今日から企業の「SOGIハラ」対策が義務に。「パワハラ防止法」施行
「パワハラ防止法」が施行。大企業は今日から、中小企業は2022年4月から、パワーハラスメントの防止対策を講ずることが義務付けられる。
今回パワーハラスメントに、いわゆる「ホモネタ」など、性的指向や性自認に関するハラスメント「SOGIハラ」や、本人の性的指向や性自認を本人の同意なく第三者に暴露する「アウティング」も含まれることになった。
日本ではこれまで、LGBTに関する差別やハラスメントを禁止する法律がなかった。今回のパワハラ防止法施行により、初めて性的指向や性自認(SOGI)に関する企業の対応が法律上の”義務”となった。
「お前ホモみたいだな」はSOGIハラ
パワハラ防止法では「優越的な関係を背景とした言動」「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」「労働者の就業環境が害されるもの」という3つの要件を満たすものをパワーハラスメントに当たると定義している。
そして、「身体的な攻撃」「精神的な攻撃」「人間関係からの切り離し」「過大な要求」「過小な要求」「個の侵害」というパワハラに当てはまる6つの類型を提示している。
その中でも、特にSOGIに関する点では、例えば「精神的な攻撃」という点で、「相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を含む」ことが明記されており、「お前ホモみたいだな」といった、いわゆる飲み会でのホモネタなどが含まれる。
こうした言動は、被害者が性的マイノリティの当事者であるかないかは関係がなく、侮蔑的な言動自体がハラスメントに当たり得るという点は注意しておきたいポイントだ。
また、「個の侵害」では、SOGIに関する情報は”機微な個人情報”であるとされ、例えば「本人から聞いたんだけど、Aさんって実は元女性だったんだって」というような、本人の了解を得ずに他の労働者に暴露するといった「アウティング」も含まれることが明記された。
さらに、「人間関係からの切り離し」という点でも、例えば「君はオカマみたいだから営業は任せられない」といったようなものもパワハラに当たり得ることが国会答弁などからわかっている。
SOGIハラ・アウティング防止対策のポイント
パワハラを防止するために、企業はどんな対策を講じなければならないのか。パワハラ防止法では、事業主に対し10の項目で対策の内容を示している。
つまり、「パワハラはダメ」ということを明確にし、従業員等にしっかり伝える。また、パワハラに関する相談窓口をつくり、適切に対応できるようにする。
もしパワハラが起きてしまった場合、事実関係を調査したり、再発防止策を行い、パワハラを相談した際にプライバシーが守られるようにしたり、告発した人を不利な状況にしてはならないといった対応が求められている。
その中でも、特に「SOGIハラ」「アウティング」に関する点で、いくつか気をつけておくべきポイントがある。
例えば、「方針の明確化と周知」については、「SOGIハラ・アウティングをしてはいけない」ということを就業規則に明記するのはもちろん、そもそも何が「SOGIハラ」「アウティング」に当たるのか、どうすれば未然に防ぐことができるか、研修などを通じて周知・啓発を徹底することが求められる。
他にも、「相談に対する適切な対応」では、SOGIハラに関する相談窓口を設置するだけでなく、実際に相談がきた際に、企業は適切に対応できるようにしておかなければならない。
そのためには、相談担当者がLGBTやSOGIに関する適切な知識を有しておく必要があり、例えばレズビアンであることをアウティングされ、職場でハラスメントを受けたという相談があった際に、「で、実際に君はレズビアンなの?」と詮索したり、「気にしすぎじゃない?」といったような二次被害に繋がらないようにする必要がある。
また、「プライバシー保護」の点でも、特にアウティング防止対策で「人事情報の共有」などの場面で注意しておきたいポイントがある。
例えば、法律上の性別は男性だが、職場では女性として働いているトランスジェンダー社員の性別情報が、人事の情報共有や引継ぎの際に勝手に共有されてしまうなど、社内制度上の個人情報の扱いにも注意が必要だ。
性別に関する情報は、就活時のエントリーシートから、入社してからの社会保険関係の手続きや労働契約書、健康診断や制服・名札など多岐にわたる。
中には、社内のみで取り扱っているものや、行政に提出する必要があるため法律上の性別で記載しなければならないものもあるだろう。
重要なことは、関係する情報がどの範囲に共有されるものなのかを、丁寧に本人へ事前に説明し了承を得ておくことだ。
相談を受けた際にも、性的指向や性自認に関する情報をどの範囲にまで伝えているのか、どの範囲にまで共有して良いのかを本人に確認しておくことが求められる。
今回のパワハラ防止法は、パワーハラスメントそれ自体に罰則を設けているものではない。
しかし、パワハラ防止法で規定されている取り組みを行う義務を怠った場合、企業は都道府県労働局からの助言・指導・勧告を受ける可能性があり、場合によっては企業名が公表されることが示されている。
また、近年はSOGIハラやアウティング被害に関する訴訟も提起されており、民事訴訟ではパワハラ防止法が根拠として用いられる可能性もある。
大企業から広がるLGBT施策
先月公表された厚労省のLGBTに関する職場実態調査では、大企業のうち、性的マイノリティに関する施策を実施している企業は半数近くに上った。とはいえ、中小企業も含めると実施率は1割に下がり、一般的に広がっているとは言えない。
先月27日に開催された、LGBT施策に取り組む企業の担当者が集う「LGBT-Allyサミット」では、企業約40社が参加し、パワハラ防止法施行に合わせてどのような取り組みを進めていくかが共有された。
中には、以前から設置していたハラスメント相談窓口の担当者へ、改めてSOGIに関する知識を身に着けるための研修を企画している企業や、今回のパワハラ防止法施行のタイミングに合わせて、特にSOGIハラやアウティングを解説するメルマガを従業員に送信するなどの事例もシェアされた。
LGBTに関する法整備を求める全国団体「LGBT法連合会」は今日、パワハラ防止法に対する声明を発表し、厚労省のみならず、総務省や文科省、人事院など各省庁・分野の施行準備に触れながら「この新たな法制度の施行を歓迎するとともに、履行の徹底を呼びかけたい」と述べた。
「SOGIハラ」「アウティング」とは何か、どんな言動がハラスメントに該当するか、まだまだ一般的な認知が広がっているとは言えないが、今回のパワハラ防止法施行により、全ての企業で正しい認識が広がり、多様な人々がより安全に働ける職場環境の整備へと繋がることを期待したい。