日銀が普通の金融緩和策に戻すのも大仕事になってしまった
日銀の高田審議委員は29日の講演のなかで、「粘り強く金融緩和を続けるなか、私自身としては、現在の日本経済について、不確実性はあるものの、2%の物価安定の目標実現が漸く見通せる状況になってきたと捉えています」と語った。
高田氏は懇談会後の記者会見で、3月会合でのマイナス金利解除の判断について「2%の物価目標の実現が視野に入ってきている状況、その認識に沿って3月、その次も対応していきたい」とも語っていた。
これに対して29日のブラジルでの植田日銀総裁の会見では「私の考えでは(見通せる状況に)まだ至っていない」と述べ、引き続き賃金動向などを見極める考えを示した。
3月中旬に集中回答日を迎える春季労使交渉について、総裁は「確認作業の中で一つの大きなポイントだ」と述べていた。
可能性としては、あまり時を置かず、3月19日の金融政策決定会合での金融政策の正常化を行うべきかと思う。4月になると不確実性が高まる恐れもある。
それでは、もし金融政策の正常化を行うとすれば、何をどうすると予想されるのか。これについては高田委員から下記のような示唆があった。
「今日のきわめて強い金融緩和からのギアシフト、例えば、イールドカーブ・コントロールの枠組みの解除、マイナス金利の解除、オーバーシュート型コミットメントの在り方など、出口への対応も含め機動的かつ柔軟な対応に向けた検討も必要と考えています」としていた。
「イールドカーブ・コントロールの枠組みの解除」という表現にやや驚いた。あれだけ慎重であった内田副総裁なので、枠組みは残すのではないかと個人的には懸念していた。しかし、「枠組みの解除」となればまさに正常化に向けた動きとなる。
マイナス金利の解除については、日銀の当座預金の付利に関する三層構造を元の一層に戻すと予想されている。すでに銀行もそれを睨んだ動きを始めている。
「オーバーシュート型コミットメントの在り方」については、これこそ、方向転換を拒む日銀の象徴的なものとなっていた。金融政策は緩和と引き締めの双方向であることを示すべきであろう。
とはいえ、正常化によって通常の緩和策に戻すだけであり、物価高にもかかわらず、緩和を続けていることもたしかなのではあるが。
普通に戻すだけで、どうしてこのような大仕事となってしまったのであろうか。まだ日銀は方向転換をするなという声も聞こえてくるが、普通の緩和策どころか緊急時対応の積極的な金融緩和策をいま本当に必要なのか。それ以前に、異様な金融緩和を10年以上続けてもそれによる直接的な効果は限られるなか、副作用が大きい政策を続ける必要が、どうしてあるのかがわからない。