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未来のために 日本男子バレー界への提言

柄谷雅紀スポーツ記者
日本男子バレーが再び輝くために、今、変わらなければならない。(写真:中西祐介/アフロスポーツ)

男子バレー復活のために

バレーボール男子の日本代表はリオデジャネイロ五輪予選(OQT)で敗れ、2大会連続で五輪出場を逃してしまった。1996年のアトランタ五輪出場を逃して以降、日本が出場できたのは2008年の1度だけ。1972年のミュンヘン五輪で金メダルを獲得した栄光の歴史は、既に過去のものになってしまった。世界に大きく水をあけられてしまった日本男子バレーが復活するには、どうすればいいのだろうか。

「慣れ」から始まる日本代表

リオデジャネイロ五輪予選が1年後に迫った2015年の夏。ある選手が私につぶやいた。「毎年、代表で試合をやって、世界の高さやパワー、サーブのスピードに慣れてきた頃に日本のリーグに戻ってしまう。そこで感覚を忘れないように努力はしているけど、維持するのは難しい。それで翌年に代表に行くと、また慣れるところから始まる。同じサイクルでやっていて本当にリオに行けるのか」

この言葉に、日本男子バレー界の問題点が凝縮されている。中大在学中の石川祐希を除く代表選手全員がプレーする日本最高峰のリーグ、Vプレミアリーグでは、外国人枠が各チームで1人だけ。日本でいくらリーグを戦っても、外国人の強力なサーブや高いブロックに対峙する機会は極めて限定的だ。そのため、日本代表として国際試合を戦うときには、必然的に海外勢の高さやパワー、ボールのスピードに「慣れる」ところから始まる。

5勝を挙げた昨年のワールドカップ(W杯)と2勝5敗で8チーム中7位に沈んだOQT。二つの大会で大きく違ったのは「慣れ」だ。W杯は9月だったため、それまでにワールドリーグや欧州遠征などで60~70セットを海外勢相手にこなすことができた。多くの試合をすることで、海外勢の高いブロックや強烈なサーブにも慣れることができ、それに応じた戦い方を展開できた。

しかし、OQTは5月末だった。まだ代表シーズンが始まったばかりで、なかなかマッチメークできなかった。OQT前の対外試合は、米国遠征と直前のフランスとの練習試合で「20セットほど」(南部正司監督)。まだ「慣れる」と言える状態まで仕上がらず、結果として被ブロックが多くなり、レセプション(サーブレシーブ)も崩された。オーストラリアに敗れてリオの出場権を逃したときに、南部監督は「代表選手は日本のリーグではブロックの上から打てる。でも、海外勢にはブロックで囲まれる。そのギャップに慣れていなかった」と漏らした。さらに「情報収集して臨んだが、実際の相手のサーブの威力は、計算していた以上のものが飛んできた」とも言った。100キロ以上出るサーブマシンが放つサーブを受けるなど対策はしていたが、実際に選手が打った生きているボールとマシンのボールは違う。海外勢への「慣れ」が足りていなかった。

最終戦のフランス戦。五輪出場を既に決めていた相手が先発を総入れ替えしていたとは言え、高いブロックに強攻せず、軟打でいなしたり、フェイントしたり、リバウンドを取ったり、と南部監督が就任してから取り組んできた攻撃ができていた。被ブロック数はそれまでの6試合が1セット平均3.24本だったのに対し、フランス戦では1セット平均1.67本と半減した。レセプションも大崩れしなかった。最終戦までの6試合で21セットを戦い、ようやく慣れ始めたのだ。フランス戦後に米山裕太は悔しさをかみ殺すように言った。「試合を重ねる事に修正していって、チームとしていい状態になっていった。今日のようなバレーができていれば、もしかしたら違った結果になったかもしれない」

