みんなの党・井出議員はなぜ特定秘密保護法案に反対したのか
特定秘密保護法案について、野党の中でいち早く修正協議を行い、賛成の立場を表明したみんなの党。しかし、26日の衆院での採決では、3人の議員が造反。1人が退席、2人が反対した。反対した1人、井出庸生議員は、同党のこの法案の担当者として委員会や本会議で何度も質問に立ち、法案の問題点を指摘する一方で、修正案の作成にも関わった。その井出氏が、党の処分を覚悟して反対したのはなぜなのか。
採決翌日の午後、議員会館の井出氏を訪ねた。氏は淡々と、反対に至る経緯や今の気持ちを語った。
ーー「反対」を決めたのはいつか。
自民党との合意を発表したのは19日。その内容が自分の思いとあまりに違っていたので、反対するしかないな、と。これでは賛成討論はできないと、人を代えて貰いました。でも、うちの党は内部の仲が悪いなどと言われていて、その問題と絡めたくないので、反対は1人でやろうと思っていました。ところが、先週の金曜日に林宙紀さんが来て、初めてこの法案について話をしました。彼が反対する決意だった。こちらもすでに腹は固まっていたので、「じゃあ、会見は一緒にやりましょう」ということにしたんです。
ーー退席ではなく、明確に「反対」としたのはなぜか。
私は実務の責任者なので、こそっと逃げるわけにはいかない。そうでなければ、退席ということもありえたかもしれませんが…。党内で、私に対する批判もあるだろうから、それもちゃんと受け止めなければいけない。党内には法案に反対、慎重な人は多かったのに、その意見をうまく汲み取って修正案に反映できなかった責任も感じていましたし。
ーー反対を決意する経緯を聞かせて下さい。
当初から、法案への危機感は抱いていました。その一方で、党のアジェンダ(公約)の中に「情報漏洩防止策を強化する」という文言が入っており、その必要性は理解しました。党内の意見も聞きながら、7項目の修正ポイントをまとめたのが13日です。自分としては、ギリギリこれなら許容できる、というものでした。ところが、「秘密の範囲を狭める」ために「秘密を外交・防衛分野に限定する」としていたものが、代表の”鶴の一声”で消えて、「秘密の範囲が際限なく広がらないようにする」策として、政府案別表にある3ヵ所の「その他の重要な情報」という文言を削除することになりました。「公益通報者を守る」「最高刑を懲役10年から、現行の自衛隊法の懲役5年に減じる」などの点も落ちた。最低限譲れなかった2点まで削られて、まったく自分の思いとかけ離れたものになってしまった、と思いました。
まずは公益通報者を守るべき
ーー「公益通報者を守る」という点を特に重視したのはなぜか。
法案では、報道の自由は守る、正当な取材なら罪に問わない、という文言があります。しかし、取材で最も大事なのは、情報を提供してくれる人。まずはそこを守るべきだと思います。インターネットが普及している今は、メディアが取り上げてくれない内部告発を自分自身で公表する、という人もいるでしょう。まずは公益通報者を守らなければ。努力義務として報道の自由を書き込むなら、公益通報者を守るということも、少なくとも同じように入れるべきです。
ーーそれは、井出議員がNHK記者として仕事をしていた経験から感じたことか。
そうです。私は横並びの記者クラブ体質の弊害も感じながら、警察や裁判所や県庁などの記者クラブに所属していて、それでも当局が隠したがる情報を取るのが記者の仕事だと思っていました。当局にとってイヤな情報でも、内部で教えてくれる人がいました。記者としての仕事は、そういう情報提供者、つまり公益通報者がいてこそできる、と感じました。
これで刑事裁判の原則を守れるのか
ーー懲役刑を5年に、というのは?
