のモーターサイクル用スタビリティコントロール(MSC)やトラクションコントロール、路面状況によって出力特性を変えられるモード機能などを搭載した高度なシステムへと進化してきた。

しかしながら、それは人間でいえば反射神経やバランス感覚を鍛えるような内なる変化に過ぎなかったが、ここにきてようやく“バイク自身が周囲の危険を察知できる能力”を得たのだ。未だ発展段階ではあるが、安全技術としては大きな飛躍への一歩となるに違いない。特に今後は高齢化が進むことが予想される2輪ユーザーにとっても、それは衰えていく身体能力を補完する目であり耳となるはずだ。

2018年における日本での2輪(自動二輪車および原付)の交通事故件数は5万3,828件。この数字を見れば、「7件に1件を防げる」ことの意味はけっして小さくない。そう確信できる試乗体験だった。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人の企画支援記事です。オーサーが発案した企画について、編集部が一定の基準に基づく審査の上、取材費などを負担しているものです。この活動は、個人の発信者をサポート・応援する目的で行なっています。】

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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