「慣れる」ことから始まる代表チームでは、世界に追い付くどころか、ますます差は広がる一方である。選手が普段戦うリーグのレベルは、選手の成長スピードに大きく関わってくる。南部監督は大会直前のフランスとの練習試合を終え、こう感じていたという。「W杯後に若手が成長して、フランスとどれぐらい差が詰まったか楽しみにしていた。しかし差が縮まるどころか、もっと開いていると感じた」。世界との差を縮めるどころか、広がってしまう――。この現実を受け止め、解決策を模索せねばならない。

高いレベルで揉まれる必要性

海外勢同士の試合を見ていると、レベルが上だなと感じることはよくある。レセプション一つをとっても、おそらく日本ならサービスエースになるだろう強烈でサイドラインぎりぎりのボールをいとも簡単にAパスで返球し、サイドアウトをあっさりと重ねていく。残念なことに、日本はこうはならない。そのサーブを上げるのにいっぱいいっぱいになり、ハイセット(2段トス)でサイドのアタッカーに持って行ったところで、待ち構えている海外勢の高いブロックに捕まるだろう。

もちろん、技術力に差があるとも言える。しかし、それは強烈なサーブや高いブロックに慣れ、耐性があるかが大きく影響しているだろう。野球でも、普段120キロのボールを打つ練習をしていたら、いきなり140キロのボールを投げられると面食らってしまう。しかし、普段から140キロのボールを見慣れていたら、ヒットも打てるし、ホームランも打てる。それと同じだ。ポーランドやイタリア、ロシアなど世界トップクラスの国の選手たちは、普段から欧州各国のリーグで揉まれている。カナダやオーストラリアなどの選手もそうである。それらのリーグには各国のトッププレーヤーがそろっており、「おそらくOQTよりハイレベルなところで磨かれている」(南部監督)。そういう場でやることで選手は高さやスピード、パワーに慣れることができるし、それに応じたプレーができるようになる。加えて、高いレベルのバレーに接することで、技術面や体力面など足りない部分に気付くことができ、それを改善していくことで成長するスピードは早くなるはずだ。

フランスは、4位になった2014年の世界選手権のときには国外でプレーしていたのは5人だけ。それが今大会のチームは14人中12人が国外のリーグでプレーしている。ロラン・ティリ監督は「国外組は経験を代表チームに還元してくれている」と話す。そうやって2015年のワールドリーグを制するまでに力を付け、3大会ぶりの五輪出場を決めた。

自国にリーグがないカナダも10年ほど前から強化策を講じてきた。大学卒業後に1~2年、協会が作成したプログラムに従って練習し、その後に欧州などのリーグに選手を送り出す。今回の代表選手の多くはその出身者。なかでもサイドアタッカーのニコラス・ホーグとジョン・ペリンは、昨年のW杯の後にヨーロッパで揉まれることで劇的にレベルが上がった。ニコラス・ホーグはパリのクラブでプレーし、ペリンはセリエAでしのぎを削った。カナダのグレン・ホーグ監督も「4月の終わりにチームとして準備を始めたが、監督として何かをやったというより、選手たちが各国のリーグでやってきてくれた。選手が自分自身で得たものをチームに還元してくれて、チームが成長した」と話した。ペリンはW杯よりも一回りプレーがスケールアップしており、高さを生かしたスパイクに磨きがかかっていた。このOQTではレセプション、サーブ、スパイクに大車輪の活躍で、計122得点を挙げてベストスコアラー部門1位。スパイク決定率も全体の9位の52.66%、レセプションでも全体で8位と好成績を残した。ペリンにレベルアップした理由を尋ねると「リーグでプレーすることで自分のプレーを改善できた」と言っていた。選手を海外に送り出して成長させる取り組みが実を結び、1992年のバルセロナ五輪以来、24年ぶりの五輪をつかんだ。

