ニュースになる情報発信術
いい商品やサービスで誰もが求めている商品やサービスはヒットするが、「知ってもらえなければ」売れない。だから大企業ではこぞってCMを流すし、様々な方法で宣伝広告を展開している。しかし、莫大な費用を要することでもあり、予算に限りがある公的プロジェクトや、中小企業・小規模事業所には現実的なやり方とは言えない。
そうしたなか、2001年に静岡銀行から出向する形で産業支援の仕事に着任した当時、できたばかりの支援施設の事に関して初めて直接メディアから取材を受けたのだが、その報道がされたときの反響はとても大きいものだった。新聞やテレビで見たという連絡が殺到したのだ。
新聞やTVは広く巷に話題を提供し、かつ、第三者である記者や製作者が取材したものだから客観性がある。さらに費用もかからない。これは、中小企業・小規模事業所にとってじつに有効なPR手段だとそのときに気づいた。
以降、どうすれば自分たちや支援先の取り組みをメディアが評価してくれるかを探求、実践してきた。いま、私どもで運営している中小企業支援施設f-Bizが発端のニュースは毎日のように報道される。今回は、私なりにつくりあげてきた、ニュースになる情報発信術について公開したい。
●ダメ出しの中にヒントがある
業務について間もない頃は、私は何の考えも無しに知り合いの記者に電話を入れていた。自信満々で「こんなユニークなサービスを始めた人がいるんですよ」と伝えると、「うち宣伝記事は書きませんから」と、まるで受け付けてもらえないこともあった。「そういう方が3人以上いれば書きやすいんですが…」などと、ポロリと本音をこぼされたこともある。
そうしたとき私は、「そうか、宣伝っぽくしなければいいのか」とか「1人ではダメでも3人いればとり上げてもらえるのか」と、今後の参考にしていった。記者の方々からはじつにたくさんのことを教えてもらった。
この積み重ねから徐々にメディアが評価するポイントがわかるようになり、記事としてとり上げてもらえる回数が確実に増えていった。
ポイントとは、「新規性」「社会性」「共感性」の3つで、これらどれか一つにでも該当していればメディアの関心度は高まる傾向にある。
●相手の事をおもうことが大切
一方で当然、普段から記者との関係は大切にしていた。たとえば、自分たちを取材して記事にしてくれた時は、その記者に「ありがとう、いい記事だったよ」と連絡を入れた。自分たち以外の記事であっても、知っている記者が書いた記事を見つけたときは、管轄外へ転勤した後であっても、たとえば全国版に署名記事を見つけたら「がんばっているね」と電話をした。
ある時は、たまたま見ていた報道番組で、よく知る記者がレポートをしていたため、「テレビ見たよ、あのヘルメットいいね!」と電話をしたら、「すっごく大変な取材だったんですよ」と、本音をこぼされたこともあった。
何も立派なことを述べる必要はない。大切なのは相手の事を常に思うことであり、「あなたの仕事を見ていますよ」という事を相手にきちんと知らせ、相手がどのような話題に関心を持ち追っているのかを知ろうとする努力にある。
これを継続していると相手のことをより理解するようになり、何か情報を発信したいとき、誰が関心を持ってくれるかわかってくるため、記事や報道につながりやすくなるのだ。
あるとき、地元の新聞社から電話取材を受けることになり、担当記者の名前を聞いてすぐ「ぜひ、一度会ってお話をしたい」とお願いしたこともある。じつは、以前から、インパクトのある記事を書く方だなとその女性記者に関心を持っていて、名前を記憶していたのだ。
後日、彼女とお会いした際、自分たちの考えを聞いてもらった一方、彼女の考え方も詳しく教えてもらった。そのうえで、関心を持つ案件があれば是非あなたに紹介したいと伝えた。
間もなく、元フィットネス日本チャンピオンの女性が経営するフィットネススタジオの記事を取材してくれたのだが、過去に過剰なダイエットにより摂食障害と鬱になってしまった経営者である彼女の経緯から、起業にかける思いが見事に記事に表現されていた。
●「使命」に共感してもらう
産業支援の仕事を始めて間もなく、この仕事はメディアに常に関心を持ってもらうことが重要だと強く感じた。そのため私は、自分たちが何のためにこのプロジェクトをやっているのかということを伝えることに尽力した。
「チャレンジャーをたくさん輩出し、それによりこの地域を元気にしていきたい」ということ、また、これまでなかなかうまくいっていなかった公的中小企業支援だが、「f-Bizが起点となって成功モデルを全国に広げていくこと」を全力で伝え続けたのだ。当時からのスタッフは、小出は100回でも200回でも同じ話をできると驚いているが、要は、共感してもらいたいのだ。
記者たちにしても、そもそもなぜ新聞社あるいはテレビ局に入ったのかといえば、おそらく、他の学生に比べれば、よほど社会に対しての問題意識を持っていたからだろう。つまり、「社会をより良くしたい」という願いや「地域おこし」にかける思いのベクトルは一緒だと考えられるのだ。だからこそ、そんな彼らに、応援団になってもらいたいと思っている。
記者の中には、いつか全国紙でエフビズのことを書きたいとおっしゃって下さる方も少なくなかった。
以前、朝日新聞別刷 「be on Saturday 」のフロントランナーに掲載されたときは、自分が書きたかったのに先を越されて「悔しい」とか、やっと全国紙で紹介されたことで「 嬉しかった、胸のつかえが降りました」と、その日のうちに記者の方々から嬉しいメールが届いた。感謝の思いでいっぱいになった。
メディアとの関係性を構築する方法は他にもさまざまあるとは思うが、特に企業支援関係者には参考にして頂けると思う。一企業の場合であっても共通して言えるのは、もし今後、事業に興味を持って記事にしてくれる記者が現れたら、その記者との関係を大切にすることを勧める。