北海道地震、地鳴りデマ拡散中?:災害デマの心理と具体的予防法
「リツイートしたい」と強く思った時こそ、「ちょっと待てよ」と考えよう。
■地鳴り? 大きな余震?
今(2018.9.8)、ツイッター上でこんな情報が広がっています。
「厚真に居る自衛隊の方からの今来た情報です。地響きが鳴ってるそうなので、大きい地震が来る可能性が高いようです。推定時刻5~6時間後との事です!!」
しかし、この情報に対して、札幌市議の方が、【デマ情報・要注意】との投稿をしています。
■これってデマ?
さて、「地鳴りだ、地震の予兆だ」といった、このような情報を目にしたとき、どう対処したら良いでしょうか。とても心配です。私の家族親戚知人も、札幌に何人もいます。この情報は、すぐにリツイートしたり、札幌の身近な人に伝えたほうが良いでしょうか。
一瞬、そうしたくなります。しかし、「ちょっと待てよ」と考えました。そこで、「地鳴り デマ」で検索をかけました。すると、上記の市議のツイートがすぐに見つかりました。
でも、不安は残ります。私は、自衛隊に確認をとっていません。だから、嘘情報との確信はありません。市議の方が嘘情報と言っていますが、このアカウントが本当の市議のものかどうか、確認がとれません。ただ、このアカウントの以前の投稿を見ると、どうやら本当に市議の方のようだと考えられます。
しかしそれでも、今回の北海道地震に関しては、「立憲民主党が北海道の断水情報デマツイートを謝罪」(ライブドアニュース)ということもありました。
立憲民主党に悪意はありませんし、これまでもきちんとした組織が誤った情報を流した例はあります。だから、本物の市議のツイートだからと言って無条件には信じられません(どこの誰だかわからない匿名の投稿よりは信頼性は高いが)。
そこで、もう一度冷静に文章を読み直します。
「厚真に居る自衛隊の方からの今来た情報です。地響きが鳴ってるそうなので、大きい地震が来る可能性が高いようです。推定時刻5~6時間後との事です!!」
これはいったい、誰が誰に伝えた情報なのだろう。もし本当に重要な情報なら、しかるべきところから発表があるはずだ。そう考えられます。さらに、地元の人からは「地鳴りなど聞こえない」というツイートもありました(これも真偽の確認は取れないが)。
たしかに確信はないけれども、少なくとも不用意に拡散する前に、もう少し慎重になったほうが良い、と考えられるでしょう。
嘘情報と思える情報の中に、一部真実が混じっていると、話はなおさら複雑です。もしかしたら、地鳴りを聞いた人はいる人はいるかもしれません。ただ、それを5〜6時間後の地震の予兆とするのは非科学的でしょう(上記の市議の方もおっしゃっています)。現在の科学では、「5〜6時間後に地震が来る」とは予知できないのです。
さらにネット上で探っていくと、「「札幌市で今後断水が拡大」は誤情報 SNSで拡散、市水道局と市議が否定「全市で断水は無い」」(BIGLOBEニュース編集部)との記事が見つかり、ここでも市議成田祐樹氏のデマ否定ツイートが紹介されています。こうなると、今回の市議のツイートの信頼性もさらにますでしょう。
■それでも広げたほうがよいか
この地鳴り情報に触れた人たちも、すぐに信じた人ばかりではないでしょう。怪しい情報だけれども、余震に注意は必要だし、一応リツイートしておこうと考えた人もいるようです。
たしかに、余震への備えは必要です。しかし、安全のために必要で良い情報なら、嘘の内容が入っていても良いでしょうか。
もしもこの情報を聞いた人が、不安になり、確認を取ろうとして、自衛隊への電話が殺到したらどうでしょう。正常な仕事が妨害されます。あるいは、自衛隊が大切な情報を公表せず一部の人だけにこっそり伝えたなとして、おかしな陰謀論を広げたりすれば、自衛隊への信頼感が薄れるでしょう。
誤った情報を流しては、いけません。
ただし、その情報自体が誤りでも、余震の木先生がないというわけではありません。その情報は誤りだが余震には注意しましょうという伝えかたが必要でしょう。
■災害時流言(デマ)の心理学
災害心理学の研究では、災害時流言は一つの重要なテーマです。「デマ」は、本来は意図的に流される嘘(デマゴーク)で、意図せずに広がっていく嘘情報は、流言と呼ばれています。最近は両者を区別しないこともありますが。「流言飛語」を辞書で調べると「 世の中で言いふらされる確証のないうわさ話。根拠のない扇動的な宣伝。デマ」とあります。
災害の前兆、預言に関する流言デマは災害時流言の典型の一つです。地震の数秒前に地鳴りが聞こえた話はよく聞きますが、数時間前に予知できた話は聞いたことがありません。土砂崩れの前触れとして、異常な音が聞こえて避難できた話はあります。
地震予知は、なかなかできません。おかしな雲が出たり、動物が騒いだり、様々なことはありますが、よくわからないものです。良く分からないことでも、不安なときは信じたくなり、広めたくなってしまいます。
災害時は、「集団的ストレス状況」です。被災地の人も全国の人も、日頃の冷静さを失い、強い不安状態に置かれることもあります。 自分や家族友人の命、財産の不安、今後の生活の不安、今何をするべきかの行動基準が定まらない不安などが、襲ってきます。その他漠然とした不安や不満もたまります。
この言いようのない不快感が流言(デマ)を作り出すと言われています。人は、不安になると、自分の不安を正当化し不安がっても良いという情報を求めます。どうしたら良いかわらない時、こうすれば良いという情報に飛びつきやすくなります。
これまでの研究によると、被災地で不確かな情報に触れると、多くの人は「情報確認行動」を取ります。人と話すのです。「こんな話を聞いたのだけれど」と。現在なら、それをSNSでも行います。しかし、この確認行動が、結果的に誤った情報を広げることになってしまうのです。
ただし多くの場合は、情報を聞いて極端な行動を取った結果「余震パニック」が起きるようなことは少ないと言われています。ただ、現代では情報の伝わる速さ広さが桁違いになっていますから、注意は必要です。
口コミ時代は、人が集まる場所で流言(デマ)は発生しやすいものでした。現在では、人が集まるSNS上で流言デマが広がりやすくなっています。ネットユーザーは、そんな危ない場所にいる自覚と持つ必要があるでしょう。
ネット上で一般ユーザーがどんな話題で話しているのは、わかるようになっています。デマが広がりつつあるときに、公の組織が、はっきり否定することは大切でしょう。
たとえば、今回の北海道地震でも、「4時間で携帯電話が使えなくなる、拡散希望」という流言デマが広がりました。そこでNTTドコモは「そのような事実はない」とすぐに否定しました。
ただし、「ライオンが逃げた」という情報は、「ライオンが逃げたはウソ」という情報が出た後も、広がり続けました。広がっていく嘘情報は、情報を広げたくなる力を持っているのです。
嘘情報を見抜くことは簡単でない場合もあります。だからこそ、「自分の気持ちにぴったりだ、すぐにでもリツイートしたい、多くの人に知らせたい」と思える情報に触れた時こそ、「ちょっと待てよ」と考える心の余裕が必要になるのでしょう。