北朝鮮の「少年ヤクザ予備軍」がビジネスに乗り出した
1990年代後半に北朝鮮を襲った未曾有の食糧危機「苦難の行軍」。餓死者は、数十万とも言われるが、親を失った子どもたちは家を出て町をさまよい、ストリート・チルドレンとして生きていくことを余儀なくされた。そんな彼らは「コチェビ」という名で呼ばれている。
現在の北朝鮮に、かつてほどの食糧危機は存在しないが、なし崩し的に進行する市場経済化の中で貧富の差が拡大。「苦難の行軍」のときに拡大した売買春は社会に根付き、コチェビも発生し続けている。
(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち)
ただ、変化も見られる。物乞いや盗みで生き伸びてきたコチェビたちが、最近は労働力を提供しカネを稼ぐようになっているのだ。
デイリーNKの対北朝鮮情報筋によると、一部のコチェビが市場や駅前で老人の荷物運びを手伝い、手間賃を稼ぐ商売を始めたという。また、こんな商売を始めたコチェビもいる。
「10歳そこそこのコチェビは、首に工具袋を提げて、石炭を満載した25トントラックのタイヤに刺さった釘を抜く」(情報筋)
ドライバーが食事に行っている間に釘を抜いて、短いものなら1本200北朝鮮ウォン(約2.6円)、長いものなら1000北朝鮮ウォン(約13円)の手間賃を受け取る。数本こなせば、市場でラーメンにありつける。
コチェビと言えば、市場や駅前でたむろするものだった。半グレ化することも少なくないとされ、中には本格的なヤクザになる者もいる。コチェビが市場をうろついているだけで、保安署(警察署)に通報されるほど厄介者扱いされてきた。
(参考記事:【実録 北朝鮮ヤクザの世界(上)】28歳で頂点に立った伝説の男)
一部が商売に乗り出したのは、そんなことをしていては生き残れないと考えたのだろうか。また、物乞いをするコチェビも、グループになって縄張りを決め、その中で物乞いをすることで互いに衝突せずに利益を確保できるようにしている。北朝鮮では、こうしたアウトローの利益集団が衝突すると、ときに死人が出るほどの乱闘にも発展すると言われる。
(参考記事:【動画】北朝鮮労働者とタジキスタン労働者、ロシアで大乱闘)
中には、中国からの観光客が多く訪れる場所で物乞いをするコチェビもいる。観光客に近づきすぎると、ガイドから「お前らは国の恥だ」と罵られ、追い払われるため、あまりそばには近寄れないが、スキを見て物乞いに成功すれば、大金にありつけることもある。業を煮やした当局が、コチェビを町から追放することもある。
北朝鮮当局は、コチェビをまったく見過ごしているわけではない。時々、コチェビを収容施設に送っているが、そうした施設はまともに管理されていないことが多いという。韓国の統一研究院の「2018北朝鮮人権白書」には、「コチェビの収容施設は環境が劣悪で規則が厳しく、結局逃げてしまうことが多い」との脱北者の証言が収録されている。施設では職員による暴言、暴力、性的虐待も行われていると言われている。