この法案ができると、違法な情報収集があるのではと不安に思っている人は多い。これまでも、車に無断でGPS装置をつけて、裁判で問題になったりしているケースもあります。違法な捜査が行われ、それがテロ防止だからと秘密に指定された場合にどうなるのか。いくら質問しても、「違法な行為は指定しません」の一点張り。しかも、裁判では秘密に指定したという外形事実の立証だけで、内容は弁護人にも明かさないわけです。これでどうやって「疑わしきは被告人の利益に」の原則を守れるのか。ただ、弁護人に特別な条件をつけて見せるとなると、今度はそのために刑事訴訟法の改正まで踏み込まなければならなくなるなど、修正案としてはなかなか難しかった。しかも、懲役10年が最高刑となれば、それに近い求刑がなされてしまうと、執行猶予がつかなくなります。実刑の確率がうんと高まってしまうのに、そんな外形立証だけでいいのか、という思いがありました。それで、せめて現行自衛隊法の懲役5年にするというのが、ギリギリの譲歩だと思いました。
これこそモノを言うべき法案だった
ーー官僚支配の打破を訴えてきたみんなの党が、官僚による情報支配を強化するのに与したのは、とても違和感を覚えた。渡辺代表は、どんどん自民党にすり寄っているように見える。
確かにアジェンダには「情報漏洩対策の強化」は書いてあるが、それを掲げて選挙戦を戦った者は、私が知る限り、衆院選でも参院選でも1人もいません。むしろ「自民党にもの申す」「責任ある野党になる」という立場を訴えてきました。参院選の時には、「野党で信頼できるのはみんなの党だけです」と言ってきました。
ところが参院選後、党内で不毛な議論をやっていた時、代表は「野党再編」ではなく「政界再編」と言っていたこともあり、自民党と組む場面が出てくるのかな、とは思っていました。私も、いい政策を実現するためには、自民党と組む場合もあるとは思います。経済政策で一緒にやっていくことがあるんだろうと考えていました。まさか、この法案でやるとは…。秘密保護法案こそ、みんなの党が一番厳しくものを言っていかなくてはならない法案でした。
しかし、代表は「こういう法整備は必要だ。法案を成立させることに意義がある」とのことで、「修正で欲張っちゃいかん」と言われました。そういうスタンスなんだな、と。渡ってはいけない橋を、代表が渡ってしまうことに、私も実務の担当者として手を貸したようなものだと責任を感じています。
「議席を返しなさい」と
ーー反対の表明は事前にしたのか。
本会議の前に代議士が集まった時に、法案についての説明などがあった後、手を挙げて、「いろいろ考えたけれど、賛成できない」と言いました。それから思いとどまるよう、幹事長から説得も受けました。代表からも、「党議に反すれば処分しなければならない。過去の例では、党役員の資格停止半年、政党交付金の停止半年。ご参考までに」と。「議席を返しなさい。比例代表の、党の議席ですから造反するなら返しなさい」とも言われましたが、「私個人を応援してくれる有権者がたくさんいるので、議席は返上しません」と断りました。実際、私がこのことで質問に立たなくなって、ずっとネットの中継を見ていてくれた方から、「大丈夫ですか」と電話がかかってきたりもしました。
ーー参議院はどうなるだろうか。
参院議員の中には、この法案の反対集会に出ていた人もいますし、非常に苦悩していると思います。
ーー今、思うことは?
今は、「決める政治」とか言って、「正解はこれだ!」と言われると、そこに流れやすい、思考停止になりがちではないか。1つひとつの政治テーマに、人々の生活、子供たちの将来が関わっているが、その時の政府がやっていることが「正解」とは限らない、と思います。
ーー井出議員のそうした考えは、おじいさま(井出一太郎元衆院議員、三木内閣の官房長官)の影響か。
どうでしょうか…。祖父は、私が物心ついた時には引退していましたから。祖父の弟に作家の井出孫六という人がいて、「抵抗の新聞人桐生悠々」という本を出したりしていました。(井出家に)リベラルな気風があるのかもしれませんが、私の場合は、むしろ両親が自由に(生きるように)育ててくれたことが大きいのではないでしょうか。