金正恩に「使い捨て」にされた女性兵士の悲惨な話
経済難の慢性化となし崩し的な市場経済化の中、北朝鮮社会では拝金主義がはびこり、すっかり世知辛い世の中になっている。
米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は、「子どもを軍隊に送り出すのも恐ろしい世の中になった」とする、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋の話を伝えた。そこで語られたのは、金策(キムチェク)出身の19歳の女性の悲惨な境遇についてである。
彼女は朝鮮人民軍(北朝鮮軍)に入隊し、平壌にほど近いある部隊で勤務していた。ところが、前回の冬季訓練中に高所から落下する事故に巻き込まれた。朝鮮人民軍第11号中央病院に搬送され、数ヶ月間治療を受けたが、回復は困難だという診断を受けた。
男性本意の社会的風潮の中、女性兵士は軍内で弱者の立場にある。それが重傷を負ったとなると、いかに弱い立場に置かれるかは想像に難くない。
(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為)
ちなみに北朝鮮の首都・平壌の地下鉄には、「栄誉軍人席」というものがある。軍隊での勤務中に何らかの事故で負傷し、障害を抱えている「傷痍軍人」のための優先座席だ。最高指導者のために体を張って尽くした彼らは、社会的には尊敬される立場にあり、国から様々なサポートを受けられる――はずだった。
現状は全く逆だ。北朝鮮は、そんな栄誉軍人に厚遇するどころか、厄介者扱いし、カネをむしりとろうとしている。
首を動かせず横になっていることすら苦しいと訴える彼女に追い打ちをかけたのは、病院側の仕打ちだ。鑑定除隊(病気による除隊)をせざるを得ない状況となったが、病院は鑑定除隊証明書の代金として500元(約7800円)を突きつけてきたのだ。
両親は、娘が障害を抱えて一生暮らすことになったことも悔しいのに、家に帰りたいと泣きじゃくる娘を連れ出すこともできず、苦しい思いをしている。
北朝鮮は「医療はすべて無償」と謳っているが現実は異なる。絆創膏1枚から高度な医療機器に到るまですべてのものが有料となっており、患者は市場で購入した薬を持参し、医者にワイロを渡して治療を受ける。
(参考記事:【体験談】仮病の腹痛を麻酔なしで切開手術…北朝鮮の医療施設)
朝鮮人民軍所属の彼女とて例外ではない。治療費まで請求されたのか否かは不明だが、診断書1枚に500元もの大金を要求されたことを考えると、治療費も別途負担したと見るのが自然だろう。また、治療費やワイロを露骨に要求するのがはばかられるため、診断書代の名目でカネを要求したとも考えられる。
同様の話はまだある。咸鏡南道(ハムギョンナムド)の別の情報筋は、軍隊に行った知人の息子を話を切り出した。彼は軍隊に入隊したものの、3年で何らかの事故で足を切断する大怪我を負った。
長男である彼は、朝鮮労働党員になりたい一心で軍隊に行った。誠実に兵役を勤めれば、入党に必要な推薦書を得られるからだ。しかし、障害を抱えた体で一生を暮らすこととなった。部隊は家族を呼びつけて「連れて帰れ」と通告したという。
両親の務める会社が車を出してくれたおかげで、息子を家に連れ帰ることはできたものの、この一家は国を恨んで暮らしているという。前途洋々な若者が最高指導者と国家のために働いた結果、障害を抱えることになったのに、国は一切の補償をしようとせず、むしろ「除隊費用を払え」と言ってきたのだ。子どもを軍隊に送り出した親たちは、そんな一家の話を聞いて激しく怒っているという。
(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為)