合法化が加速する?「医療大麻」の今後は
今月19日、ドイツ連邦議会が医療目的の大麻の利用、いわゆる「医療大麻」を合法化したとの報道がありました。
the Guardianの記事によれば、以前からドイツでは特別な許可があれば医療大麻を利用できたのですが、今回の法制化によって、医師の処方せんがあれば入手可能となり、医療保険の適用も受けられることになったということです。「多発性硬化症や慢性痛などで、ほかに良い治療法のない患者」限定ということですが、踏み込んだ印象を受けます。
今後、世界的に医療大麻の合法化は広がっていくのでしょうか?
そこでまず気になるのは、大麻って本当に病気に効くのか?ということですよね。そして、依存などの危険性はないのか?ということも気になります。
※下記の検討は、あくまで医療目的に限定したものです。嗜好用の大麻と混同しないようご注意ください。
医療大麻の「有効性」を調べるには?
そこで、医療大麻の有効性に関する最新の資料を読んでみました。2016年に、麻薬の規制について世界的な影響力を持つWHO(世界保健機構)のECDD(薬物依存に関する専門家委員会)に出されたものです。
この資料は「システマティック・レビュー」という手法をとっています。
何やら難しそうな言葉ですが、簡単に説明すると次のような内容です。
大麻が病気にもたらす影響を調べた研究は、過去に様々なものが行われてきました。なかには「高い効果がある」と結論したものもあれば、「効果なんてなかった」としたものもあります。その結論を導くために行われた研究手法も、様々です。
このように色々な研究があると、大麻を利用したい人は「効果がある」ほうを信じたくなりますし、規制したい人は逆に「効果なし」のほうを信じたくなりますよね。このままでは、議論が混乱してしまいます。
そこで出てくるのが、「システマティック・レビュー」という方法です。
まず、過去40年に渡って世界中で発表された大麻に関する研究を集め、中でも質の高いものを選び出します。
それらを複数の研究者が、決められた方法で評価します。
こうすることで、個人の意見や感情の影響を減らし「色々研究はあるけれど、現時点で全体としてはこういうことが言えそうだ」ということを調べようというのです。
結局、効果はあるの?
システマティック・レビューの結果、大麻の病気に対する有効性について、次のようなことがわかりました。
有効とする信頼性の高い証拠が得られたもの
※「多発性硬化症(注)」における、けいれんや痛みをやわらげる効果
効果を示した研究はあるものの、有効だと結論づけるまでには至らないもの
※「神経の異常を原因とする慢性的な痛み」をやわらげる効果
注)「多発性硬化症」は、国指定の難病の一つ。脳や視神経などに炎症が起こり、様々な症状を繰り返しながら進行する病気。
その他の病気については、現段階の研究を見る限り、有効だとするには証拠が足りないとされているようです。もちろん、これは現時点での評価であり、今後の研究の進展によっては変わりうるものです。
依存症になる危険はないの?
大麻に関して心配されるのは、依存や乱用を生まないのか?ということです。
そこでこちらも2016年のEECDに提出された、依存や乱用に関する資料を読んでみました。
「人体への影響」という項では、過去の研究を総合した結果として「大麻には依存や乱用の危険がある。ただしその割合は、他の薬物(アルコールなど)と比べると、おそらく少ない」としています。
今後、「医療大麻」の合法化は進むか
今回参考とした資料を読む限りでは、厳格な方法で評価したとしても、一部の病気については大麻の有効性がありそうだ、ということが言えそうです。一方で色々な病をたちどころに治すような「夢のクスリ」ではないことも確かなようです。
とはいえ、「大麻が病気に有効」なんて信じられないというか、けしからん!という気持ちにもなってしまいますが、よくよく考えてみると、たとえば麻薬指定されているモルヒネは、痛みをやわらげる効果が高く、日本でも医師の管理の下で医療目的に利用されています。
また、毒物のイメージが強いヒ素の化合物である「三酸化ヒ素」も、がん細胞を減らす効果があり、厳密に量を管理しながら白血病の治療に用いられています。
医薬品にはすべてメリット・デメリットがあり、メリットが勝ると認められれば、たとえ麻薬や毒物だとしても治療に用いられることはあるのです。
大麻に関してはメリットやデメリットに関する研究が蓄積しつつあります。その評価も年々進んでいるようです。日本でどうなるかはわかりませんが、世界的に見た場合、今回のドイツのような「効果が認められる病気(多発性硬化症など)で、他に有効な手立てがない場合」に使用を合法化する動きは今後、広がっていくのかもしれません。
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