FRBが米長期金利の上昇(米国債の下落)を止めることは考えづらい理由
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米国の10年債利回り(以下、長期金利)がここにきて上昇基調に転じつつある。つまり、米国債は下落トレンド入りしたようにみえる。
米長期金利は2018年11月末あたりに3%台となっていたが、そこから低下基調に転じた。2019年1月のFOMCでは利上げ停止を示唆。6月にはFRBの利下げ観測などから2%を割り込んできた。
7月のFOMCでは利下げを決定し、9月と11月のFOMCでも利下げを決定した。利下げの理由としては、景気下振れリスクに保険をかける必要があるとしていた。経済実態が悪化していたわけではないものの、米中の通商交渉の行方などがリスク要因として意識された。
2019年8月に米長期金利は1.5%割れとなったが、そこから徐々に切り返し、11月に2%に接近した。このまま上昇基調に転じるかとみられた。米中の関税合戦については、ブレーキが掛かりそうな雰囲気となり、リスク回避の反動を招き、その結果として米長期金利が上昇した。
ところが2020年に入り、再び様相が変わってきた。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大がリスク要因となってきたのである。ロックダウンなどによって、米国の4~6月のGDPは過去最悪の落ち込みとなったのである。
2020年3月10日に米長期金利は一時、0.31%まで低下した。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によるリセッション懸念に加え、サウジアラビアによる原油増産観測などから原油先物価格が急落したことで、ダウ平均は2013ドル安と過去最大の下げ幅となるなどしたことで、リスク回避の動きを強めた格好に。
その後も米長期金利は低迷していたが、8月に0.5%あたりまで低下したあと、じりじりと上昇基調に転じてきた。新型コロナウイルスのワクチン普及による景気回復への期待もあったが、米国株式市場がハイテク株などを主体に切り返してきたことから、リスク回避の反動のような動きとなって、米長期金利は反発した。
米長期金利は1%あたりが節目となっていたが、2021年に入り、その1%を突破してきた。米大統領選挙でバイデン氏が勝利し、米ジョージア州の上院決選投票で民主党候補が2議席とも獲得した。民主党が大統領と上下両院の過半数を握るブルーウエーブが実現。これにより、大型の追加経済対策が実施されるとの観測により、米国の景気回復期待などに加え、米国債の増発も意識されての、米長期金利の上昇となった。
インフレ期待の上昇や、FRBが正常化を模索するのではとの観測もあった。しかし、それよりも米国の債務悪化が意識され、国債増発による国債需給バランスへの影響が危惧されての、ここにきての米長期金利の上昇といえるのではなかろうか。
米長期金利の次の節目は1.2%近辺となる。ここも突破すると1.5%も視野に入る。ひとまず1.5%近辺が節目となろう。このあたりまでの上昇となれば、株価への影響も限られよう。FRBは日銀のように金融政策の誘導目標に長期金利は含まれていない。FRBは米長期金利の上昇を抑止するとの見方があるが、現状はそれを押さえ込まなければならないという立場にはない。
むしろ景気回復やインフレへの期待が同時に強まるようであれば、デーパリングもいずれ視野に入る可能性もあり、ここで米長期金利を無理矢理に押さえ込む必要もない。また、米国の債務悪化が意識されて米長期金利が上昇し、そのためにFRBが米国債の買い入れを増額するなどすれば、それは財政ファイナンスやマネタイゼーションと呼ばれるものとなる。それをパウエルFRB議長や新財務長官に就任予定のイエレン氏が賛同するとは思えない。