金正恩氏の身辺に「異常事態」か…7年続いた慣例を破る
金正恩党委員長、またはその周辺で異常事態が起きているかもしれない。昨日4月15日は、金日成主席の生誕記念日だった。しかし、金正恩氏は金日成氏と金正日総書記の遺体が安置されている錦繍山(クムスサン)太陽宮殿を参拝していないもようなのだ。
北朝鮮の建国の父である金日成氏の誕生日は「太陽節」として最も重要な祝日となっており、15日前後は毎年、祝賀ムードに包まれる。とりわけ金正恩氏は、金日成氏と父・金正日氏から受け継いだ「白頭の血統」を最高指導者としての正当性、拠り所としているだけに、参拝のみならず軍事パレードなど、毎年何らかのイベントを催してきた。
コロナ感染も
金正恩氏は2011年12月に最高指導者となった。翌2012年の「太陽節」は金日成氏の生誕100周年ということもあり、軍事パレードをはじめとする大々的なイベントが行われた。翌2013年から金正恩氏は、毎年欠かさず、4月15日午前0時に朝鮮労働党や朝鮮人民軍の幹部を引き連れて錦繍山(クムスサン)太陽宮殿を参拝し、その様子は4月15日に大きく報道されてきた。
しかし、今年の15日に限っては金正恩氏が参拝したという報道はなされていない。本日(16日午前11時)の時点で確認できるのは、党や政府、武力機関の幹部が参拝したという報道のみ。つまり金正恩氏は参拝せず、2013年から続いてきた慣例が破られた可能性が高いのだ。
理由として考えられるのはやはり新型コロナウィルスの影響だ。北朝鮮は今年1月から新型コロナウイルスの国内流入を防ぐために、外国人観光客の受け入れ中止、国境封鎖、貿易の停止、徹底した消毒作業や国民に対する衛生教育など、強力な対策を取ってきた。北朝鮮は現在まで、感染者数はゼロとしているが、実際には相当数の感染者・死亡者が出ているとの観測が強まっている。
(参考記事:「焼くには数が多すぎる」北朝鮮軍、新型コロナで180人死亡の衝撃)
北朝鮮は、日本の国会に相当する最高人民会議の第14期第3回会議を、当初予定していた10日から12日に延期した。この理由も「複数の代議員が新型コロナウイルスに感染した疑いが出たため」と、現地のデイリーNK内部情報筋は伝える。
一方、北朝鮮国営メディアは10日、金正恩氏が朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の砲撃訓練を指導したと報じた。指導の日時は不明だが、9日前後に訓練を指導したと見られる。同氏はまた、11日に開かれた朝鮮労働党政治局会議にも出席している。
北朝鮮では最高人民会議よりも朝鮮労働党が上位にあるため、金正恩氏が最高人民会議を欠席することはあり得る。しかし、最高人民会議を控えているのに、急遽、党の会議を開催したり、それまで精力的に活動していたにもかかわらず、4月15日の参拝を欠席したというのは、やはり何らかの異変が起きていると疑わざるを得ない。
金正恩氏は今年2月以後、北朝鮮軍を5回も視察した。最初の2回は金正恩氏以外の軍人全員がマスクを着用するなど、新型コロナウィルスを警戒している様子が伺えた。しかし、それ以降の3回は、どの軍人もマスクを着用していない。3月には平壌総合病院の着工式に訪れ演説を行った。この時は金正恩氏以外の出席者はマスクを着用している。その後に3回、北朝鮮軍を視察しているが、金正恩氏を含め誰もマスクを着用していない。マスクを着用して公式の場に出れば、北朝鮮でも感染者が出ている可能性を示唆することにつながると考え、あえて避けていたのかもしれない。
同時に、金正恩氏は新型コロナウィルスの蔓延をかなりの程度抑え込んでいると過信していたのではなかろうか。ところが、ここに来てのっぴきならない状況になり、その自信が揺らいでいるのかもしれない。現時点では些細な異変だが、今後、金正恩体制を揺るがす大きなリスクが醸成されてもおかしくはない。