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「きれい!凄い!」だけじゃない「男鹿日本海花火」(2024/8/14開催)は楽しくて温かい花火大会

やた香歩里花火鑑賞士な旅ライター

秋田県の花火大会というと「大曲の花火(全国花火競技大会)」が有名ですが、実は県内では個性的な花火大会がたくさん開催されています。秋田県西部の男鹿市で開催される「男鹿日本海花火」もその一つ。

私がこの花火大会に興味をもったのは、花火大会を毎年たくさん見ている花火ファンの中に「男鹿花火が一番好き」「男鹿の花火は特別」という方が何人もいらっしゃったこと。東北は花火大会が盛んな土地なので、スケールや豪華さでいえば上をいく花火大会はいくつもあるはずなのです。それなのに「男鹿日本海花火が一番!」と言わせる理由は何なのか? それが知りたくて、秋田に足を伸ばしました。そして見た結論は…「わかる!!」でした。その感想をレポートします。

「男鹿日本海花火」とは?

2003年に有志による立ち上げで始まった、比較的新しい花火大会です。例年、曜日にかかわりなく8月14日に開催されていて、2024年も同様に、8月14日(水)の開催でした。

企画制作打揚は、秋田県の株式会社北日本花火興業。「大曲の花火」で内閣総理大臣賞を2回受賞、その他の花火競技大会でも優勝・入賞常連の、高い実力を誇る煙火店です。型物花火の名手としても有名で、猫やカエル、熊など、人気の花火がたくさん。各地の花火大会でもよく打ち上げられているので、北日本花火興業の花火は見たことがない、と思っている人も、実は地元の花火大会で見たことがあるかもしれません。

もちろん型物花火だけでなく、通常の花火もとても美しいのですが、個人的には花火での描写力に非常に長けているという印象があります。花火競技大会などでは、作品に意外なタイトルがついていたりすることもあります。「どんなものだろう?」と思うようなタイトルでも、見ると明確にそのテーマが表現されていたり、世界観やイメージがすんなり伝わってきたりするのです。これは単発の花火でも複数の花火を使った表現でも同じで、競技会でその作品を見るのをとても楽しみにしている煙火店の1つでもあります。

さて、そんな「男鹿日本海花火」は2024年で第20回目を迎えました。この記念すべき年のテーマは「青春の旅 ~二十歳、あの時えがいた未来~」
花火大会公式サイトによると、幅広い年代の人々の青春の一曲を、というコンセプトだそう。プログラムは15パートに分かれていて、そのうち2つのパートがメッセージ花火である以外は、すべて音楽つきのスターマイン(速射連発花火:多数の花火を一気に打ち上げる方式)でした。

各年代で一世を風靡した曲が花火とともに!

オープニングはポルノグラフィティの『アポロ』(1999年)で元気にスタート! 大玉がドーンと夜空に広がるのが合図のように、ワイドにスターマインが始まりました。

アポロ11号が月に行ったのは1969年、この後の選曲を振り返ってみると、これがなかなか意味深です。

バチバチバチ!と音の鳴る花火を多用する、賑やかな始まりでした。

『アポロ』に続いて流れてきたのは、チューリップの『心の旅』(1973年)。チューリップを一気に人気グループに押し上げたヒット曲で、今でもテレビなどで流れることがありますね。若者が人生をかけた旅立ちをするときの気持ちを歌ったものなので、まさに今回のテーマにぴったり。というかこの曲がキーコンセプトだったのではないかとさえ思えます。

流れる曲や当時の世相についてのナレーションもあるので、その時代を知る人にとっては懐かしく、知らない人にとっては新たな発見があったのではないかと思います。日本の歩みを振り返るような構成でもありました。

続いては山本リンダ『どうにもとまらない』(1972年)、令和の世に山本リンダでスターマインが見られるとは! リンダさんのイメージと重なる、艶やかなピンクを多用し、華やかな花火の連続です!

しかしその上をいくド派手さで来たのが、郷ひろみ『2億4千万の瞳~エキゾチック・ジャパン』(1984年)。サビのフレーズに合わせて開く花火が爽快!

