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<ガンバ大阪・定期便102>収めて、仕掛けて、ゴールを目指す。坂本一彩、覚醒のとき。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
ここまでのJ1リーグ戦には21試合に出場し3得点。 写真提供/ガンバ大阪

■積極性とゴールを意識して臨んでいた横浜F・マリノス戦。

 明らかな変化を感じたのは7月6日に戦った第22節・横浜F・マリノス戦だ。2試合ぶりの先発出場となった坂本一彩は、目を見張る存在感でチームの攻撃を前に向け続けた。

 聞けば18節・柏レイソル戦以降、途中からピッチに立つ試合が多かった中で、リマインドして臨んでいたことがあったという。『積極性』だ。

「試合に出ていることが少し自分の中で当たり前になっちゃっているような感覚があったというか。J1の試合やJ1選手のレベルに慣れるのは悪いこととは思わないんですけど、逆にそれが試合に出始めた時のようなフレッシュさを減らしてしまっているような気がしたんです。その中で、自分がいいプレーをしていた時はどういう状態だっただろうって思い返したら、もっとボールをたくさん触っていたし、チャンスに関わる回数も多かったな、と。シュートももっと貪欲に狙っていた気がした。その部分はマリノス戦でも『やろう』って思っていたところだったし、それがいい方向に出たなという手応えもありました」

 中でも『シュート』はより意識していたという。ここ最近の試合を通してシュートを打っている回数が少ない事実に対して、心のどこかで言い訳していたような自分を反省して、だ。少々、無理な体勢でも思い切って足を振り切ることでゴールネットを揺らしてきた過去の経験も思い出していた。

「チームとしての『攻撃』があって、僕の役割もあるので、何でもかんでも自分が打とうとは思っていません。周りにいい選手がいる中で、僕より(ゴールの)確率が高い選手がいるなら、そこをしっかり使っていこうとも思っています。ただやっぱり点を取るためにはシュートを打たなきゃいけないな、と。特に最近は、シュートをあまり打っていなくても、自分より確率の高い選手がいたとか、チャンスがなかったから、ボールは収められていたからOKみたいな感じで済ませてしまっていたので。練習でも少々無理をしてでもシュートを打つように心掛けていました」

 その意識がより顕著に表れたのが後半のプレーだ。62分、相手のDFラインの背後でボールを受けた坂本は、マリノスのセンターバック、エドゥアルドの対応を見極めて一気にスピードアップ。ペナルティエリア内に侵入し、そのエドゥアルドを振り切ってゴールににじりよる。

「ああいう形は練習でも出せていたし、相手が背の高い選手だったのでうまく懐に入っていけると判断して、体を入れ込みました。僕としては大きな選手と対峙した時の方が潜っていけるような感覚があるので、苦手意識もなかったです。僕がボールを持って仕掛けている間にエドゥアルド選手のスピードが少しだけ緩まった感じがしたので、その瞬間にグッと体を入れた感じです」

 ファウルをもらうことは一切、考えなかった。

「状況的に、あそこでPKをもらうようなプレーを選択する選手もいると思うんですけど、僕、下手すぎてそういうプレーができないんです(笑)。練習でも何回かチャレンジしたんですけど、全然うまくいかない。だからあの時もしっかり潜り込んだあと、ボールが自分の左側にあったから左足でファーサイドを狙おうと思っていました」

ファジアーノ岡山への期限付き移籍を経て、2年ぶりのガンバ復帰となった今シーズンは4月に『明治安田Jリーグ月間ヤングプレーヤー賞』も受賞した。 写真提供️/ガンバ大阪
ファジアーノ岡山への期限付き移籍を経て、2年ぶりのガンバ復帰となった今シーズンは4月に『明治安田Jリーグ月間ヤングプレーヤー賞』も受賞した。 写真提供️/ガンバ大阪

 結果的にシュートを打つよりも先に足を伸ばしてきたエドゥアルドにクリアされてしまったが、その直後、64分のシーンでは思い切りよくシュートを放つ。鈴木徳真から丁寧にヘディングで出されたパスを受けて反転し、素早く足を振り抜いて狙った「イメージ通り」のシュートだった。

