フィッシャーとブレイナードで変わるかFRB、日本への影響も
米国のオバマ大統領は、元イスラエル中央銀行総裁であったスタンレー・フィッシャー氏をFRB副議長に、元財務次官(国際問題担当)のラエル・ブレイナード氏をFRB理事に指名した。ジェローム・パウエル理事の任期は1月に終了するがこちらは再指名した。この3氏の指名はいずれも上院の承認が必要となる。
スタンレー・フィッシャー氏については以前にも紹介したが、米国とイスラエルの両国籍を持ち、昨年6月まではイスラエル銀行の総裁だった。バーナンキFRB議長やドラギECB総裁などを教えた大学教授だけでなく、世界銀行チーフエコノミスト、IMF筆頭副専務理事、民間銀行などで実務も経験している。オバマ大統領は、世界で最も優秀で経験豊かな経済政策の専門家のひとりとして広く認められていると語ったが、それに嘘偽りはないであろう。
ラエル・ブレイナード氏は日本にかなり関係のある人物である。ご主人は知日派として知られる元東アジア・太平洋担当国務次官補のカート・キャンベル氏だが、ラエル・ブレイナード氏は昨年2月に日本の円安政策に対して懸念を示した人物とされている。
昨年2月12日のG7による緊急共同声明について、匿名のG7関係筋が「G7声明は誤って解釈された。同声明は、円の過度な動きに対する懸念を示すものだった。G7は円の一方的なガイダンスを懸念している。日本をめぐる問題は、モスクワで今週末開かれるG20会議で焦点になる」と発言していた。この匿名の人物こそ、議会での承認を待っているルー次期財務長官の代理で出席していたブレイナード財務次官との見方があった。
オバマ大統領はサマーズ氏を議長に就任させたかったが、それはかなわなかった。その際に副議長候補とされたのが、このブレイナード氏であった。今回、実力経験共に優れたフィッシャー氏が副議長に指名されることで、ブレイナード氏は理事というかたちになったが、ただの理事という枠には収まらないのではなかろうか。
また、バーナンキFRB議長やドラギECB総裁が一目置く存在であるフィッシャー氏の存在は、イエレン次期議長を補佐するだけの立場には止まらないと思われる。イングランド銀行のカーニー総裁(前カナダ中央銀行総裁)も「フィッシャー氏が世界の中銀コミュニティーに復帰することは喜ばしい」と歓迎し、主要国の当局者らで構成される金融安定理事会(FSB)議長などとして、これまでフィッシャー氏と密接に仕事をしてきたと強調したそうである。
フィッシャー氏がイエレン氏を差し置いて前に出るようなことは考えられないが、今後のFRBの舵取りはイエレン氏とフィッシャー氏が二人三脚で行うことが予想され、そこにブレイナード氏が睨みをきかすのではなかろうか。
イエレン氏と日銀の黒田総裁は旧知の間柄だそうであるが、たしかにハト派と呼ばれるぐらいに考え方も近いものがあるのかもしれない。しかし、フィッシャー氏の考え方と現在の日銀の異次元緩和策とは隔たりがありそうである。フィッシャー氏は理論が先走る政策よりも、現実の足下の実体経済を見ながら政策を取るとみられ、現在の欧米中銀の主流となっているフォワード・ガイダンスに対しても懐疑的とされている。この大御所が現在の日銀の金融政策についてどのような認識を持っているのかについても興味深い。
いずれにしても、今月末でバーナンキ議長の任期は切れ、来月からFRBはイエレン新議長を中心とした新体制に生まれ変わる。フィッシャー氏とブレイナード氏が就任したとしても、すぐに方針が大きく変わるようなことはないであろうが、徐々に両氏の影響力が強まることも予想される。FRBは世界の金融経済に大きな影響力を持つ存在だけに、この点は注意が必要であり、アベノミクスと呼ばれた日本の政策にも影響を及ぼす可能性がある。