メッセージ花火をはさんで、ステージ5「あの時、夢中で憧れて」では松田聖子『赤いスイートピー』(1982年)、中森明菜『少女A』(1982年)が流れました。まさに一時代を築いた、多くの少女が憧れた二人。

タイトル通りの赤でくるかと思いきや、聖子ちゃんは白系メイン。最後に歌詞に合わせて大きな赤い花が咲きました。
タイトル通りの赤でくるかと思いきや、聖子ちゃんは白系メイン。最後に歌詞に合わせて大きな赤い花が咲きました。

明菜ちゃんは青→赤に色変化したり、キラキラ点滅したり、ちょっと尖ったイメージ?少女の多面性を表現しているのかな?と思ったり
明菜ちゃんは青→赤に色変化したり、キラキラ点滅したり、ちょっと尖ったイメージ?少女の多面性を表現しているのかな?と思ったり

ステージ6「あの時、輝きだした時間」はカーペンターズ『青春の輝き』(1976年)。しっとりした曲調で、大玉が上がります。

…ただこの日、雨こそ降らなかったものの厚い雲がかかる曇天で、高く上がる大玉は雲に隠れてしまい…

煙も滞留しやすい状況だったので、せっかくのきれいな花火がよく見えかったのは、とても残念でした。

ステージ7は、小椋佳『さらば青春』(1971年)からの、太田裕美『木綿のハンカチーフ』(1975年)。

どちらも青春時代の切ない別れを歌った曲ですね。

最後は悲しい別れの後の新たな旅立ちを祝うような明るい花火で締めくくられました
最後は悲しい別れの後の新たな旅立ちを祝うような明るい花火で締めくくられました

ステージ8では2000年代に突入し、モーニング娘。『恋愛レボリューション21』(2000年)。女の子たちの個性がはじけたグループを象徴するようなカラフルで賑やかな花火に、観客の空気も一変!

メッセージ花火を挟み、ステージ10へ。「あの時、踏み出した一歩」のタイトルで、嵐の『Happiness』(2007年)が流れます。ここで来た!北日本花火興業お得意の型物花火! スマイル、猫、カエル、ハート、ドラ猫など次々に上がり、会場からは「おお~~~!」という感嘆の声が。

そしてこちらも「ザ・アイドル!」という感じのカラフルな花火でした。

ステージ11は宇多田ヒカル『First Love』(1999年)。楽しい曲が続いた後の、一転して切ないバラード。カラフルさより金色などの花火中心に、しっとりと見せる構成です。

涙のように流れる「柳」の花火が印象的。
涙のように流れる「柳」の花火が印象的。

ステージ12は、B’z『ultra soul』(2001年)で力強く! サビで、シャウトで、ギターソロで花火が躍動します!高揚感抜群!

パッションを感じるような赤系の色が印象に残るプログラムでした。
パッションを感じるような赤系の色が印象に残るプログラムでした。

ステージ13は、BoA『メリクリ』(2004年)。まさかの真夏のクリスマスソングです。大玉もたくさん上がりましたが、この時には雲がかなり流れていたのか、前半よりだいぶはっきり見えるようになっていました。

ステージ14はMr.Children『終わりなき旅』(1998年)。旅をテーマにしたこの花火大会の終盤を、終わらない旅で終わらせる演出。こちらも大玉連発で、ここでも北日本花火興業の美しい玉が映えます。

錦冠が連打される演出は、終演が近いことを感じさせます。

そしてフィナーレ、ステージ15は「あの時、えがいた未来」。そう、花火大会のタイトルそのものです。流れた曲はSuperfly『愛をこめて花束を』(2008年)。

打ち上げ場所全体を使った圧巻のフルワイド!

この曲自体は、花火大会ではよく使われる曲なのですが、これまでの流れがあるから余計に伝わってくるものがありました。

ここにきて風の神様が配慮してくれたかのように、煙も流れやすくなっていて、花火全体がかなりクリアに。

眩しすぎてうまく撮れなくてすみません…
眩しすぎてうまく撮れなくてすみません…

そしてすべてのプログラムが終了。

古い曲も新しい曲も、CMやドラマ、TVなどで取り上げられることが多い曲ばかりだったので、幅広い年代の人の記憶に残っている曲だったのではないかと思います。

「みんなに楽しんでもらおう」という気持ちが伝わるセレクトでした。

花火以外にも、随所に感じられる温かさと工夫

花火は美しさや迫力だけでなく、テーマに沿ったメッセージ性の高いものでした。
だけど男鹿日本海花火の魅力はそれだけでなく、花火大会全体の構成として、随所に配慮や思いやりが感じられることにもありました。