日本として欧州に参戦を

サッカーのように、個々の日本人選手が海外に出て行くのも一つの方法ではある。過去には加藤陽一、越川優が欧州でプレーした。石川も1シーズン、イタリア・セリエAでプレーした。他にもプレーしている選手は数人いる。しかし、プロ選手でなく、実業団を持つ企業の社員としてプレーする選手が多いバレー界では、国内ですら移籍の壁は高い。海外となればなおさらである。ならば、ラグビーのサンウルブズのように、日本代表という形で参戦できたらいいのではないだろうか。イタリアはそれを実現させ、いい強化サイクルができている。

世界最高峰のリーグと言われるイタリアのセリエAには、A2のカテゴリーに「クラブ・イタリア」という協会主導のチームが参戦している。協会が将来有望な選手を集め、リーグを戦わせて経験を積ませているのだ。現在所属しているのは1996~99年生まれの若手の選手ばかり。きっと将来、この選手らがイタリア代表の主軸を担うことになる。

日本もこのような形を作れればベストだ。U-23(23歳以下)日本代表、もしくはフル代表でもいい。イタリアとはいかなくとも、欧州のレベルの高いリーグに日本の選手がチームとして参加するのだ。1シーズン戦うことができれば、高さやスピード、パワーへの慣れ、対策もでき、プレーの幅も広がるだろう。シーズンが終わって代表に招集され、海外勢とこなす最初の70セットあまりを、「慣れる」ことだけでなく、コンビネーションの構築や戦術・戦略を試して浸透させる場に使うことができれば、チーム力は飛躍的に向上するはずだ。

このままでは、日本は世界のプレーに触れる機会が少ないままの状態が続き、毎年「慣れる」ところから始まる繰り返しになってしまう。それは強化が遅れ、過ちを繰り返すことを意味する。海外勢の強烈なスパイクもサーブも、高いブロックも、慣れれば対応できるはずだ。そのためにも、そのプレーに触れる機会を増やさなければならない。

南部監督も言っていた。「もっと海外との対戦を増やさないといけない。回数を増やそうとしたが、まだまだ足りなかった」と。そして、最終戦が終わった後に米山もこう言った。「国内にこもって日本代表のAB戦だけやっていても、どれだけ質の高い練習しても、高さやサーブの威力は全く違ったもの。日本人同士でやっても絶対に経験できないことへの経験のなさ。それがスタンダードになる環境を作っていかないと難しい。ロンドンの時と同じ根本的な問題を改善しきれていない」

これが、日本男子バレーが五輪を逃し続ける最大の原因である。海外勢への経験の少なさをどう克服するかで、日本男子バレーが歩む道は変わってくるだろう。そして、米山はこうも付け加えた。「大きくて動ける選手を探すことも大事だけど、そういう選手たちにどうやって勝つかをもっと真剣に考えないと、2020年の東京五輪も勝つのは難しい。でも、うまくやれば必ず道は開ける。現場と強化とがミックスしてやっていけば、必ず結果は出る」

簡単に実現することではないだろう。だが、世界から取り残されないためにも、日本男子バレー界は今、変わらなければならない。根本から変えねばならない。そうしなければ、世界と伍して戦える日は二度と来ないだろう。世界と対等に戦い、五輪の舞台で活躍する日本代表の姿を見たいと心から思う。その日が来ることを願い、私から日本男子バレーボール界への提言としたい。

スポーツ記者

1985年生まれ、大阪府箕面市出身。中学から始めたバレーボールにのめり込み、大学までバレー一筋。筑波大バレー部でプレーした。2008年に大手新聞社に入社し、新潟、横浜、東京社会部で事件、事故、裁判を担当。新潟時代の2009年、高校野球担当として夏の甲子園で準優勝した日本文理を密着取材した。2013年に大手通信社へ。プロ野球やJリーグの取材を経て、2018年平昌五輪、2019年ジャカルタ・アジア大会、2021年東京五輪、2022年北京五輪を現地で取材。バレーボールの取材は2015年W杯から本格的に開始。冬はスキーを取材する。スポーツのおもしろさをわかりやすく伝えたいと奮闘中。

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