中国で生きるシングルマザー松尾梨恵さんが触れた「優しさ」とは? 私が中国に住む理由
かつてロシアと日本の租借地となった歴史を持ち、今も街には当時の面影が残る大連市に、一人の日本人シングルマザーが暮らしている。松尾梨恵さん(39歳)は、3年前に離婚。帰国する選択肢もあったが、小学生の娘・涼沙ちゃん(10歳)と共に中国に残ることを選んだ。なぜ彼女たちは中国に住みつづけているのか?
松尾さんは6年前、元旦那の中国赴任に伴い、幼い娘を連れて家族三人で大連に引っ越してきた。中国に来たばかりの頃は専業主婦として、のんびりとした大連ライフを送っていたが、中国に来て2年目に転機が訪れる。価値観の違いからパートナーと離婚することになったのだ。元夫は仕事で忙しいため、涼沙ちゃんの親権は松尾さんが持つことになり、シングルマザーとしての中国生活が始まった。もちろん彼女には涼沙ちゃんを連れて帰国するという選択肢もあった。しかし、彼女は日本に帰らず、大連で生活し続ける道を選んだ。涼沙ちゃんがいつでもお父さんに会えるように、と彼女を思って決めたことだった。
まずは、シングルマザーとしての中国生活は、仕事探しから始まった。「あなたのような人は前例がないから雇えない」と多くの日本企業に断られ続けたが、ようやくある工場が彼女を受け入れた。それがいま彼女が働く眼鏡工場。彼女は工場内の安全性や作業効率の向上のため、工場内の危険や無駄を見つけ、それを取り除く仕事をしている。
彼女の仕事場は自宅から片道2時間かかる場所にあるため、毎日朝4時起きの生活を送っている。涼沙ちゃんを一人自宅に残せない松尾さんを支えるのは、中国人の安さん。娘の面倒を見る人がおらず、困っていた時に知り合いが安さんを紹介してくれた。「私は本当に子どもが好きなの。あなたの助けになりたい」と、これまで長い間松尾さん親子に寄り添ってきた。安さんの旦那さん・李さんも「毎日涼沙ちゃんの顔が見たい」と、親子が住むマンションの管理人になり、松尾さんが忙しいときは、代わりに涼沙ちゃんの遊び相手にもなる。
多くの中国の人たちに支えられながら、親子二人で過ごて来た大連の日々。それは松尾さんが「異郷の地で頑張る姿を娘に見せたい、そして、娘に自分の家族に自信を持ってほしい」と選んだ道だった。しかし、時が流れるにつれて娘のためと思っていたその選択は、自分自身のためだったと気がついたと言う。
「自分が一番頑張れる場所が中国だった。」
それがいま、彼女が中国に住む理由だ。