「今までならああいうシーンは大抵、とっくん(鈴木)からきたボールを収めて、すぐにパスを出すみたいな感じで簡単にプレーしていたと思うんです。でも『シュート』を意識できていたから、少し無理をしてでも前を向いて足を振り抜けた。インパクトとしてはすごくいい感触だったんですけど、あとはコースだけって感じでした。決めたかったです。ああいうのが決まるようになっていけばより自分も乗っていけるんじゃないかと思っています」

■試合を重ねることで、自然と身についてきた『感覚』とは。

 彼の話を聞いていると「収める」ことがいとも簡単なプレーであるかのように思えてくるが、決してそうではない。実際、相手選手に対応されながら的確にボールを収め、尚かつ、それを優位に味方のプレーにつなげるには、足元の技術はもちろんのこと、体の入れ方、対峙の仕方や相手との距離間、視界の取り方、体の向きなど、様々な要素が必要になる。

 だが、昨今の坂本は、ボールが彼のところで収まることが当たり前だと錯覚を起こしてしまいそうになるほど、安定したポストプレーを続けている。マリノス戦も然りで、1対1の局面はもちろん、数的不利な状況でも相手選手をうまく背負いながらボールを収め、味方に繋げるシーンも多かった。

「僕は小さい頃から収めることに関して自信があったので、今になって掴んだ感覚ではない気はします。実際、何か最近になって動き方とかを変えたわけでもない。ただ、去年経験したJ2リーグとJ1リーグでは明らかに対峙するセンターバックの強さが違うので。実際、今年も試合に出始めた頃は相手のセンターバックに限らず、J1の選手のクオリティとか強さを感じていました。でも、試合に出る回数が増えるにつれて、そこに体が慣れてきたというか。もともと僕は頭で考えるタイプではなく、感覚派なので言葉でうまく伝えられないんですけど、体の使い方とか、どういうふうに体を入れ込めば、自分の形に持っていきやすい、とか自分なりに掴めてきたものはあります。だからといって、プレー中、それを考えて動いているわけでは全然ないんですけど(笑)。多分、試合を経験することで体が勝手に覚えていっている気がします」

アンダー世代の日本代表にも名を連ねてきた生え抜き。最近はその表情に精悍さも漂わせる。 写真提供/ガンバ大阪
アンダー世代の日本代表にも名を連ねてきた生え抜き。最近はその表情に精悍さも漂わせる。 写真提供/ガンバ大阪

 何より、1つ1つのプレーを自信を持って表現できるようになっていることも大きいと言葉を続けた。

「試合に出始めてすぐの頃は、僕のプレーを以前からよく知る周りの友だちとか親に、なんか他の選手に遠慮しているように見えるって言われることが多くて。僕自身は宇佐美(貴史)くんをはじめ、周りの選手にも助けてもらってすごく楽しくプレーしていたつもりだったんですけど。でも、映像を見返すと確かに『あれ? 自分らしくないな』って思うシーンもあって。それがなんでかなと思っていたら、最近になって単に自分の中に余裕がなかっただけなのかも、と気がついた。だから、さっきのシュートを打てなかったという話も、もしかしたら単に余裕がなかっただけなのかも知れないです(笑)。実際、マリノス戦もそうでしたけど、ここ最近は試合の中でも見えるものが増えてきたというか。ボールを収めた瞬間にパッと視界に入る景色も変わってきたし、意図せずとも自然に目に入ることが多くなった。その分、その場その場で、直感的に感じたことをプレーで表現できるようになって、描いた通りにパスが出せたとか、体を当てられた、みたいなことも増えています。まだまだ全然、数は少ないですけど。でも、そういう余裕が出てきたら、自然とプレーの選択にも自信が持てるようになってきて、たとえばシュート1つとっても『入るかな』じゃなくて『打ったら入るやろ』みたいな感覚にもなれている。それがもしかしたら一番大きいのかも知れないです」

■夏の暑さをものともせず「よく食べ、よく寝て、よく動く」。

 課題があるとしたら、その言葉にもある通り、シュートを打つ回数と精度を高めること。それを明確な『数字』につなげること。また、この世界で最も難しいとされるハイパフォーマンスを『継続する』ことも1つだろう。チームの攻撃がフィニッシュで終わる回数も増えていることやFWとしての責任はもちろん、同じポジションに林大地も加わった中での競争を意識すればこそだ。

