なぜ「5類新型コロナ」で再び医療逼迫を繰り返すのか?
5月8日に新型コロナが「5類感染症」に移行してから約2か月が経ちました。沖縄県では医療逼迫が厳しく、その波はじわじわと北上しつつあります。「5類」になったのに、なぜ同じような医療逼迫を繰り返すのでしょうか?
現在流行しているのはXBB系統
民間検査機関の検体に基づくゲノムデータによると、現在流行しているのはXBB系統です(図1)。過去の免疫を逃れやすい性質があり、再感染例も多いです。
結膜炎の症状が多いという報告もありますが、基本的にはこれまでの新型コロナと同じように、発熱、咳、咽頭痛がよくみられます。
「しんどいから病院へ」が増加
沖縄県における前波のピークは定点医療機関あたり30人あまりでしたが、今週発表された速報値では、全国平均を大きく上回る48.39人という結果でした(図2)。波のピークが見えない現状に、沖縄県の医療現場が疲弊しています。ワクチン接種率が低く若年層が多い沖縄県特有の問題と思われがちですが、地域の波は数週間ずれることがあるため、他の都道府県でも決して楽観視はできません。
実際、鹿児島県も13.48人と2ケタ人に新型コロナが急増しています。同県はインフルエンザの定点報告数が全国トップであり、ヘルパンギーナやRSウイルス感染症の流行も相まって、小児科が混雑しています。
さて、新型コロナの重症化リスクは当初よりかなり低くなりました。しかし、重症ではない人すべてが軽症というわけではありません。軽症から重症までの間はグラデーションになっており、「風邪やインフルエンザにしてはしんどい」とおっしゃる方も結構いらっしゃいます。
軽症の方は自宅で療養いただいてよいですが、問題は、流行ピーク期には軽症と重症に存在する「しんどいから病院へ行こう」という患者数が必然的に増えることです(図3)。この層が多いと、医療は逼迫します。
「5類になったからすべての医療機関で診られる」という建前になっていますが、緊急受診する病院はだいたいあそこの病院と決まっているものです。分散受診が啓発されているわけではありませんから、いずれにしても真っ先に医療逼迫に陥るのは地域の中核病院なのです。
医療機関の「多重苦」
「5類」化以前は、行政によって入院調整されていました。東京都など多くの都道府県は、新型コロナの患者情報を保健所に伝えて調整を依頼する仕組みを残していますが、「5類」化以降、沖縄県を含むいくつかの都道府県で調整機能は低下しています。
現在の沖縄県で、こうした調整にあたっているのは新型コロナ診療の矢面に立っている医療機関自身であり、業務的には二重苦の状況です。また、新型コロナで入院しても、その後衰弱して自宅に帰れない場合、転院先などを調整するのも医療機関自身という現状です。
さらに、医療機関では病院職員や職員家族の感染が多く、マンパワーが削られるという毎波の問題がいまだに解決されていません。
「5類」化については世論の声に押されたのは事実ですが、地域医療インフラが整備されないまま「5類」に移行した地域が「多重苦」構造に苦しんでいる現状は、軽視できません。
一医師の意見としては、「新型インフルエンザ等感染症」の枠組みのまま「5類相当」の対応でもよかったのでは・・・と思っています。
現在、行政の入院調整機能を再構築する動きがあるそうです。
二元論で語ることは難しい
このウイルスの一番やっかいなところは、医療情報を巧みに混乱させる社会的影響です。
「重症化する・しない」「マスクは必要・不要」「新型コロナワクチンは効く・効かない」のように二項対立のテーマで議論されがちですが、感染症はグラデーションで理解しないといけない命題が多く、そもそも二元論で語ることは難しいです。
流行がひどければマスクを着用したり、学級閉鎖などで接触を減らしたり、入院が必要な患者数を減らすためワクチン接種の啓発を続けたりすることは、集団ベースの対応として有効と考えられます。
今後、地域で表面化する新型コロナの問題を解決するためには、行政が積極的に動くしかないように思われますが、皮肉なことに「5類」化して行政の関与が減ってしまっていることがジレンマです。
(参考)
(1) 第123回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和5年7月7日)【資料2-1】直近の感染状況等について(事務局提出資料)(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001119084.pdf)
(2) 第123回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和5年7月7日)【資料4】沖縄県における感染状況等について(沖縄県提出資料) (URL:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001119088.pdf)