わかりやすい避難ルートの説明

花火大会開始前に、有事の時の避難ルートについての説明があったのですが、これがとても具体的でイメージしやすく、よかったです。パンフレットにも記載されているのですが、それをなぞるだけではなく、一番近い避難所については「定員は〇〇名なので、遠くに避難するのが難しい方を優先に」というお願いなどもありました。そういう具体的な説明があると、自分はどう動けばいいのか、たとえば「自分は元気だからなるべく遠くの避難所まで行って、近場は移動が難しい人に譲ろう」とか、「自分は小さな子供がいるから、年配の方と一緒だから、とにかく近くの避難所を目指そう」とか、行動の指針をはっきりと持つことができたのではないかと思います。もし本当に避難するような事態になった場合、大きな差が出るんじゃないでしょうか。

イベントの際にここまで具体的な説明をされたことは私には経験がなく、これは花火大会に限らず、いろんなイベントで実施した方がいいのではと思いました。災害はいつ、どんな状況でやってくるかわかりません。いざというときにどう行動すればいいか事前にイメージができている、スタッフさんにも共有されているというのはとても心強いです。

お盆の意味をかみしめる「合掌の花火」

オープニング花火の前には、ご先祖さまやお亡くなりになった方への「合掌の花火」が打ち上がりました。お盆の花火の意味を改めてかみしめる時間。
この花火大会が毎年8月14日固定なのは、普段は遠く離れていても、お盆で里帰りした家族とみんなで見ることができるように、という気持ちが込められているように思います。

想いを、言葉をしっかり届けるメッセージ花火

メッセージとともに打ち上げる「メッセージ花火」は、いろんな花火大会でもよく打ち上げられていて、ある意味定番。ですが男鹿日本海花火では、このとき読み上げられるメッセージが、他の花火大会より長かったように思います。花火大会によっては、全体的な時間の都合もありあまり時間をとれないこともあると思うので、どちらがいいというわけではないのですが、ここに時間をかけるところが男鹿日本海花火らしさかな、と思いました。

北日本花火興業さんの美しい花火も、1つ1つゆっくり鑑賞できましたしね。

ゴミの持ち帰りと片付けタイム

ゴミの持ち帰りを推奨する花火大会は多いです。男鹿日本海花火も持ち帰りをお願いしています。ですがここが一味違うのは、終盤に「片づけタイム」を挟んでいること。「おかたづけ」の曲を流す1分30秒の「片づけタイム」を設定しています。花火終了後はどうしてもバタバタするし、周りも一斉に動くので慌ててしまいがち。花火大会の終わりが見えてきたあたりで片付けの時間を設けることで、持ち帰りやすいようにまとめる余裕もできるし、何よりも「持ち帰ろう」という意識を高めることができますよね。

最初の避難経路の説明もそうですが、「お願い」をするだけでなく、どうすれば受け取る側がその行動をしやすくなるかをすごく考えているのが伝わってきます。

周囲への思いやりが伝わる言葉

会場の近くには大きな病院があります。そこに入院している方々への「来年は、会場で一緒に見られますように…」という言葉は、誰かの心の支えになるかもしれない言葉だったと思います。そして、花火大会の日であっても病院で勤務している方々への感謝の言葉に、誰かが地域の安全やライフラインを支えてくれているからこそ、花火大会を楽しめるのだということを改めて振り返ることができました。

MCを担当されたのは、企画進行ナビゲーターでもあるチャーリー・ホイ(保泉久人)さん。聞き取りやすいのはもちろんですが、優しく、時にきっぱりと伝える心のこもった言葉の数々が、会場全体を包み込むかのようでした。

「楽しかった」「花火すごかった!」だけではなく、何か心の中にぽっと灯りをともしてもらえたような、そんな温かい花火大会。

私にとっても、忘れられない花火大会となりました。

お盆期間中ということもあり、遠方からだと毎年行くのは難しいのですが、末永くこのまま続いて欲しいし、いつかまた訪れたときに、「ああ、これが『男鹿日本海花火』だなあ」と感じさせて欲しいと思う、そんな花火大会でした。

「第20回 男鹿日本海花火」公式サイト

花火鑑賞士な旅ライター

宮崎生まれの大阪育ち。人生の約半分を京都で過ごし、現在は千葉在住。もとからの旅好きが、関東移住を機に花火にはまり、旅の目的に花火鑑賞が加わりました。遠くへの旅行も好きだけど、身近なお出かけも好き。どこかで見た素敵なものを、誰かに伝えたい。知って欲しい誰かと知りたい誰かを繋ぎたい。日本酒ナビゲーターで温泉ソムリエで花火鑑賞士な旅人。

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