「今はみんな調子がいいし、出たら順番に結果を残しているような流れもあるので。新加入選手も加わって、この先よりポジション争いはもっと激しくなっていくと考えても目に見えた結果を残していかないと試合に出続けられない。FWとして求められるものはやっぱり得点だと思うからこそ、しっかり危機感を持ってやっていこうと思っています」

 ちなみに、今後、より厳しくなることが予想される夏の暑さには不安を感じていない。練習後にはアイスバスや、冷却と加圧の機能を備えたコンディショニングマシンなどを使って疲労回復に努めながら、戦える体を維持できているとも胸を張る。夏場だからと食欲が落ちることもなく、取材をした日も練習が終わった直後に「モリモリ食べてきました」と坂本。それでも今年に入って体重は3キロほど落としたという。

「僕、めちゃ食べるんです。子供の頃から食欲だけはすごくて、逆に太らないように気をつけていたくらい。なんなら小さい時は、デブでした(笑)。学校で給食を食べて、家に帰ってきてお菓子、ではぜんぜん物足りないから、もう一回そこで白ごはんを食べるような子供だったので 。今も変わらず食欲は常にあるのでよく食べます! ただ、去年は筋トレをしすぎて体が少し重く感じていたので、今年は少し体重を落としたんです。それによってキレも出てきたし、すごく動きやすさも感じているので、この体重はしっかり維持できるように、よく食べて、よく寝て、よく動きます (笑)」

 一人暮らしということもあって、最近はチームメイトの中谷進之介に食事に連れていってもらうことも多いそうだが、「そこでもよく食べる」と笑った。

「シンくん(中谷)は普段からすごく話し掛けてくれるし、ご飯に連れていってもらうことも多いです。シンくんは優しいので、たくさん食べてもいいかなと思って、遠慮なく食べています(笑)。あと、食べるだけじゃなくて、試合の話をすることも結構あります。シンくんはやたらと試合の詳細を覚えているので僕のプレーについても『あそこは、自分でいけたんじゃないの?』とか『決められただろう!』とかって言ってくれて助かっています。シンくんから前につけてくるボールのタイミングとかについて、どういうボールがいいとか話し合うこともあります。それもプレーのアイデアとか思い切りの良さに繋がっているのかも。マリノス戦の前半、34分くらいのシュートシーンもシンくんからの縦パスで、いい感じで収めて前を向いて、振り抜いたんですけど、止められちゃったんで。次はちゃんと決められるようにしたいです」

公私でお世話になっているという中谷進之介と。「決められただろう!」という檄はいつも刺激に。 写真提供️/ガンバ大阪
公私でお世話になっているという中谷進之介と。「決められただろう!」という檄はいつも刺激に。 写真提供️/ガンバ大阪

 そんな決意を聞きながら、今年の4月、第8節・サガン鳥栖で今シーズンの初ゴールを決めた直後に話していた言葉を思い出す。

「去年、ファジアーノ岡山でも同じように点を取れなかったときに焦ったらあかんって気がついたので。今年も、仮にすぐに結果が出なくても焦らずに自分がやるべきことをやろうというマインドでやってきたし、目の前の1試合で自分が出せるものを全部出そうと言うことに集中していたので、焦りはなかったです。でもだからと言って、取れない時期が続くと周りからも『いつ、取るんだ』って言われちゃうので(苦笑)。そろそろ決めたいなとは思っていたし、実際に決めたら、すごく心がスッキリと、晴れやかな感じになって『次も取れるんじゃないか』って気持ちで練習向き合えている。FWはきっとその連続でゴールを重ねていけるような気がします。僕もゴールを取りながら、ゴールへの欲をもっと大きくして、また取るというサイクルを作り出せていけたらいいなと思っています」

 ゴールの匂いをプンプンと漂わせて、坂本は次節、その初ゴールを決めた相手、鳥栖とのアウェイ戦に向かう。「次も積極的に狙います」という決意がどう表現されるかはわからない。だが、いずれにせよ次に決める1点は、坂本をより走らせるゴールになる。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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